映画『キャメラを止めるな!』のあらすじと見どころ。あの大ヒット・コメディがフランスでまさかのリメイク

  • 文:上村真徹

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© 2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINÉMA - GAGA CORPORATION

2018年に日本で大ヒットを記録した、上田慎一郎監督の異色ホラーコメディ『カメラを止めるな!』をフランスでリメイクした『キャメラを止めるな!』のあらすじと見どころを紹介する。

※以下、一部ネタバレを含みます。

【あらすじ】30分ワンカットで撮影するゾンビ映画の生中継は成功するか?

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ホラー映画の生中継直前にアクシデントが発生し、監督レミー(左)と妻ナディア(中央)が俳優の代役を務めることに。© 2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINÉMA - GAGA CORPORATION

監督もキャストも公開当時は無名でありながら、熱狂的な口コミで興行収入31億円突破という社会現象的ヒットを記録した『カメラを止めるな!』。その前代未聞の映像体験は海外でも話題となり、なんとフランス版のリメイク作が誕生。その名も『キャメラを止めるな!』が劇場で公開される。

企業の宣伝ビデオなど面白味のない仕事を日々淡々とこなしている監督レミー(ロマン・デュリス)に、ある撮影の依頼が舞い込む。それは、「山奥の廃墟でゾンビ映画の撮影が進められていたが、俳優たちの下手な演技にキレた監督が、本物のゾンビを召喚してクルーを襲わせ、超リアルな映像をモノにする」という内容の大ヒット日本映画『ONE CUT OF THE DEAD』のリメイクを30分間生放送、しかもカメラ1台でワンカット撮影するというものだった。

あまりの無茶な撮影に最初は断ろうと思ったレミーだが、元女優の妻ナディア(ベレニス・ベジョ)にチャンスだと勧められ、また映画監督志望の娘にいいところを見せたくて引き受けることに。本番3週間前からリハーサルを始めるが、俳優たちが脚本や演出に文句を付けたりワガママを言ったり、製作チームはいっこうにまとまらない。そして撮影開始1時間前、日本人プロデューサーのマダム・マツダ(竹原芳子)の介入に怒った主演俳優が降板し、監督役とヘアメイク役の俳優が交通事故で入院するという緊急事態に。そこで急遽レミーが監督役を、そして見学に来ていた妻がヘアメイク役を務め、本番がスタートする。

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【キャスト&スタッフ】オスカー受賞監督とフランスを代表する名優たちが集結

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無茶な要求を繰り返してフランス人スタッフを困惑させる日本人プロデューサー役で竹原芳子(中央)が出演。© 2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINÉMA - GAGA CORPORATION

本作の監督を務めるのは、『アーティスト』でアカデミー賞5部門に輝いたミシェル・アザナヴィシウス。「オリジナルの巧妙な構成に舌を巻いた」というアザナビシウス監督は、『カメラを止めるな!』と同じく「30分1カットでゾンビ映画を生中継する」という設定に基づく3部構成のストーリーを忠実に再現。その上で独自の演出を随所に盛り込み、リメイク版ならではのオリジナリティを醸し出している。

主人公の監督役を演じるのは、『真夜中のピアニスト』や『タイピスト!』で知られるフランス屈指の人気俳優ロマン・デュリス。彼の妻役は『アーティスト』でアカデミー助演女優賞候補となり、アザナビシウス監督の実の妻でもあるベレニス・ベジョ。他にもマチルダ・ルッツやルアナ・バイラミら新世代の注目株が集結。そして日本人プロデューサーのマダム・マツダを、オリジナル版でもプロデューサー役で強烈なインパクトを残した竹原芳子が怪演している。

さらにスタッフもアザナヴィシウス監督の信頼するメンバーが勢揃い。なかでも注目は、『グランド・ブダペスト・ホテル』と『シェイプ・オブ・ウォーター』で2度のアカデミー賞に輝いた音楽家アレクサンドル・デスプラ。劇伴で笑いをとるという離れ業は要注目だ。

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【見どころ】フランスでも「何があっても、カメラは止めない!」

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本番中も撮影現場では不測の事態が続発するが、それでもスタッフたちは生中継を続けようと奮闘する。© 2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINÉMA - GAGA CORPORATION

リメイク版の完成映像を見た『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督は、「紛れもなく“カメ止めであり”、同時に“カメ止めでないもの”に仕上がっていた」という感想を抱いた。その要因として、アザナヴィシウス監督が「日本文化の驚く点は、多くのことをあえて言葉にしないところ。だからこそ物語があれだけ素早く展開する。しかしフランスでは登場人物がやたらしゃべる。変化した状況を説明せず放置することに、フラストレーションを感じてしまう国民なんだ」と指摘するような、日本とフランスの文化の違いが大きく影響している。

アザナヴィシウス監督が追求したのは、“カメ止め”独自のリズムを崩すことなく、物語の構造をとことん探究し緻密に再構築すること。第1部にあたる冒頭30分間の生中継(リメイク版でもワンカット撮影)では、“出来の悪いホラー映画”にユーモアや演出的な遊びを加えることで、B級映画の世界観とある種の不条理さを演出。続く第2部では主人公に感情移入できるような人間ドラマの伏線を張り巡らせ、それまでの点を線につなげる第3部のクライマックス(生中継の舞台裏)へ突入。誰もが失敗作を作っていると自覚していながら、何があっても最後までやり遂げようとする──そんな“カメ止め”と相通じる熱い映画愛が、第1部の不条理感と第2部の伏線と絶妙に絡み合い、笑いと涙の相乗効果を絶妙に奏でている。

日本を熱狂させたB級ホラーコメディが、「そう来たか!」と唸るオスカー仕込みの演出で爆笑と感動のエンターテイメントに進化。両作品を見比べれば、映画を愛する気持ちに国境がないことを嬉しく思えることだろう。

『キャメラを止めるな!』

監督/ミシェル・アザナヴィシウス
出演/ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョほか 2022年 フランス映画
1時間52分 7月15日(金)全国公開

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