和歌山県南紀白浜。関西圏ではリゾート地として知られるものの、全国的にはそのアクセスの悪さから馴染みのない人も多いだろう。だが、羽田空港からは約1時間でアクセスできるフライトが1日3便あり、東京近郊から訪れるには決して遠くはない地といえる。
そんな南紀白浜でいま注目されるのが、ホテル川久だ。バブルの1989年に、総工費400億に上、延床面積2万6000平米、建設期間は2年を費やし建設された。建築家永田祐三氏が監修し、中国、ヨーロッパ、イスラム、日本と、世界各地の匠の技術を融合させており、まさに豪華絢爛なホテルだ。そして今年6月、その歴史価値の保存と伝承を目的として昨年オープンした「川久ミュージアム」で、初の展覧会「KAWAKYU ART Exhibition 2022」が6月1日より始まった。
この展覧会は、いわゆる「アーティスト・イン・レジデンス」の発表の場。多数の応募の中から選ばれた6名のアーティストが約1カ月このホテル川久に滞在し作品を制作した。
世界中の匠の技術を結集させた「夢の城」である川久の本来のテーマは、「作り手の力を最大限発揮する場所」。かつて川久を創設したクリエイターたちが世界に類を見ない夢の建築を実現させたように、川久が持つその場の魔力と創作の化学反応を起こすことを目的としているという。
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世界中のクラシックな意匠と、若きアーティストらの斬新な作品のコントラストが圧巻
建設時にイタリアのジョルジオ・チェリベルティが描いた巨大な天井画が覆う宴会場には、稲垣智子の《Mirrors》が展示された。屏風のような形状のスクリーンに投影された映像作品で、ホテル川久で働く従業員たちが出演している。大迫力の空間と、稲垣ならではのビデオインスタレーションの融合が独特の空間を生み出している。
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廃棄物や不要なものを活用したインスタレーションを多く手がける井上修志は、和室の宴会場に、《床を上げる》を展示。言葉通り部屋中央部の畳が10cmほどせり上がっており、地層のように現れた断面をよく見ると、コンセントやリモコンなどの廃棄物が詰まっている。さまざまな示唆を孕んだ作品が、巨大な和空間で静かに主張する。
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メインのエントランスホールでは来場者を迎える巨大なオブジェや、寿司カウンターに設置されたネオンサインの作品など、ホテル川久の異空間とコラボレーションするようにミュージアムの全スペースを使い、映像から絵画、インスタレーションまで合計12点の作品が展示されている。
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そして会場であるホテルの意匠にも注目したい。外壁を飾るのは、中国の紫禁城にのみ使用を許された鮮やかな「老中黄」の瑠璃瓦だ。館内は、イタリアの職人によって敷き詰められた緻密なローマンモザイクタイルの床や、フランス人間国宝ゴアール氏の手による壮大な22.5金の金箔ドーム天井に加えて、ロビーの壁面には、メトロポリタン美術館の鑑定で2世紀頃のシリアの鹿と豹のビザンチンモザイク画が埋め込まれている。野外には、イギリスの彫刻家バリー・フラナガンによる幅6メートルものうさぎのブロンズ像など、美術的価値の高いアーティストを世界中から招集し造られた、まさに夢の建築ともいうべきもの。
左官職人・久住章が主宰する「花咲団」による疑似大理石でつくり上げた1本1億円の26本の柱や土佐漆喰で仕上げたホテルエントランスの大庇ほか、陶芸家・加藤元男による信長塀や陶板焼きのタイル壁、煉瓦職人・高山彦八郎による煉瓦模様など、日本人の匠も数多く参加。世界中の技術や文化を組み合わせたような建築は、全ての作品の調和のとれている摩訶不思議な空間だ。
創業当時オーナーが世界中から買い付けたオーナーズコレクションとして、中国清代前期の七宝焼きや陶器、ダリ、シャガール、横山大観などの作品も展示されている。今回の企画展の作品と並んで展示されており、その比較も面白い。
ホテル川久は、1993年に優れた建築作品と設計者に贈られる「村野藤吾賞」を受賞。そして2020年に金箔表面積でギネス世界記録™に認定された。そんな建築とアートの融合体である川久ホテルがその歴史価値の保存と伝承を目的としオープンした川久ミュージアムの試みは、今後も目が離せない。
KAWAKYU ART Exhibition 2022
会期:2022年6月1日〜6月30日
川久ミュージアム(ホテル川久):和歌山県西牟婁郡白浜町3745
TEL:0739-42-2662
開館時間:10:30〜18:00 ※入場は閉館の30分前まで
料金:一般¥1000、高校・大学生¥800、中学生以下と白浜町民は入場無料