京都・老舗履物匠の裏にできた新名所、サンダル・本・焼き菓子が集う“マーケット”へ

  • 写真:福森クニヒロ 文:小長谷奈都子

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店名「GION NAITO 123 MARKET」の「123」は、スタートにちょうどいいし、口にしやすいから入れたそう。今後は毎月1日、2日、3日にイベントを開催予定。。

品のある佇まいと雅なデザイン、オーダーメイドの履き心地のよさで、着物好きが憧れる京都の老舗履物匠「祇園ない籐」。その裏手になにやら気になる複合ショップが新しくオープンした。名前は「GION NAITO 123 MARKET」。

祇園ない籐の5代目・内藤誠治さんが生み出した新しいカタチのサンダル「JOJO」のショップ、本を使った新しいサービスを提供する「組や」の書架、ハーブやスパイスが香る焼き菓子専門店「Harmonika」のカフェという3軒が集まった、まさに“マーケット”だ。

場所は、団栗通から京寿司の名店、千登利亭の脇の細い路地を北に上がった左手で、看板と暖簾が目印だ。半地下の店内はもともとJOJOの工房だったところ。工房を別の場所に移転することになった際、JOJOの誕生以来、空間デザインを手がけてきたHIGASHI-GUMIのスタッフで、京都で古書を扱う「組や」として活動していた中澤健矢さんに声をかけての立ち上げとなった。

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もとの空間を活かして、3つのショップが共存

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細い路地を奥まで進んで、看板と暖簾を見つけたらそこが「GION NAITO 123 MARKET」。

「中澤くんは、HIGASHI-GUMIで、帝京大学などの教育機関の図書館や、企業のオフィスや個人宅などで『本のある場』をつくる仕事をしていました。4年ほど前に子育てのこともあって京都に引っ越して『組や』をスタートしたけれど、コロナ禍で閉めてしまった。少し前からうちでやろうという話は出ていたけれど、工房の移転の話が出た時に、『あれ、ここでできる?』『じゃあやろう!』と急にまとまった話なんです」と内藤さん。

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「家族や親戚みたいなもんで、そこにいるから一緒にやらなきゃしょうがない」と笑う内藤さん(右)と中澤さんの付き合いは長い。

驚くことに、内装はもともとあったものの組み合わせ方を変えただけ。広いワンフロアを仕切る棚は在庫や材料の収納に使っていたもので、照明ももとからあるものだ。20年前にこの建物を建て替えた時、先代の忘れられない言葉がふたつある。

「どう建て替えるかという時に、親父が『がらんどうがつくりたいんや』って言ったんです。そのおかげでいまではなんでもできる空間になっている。もうひとつ、ここらへんはまだまだ昔の雰囲気が残っていたんですが、『裏がいつまでも裏やとは限らへんぞ』と。だから、裏にもお蔵みたいな設えで入り口もつくっていた。前々からつながっていて、自分たちがしているというより、たくさんの人にやらせていただいている感じですね」

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サンダル、本、焼き菓子を通して“ものの見方”を提供

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哺乳瓶の乳首に使われる特殊ゴムを使用した前ツボは、指にぴったりフィットして長時間履いても痛くないし、疲れない。

ショップインショップというカタチではなく、市場の中にさまざまなお店が集まるイメージで、店名に「マーケット」と冠した。扱うのはサンダル、本、焼き菓子だが、それぞれものの見方を提供しているのだと内藤さんは話す。

「京都ってなにをやってもうるさいんですよ。『こうでしょ?』『違う』、『こうでしょ?』『知らない』っていうところが僕にとっての京都らしさ。老舗の専門店や歴史のあるお寺などがあって、京都らしいってみんな思うかもしれないけれど、自分たちの独自の見方を自分たちが大事にもっているというのが京都らしいなと思います。京都の町衆はうっとうしいんですよね。自分のことは棚に上げて、正直、付き合いたくない(笑)」

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店内の一角でJOJOの制作に黙々と取り組む内藤さんの長男、惟基さん。この道に入って2か月という。

さて、店内に入ると、色とりどりのJOJOがずらりと並んで圧巻だ。ベーシックなラインから今シーズンの新作まで約40型が揃っている。なかには、昨年誕生した、モードな要素が強いウエッジソールサンダルの「kodori」、健康に特化し、足裏から姿勢を整える「ゆびまたkappo」も。

「お誂えの草履では台をつくる職人さんがどんどんいなくなっているけど、JOJOシリーズはソールから新しい履物をつくっているので、これなら熟練の職人でなく、若い職人でもつくれる。たとえ草履業界がペちゃんこになってなくなってしまっても、クオリティ維持と修理ができてつくり続けられるもの、という課題にずっと手をつけられないでいた。それが、JOJOを始めたおかげで、新しく取り入れた素材にこれまでの技術や方法をミックスして、その課題をクリアできたんです」

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左から、昨年登場した足裏から姿勢を整える「ゆびまたkappo」¥15,000、ウエッジソールサンダルの「kodori」¥55,500、来年10周年を迎える定番人気の「JOJO」¥25,000〜。丸洗いや、パーツの交換、修理ができるのも大きな魅力。

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個人の本棚の一部を紹介する新サービス

「組や」では、単なる本の販売にとどまらない、本を使った新しいサービスを提供。そのひとつとして蔵書の整理がある。個人の本棚を整理して、ここでその余った本を個人のプロフィールとともに紹介していこうという試みだ。

「先日、中澤くんが僕の蔵書を整理してくれたんだけど、30年間一度も触らなかった本を触ってしまうことで、いろいろな情報が動き出すんですよね。その情報がいまの活動をレイヤーとして助けてくれていることに気づく。そうすると、これから先の情報の使い方も変わってくる。自分の頭の中で起こることで、すごく個人的な体験なんですけど、本棚を収納場所にしちゃいけないんです。並べ直して情報が動き出すと、自己承認力も上がるんですよ」と内藤さん。その体験は中澤さんにとっても「棚が人になっていて」面白かったという。ではどのようにここでは展開しているのだろうか。

「来られた方に引っかかるようなカタチと塊にしています。大学の図書館をつくる仕事で研究していたところ、実際、本棚にある本をぱっと認識できるのはせいぜい90cm幅くらい。句読点というか文節というか、このサイズ感は大事にしていますね。内容で並べているというより、空間に与えるオブジェっぽさや塊感を考えるようにしています」と中澤さん。

現在、立方体のブロックを積み重ねた棚に並んでいるのは、中澤さんの自宅にあった本だが、今後は定期的に入れ替えていくという。並んだ本はカフェで自由に閲覧できる。

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一枚板の大きなテーブルで、コーヒーやお菓子、本を楽しめる。壁のコラージュは、古い『芸術新潮』や『太陽』を切り抜いてコラージュしたもの。

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カフェで香り高いタルトとコーヒーを

いちばん奥にあるのが、フランス料理店などで経験を積んだパティシエの松本泰さんが手がける「Harmonika」のカフェスペース。これまでは卸やポップアップでの販売のみで、自らのショップを構えるのはここが初めてだ。フィナンシェやガレットブルトンヌ、カヌレショコラが棚に並び、冷蔵庫には季節のフルーツを使ったタルトやタルトショコラがスタンバイ。ブラマンジェやクレームダンジュといったイートインのみのメニューも揃う。

「お薦めは大きめサイズのタルトです。ハーブを直前に盛り込むことで、飾りではなく、香りや味わいまで楽しんでいただけるよう心がけています。お菓子づくりで大切にしているのは、使う素材の個性をしっかり自分の中に落とし込むこと。それを生かしたものをつくりたいと思っています」

繁華街やメインストリートに近い祇園にありながら、路地の奥、さらに半地下という隠れ家感満載の「GION NAITO 123 MARKET」。靴を脱いで、スリッパ代わりに履くJOJOでもまたリラックスムードが高まり、ついつい籠もってしまいそうな新スポットだ。6月28日(火)まで阪急メンズ大阪にて開催中の、「『JOJO naitou』POP-UP STORE−創業140年以上の歴史をもつ老舗履物匠が届ける新しいサンダルのカタチ−」展も合わせてチェックしたい。

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「Harmonika」の「アメリカンチェリーのタルト」¥1,500、コーヒー¥550

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GION NAITO 123 MARKET

京都府京都市東山区亀井町43-2
TEL:なし
営業時間:11時〜18時
定休日:火
https://manaproject.shop-pro.jp
www.instagram.com/kumiya777/
https://www.instagram.com/harmonika_kyoto/

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【全写真】京都の老舗履物匠の裏にオープンした、新名所となる“マーケット”へ

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店名の「123」はスタートにちょうどいいし、口にもしやすいからだそう。今後は毎月123日はイベントを企画予定。

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細い路地を奥まで進んで、看板と暖簾を見つけたらそこが「GION NAITO 123 MARKET」

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「家族や親戚みたいなもんで、そこにいるから一緒にやらなきゃしょうがない」と笑う内藤さん(右)と中澤さんの付き合いは長い。

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哺乳瓶の乳首に使われる特殊ゴムを使用した前ツボは、指にぴったりフィットして長時間履いても痛くないし、疲れない。

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左から、昨年登場した足裏から姿勢を整える「ゆびまたkappo」¥15,000、ウエッジソールサンダルの「kodori」¥55,000、来年10周年を迎える定番人気の「JOJO」¥25,000〜。丸洗いや、パーツの交換、修理ができるのも大きな魅力。

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店内の一角でJOJOの制作に黙々と取り組む内藤さんの長男、惟基さん。この道に入って2か月という。

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一枚板の大きなテーブルで、コーヒーやお菓子、本を楽しめる。壁のコラージュは、古い芸術新潮や太陽を切り抜いてコラージュしたもの。

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「Harmonika」の「アメリカンチェリーのタルト」¥1,200、コーヒー¥600