土に親しみ、バイオダイバーシティを学ぶ子どもたち。 フランスで始動した、エルメス財団による「MANUTERRA」プログラムとは?

  • 文:高田昌枝

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昨年9月、エルメス財団のイニシアティブのもと、フランスの小学5年生から高校1年生までを対象にしたプログラム「MANUTERRA」が始まった。菜園でのパーマカルチャー体験を通して、未来を担う子どもたちの生物多様性と生態系に関する意識を高めていこうという試みだ。

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マニュアルを手に、アニメーターの話に聞き入る子どもたち。

ひと足早く真夏が訪れたように、真っ青な空が広がった5月中旬。フランス東部、アル=ケ=スナン王立製塩所の庭園に、25名ほどの小学生が生真面目な顔で集合した。今日の野外授業のテーマは、昨年9月から自分たちでつくり上げてきた小さな菜園の手入れだ。

「雑草をどう見分ける?」「そもそもなぜ雑草を抜くの?」といった基礎知識を、庭づくりのプロであるアニメーターが絵を描きながら説明する。「植物に撒く水はどこから来るの?」と質問を投げかけると、発言したい子どもたちが一斉に手を挙げる。

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地下水や雨水の再利用など、水の管理をめぐる話に、子どもたちが手を挙げ発言を求める。

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雑草なら全部抜けばいいわけではない。抜くべき草はどれ?

前回のワークショップでつくった、イラクサの煮汁を発酵させた特製肥料を水に混ぜ、大きなジョウロをふたりがかりで運び水をやったら、後半の授業は輪になって木陰に座り、バイオダイバーシティと外来種の物語に耳を傾ける。2時間のワークショップは、子ども向きに優しく語られているとはいえ、情報たっぷりの充実した内容だ。

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大きなジョウロの水は、みんなでつくった特製のイラクサ肥料入り。

「MAUTERRA」という名のこのプログラムは、フランス企業エルメスによる非営利団体、エルメス財団のイニシアティブのもと、新学期を迎えた昨年9月から実験的に開始されたもの。フランス国立教育庁や、国中を修業して回る職人たちの団体「コンパニョン協会」の庭師や造園家の協力を得て、王立製塩所の庭を舞台に、ブザンソン学区の小学校5年生から高校1年生までの6学年150人がテストプログラムに参加した。

1回2時間、12回のコースが組まれ、実際に土に触りながら、植物の見分け方からタネの収穫、冬には土づくり、春には種まき、添え木づくりなどの活動が行われる。子どもたちは夏休み前にもう1回、待ちに待ったインゲン豆やサラダ菜の収穫に訪れることになる。

「パーマカルチャー」の手法で、未来を担う世代にバイオダイバーシティや水の管理の大切さを実体験させているこのプログラム。今年度のテストは好評で、その成功に力を得て、来年度からはブルゴーニュ・フランシュ=コンテ地方で本格始動するという。

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初のMANUTERRAが行われた、ユネスコの世界遺産にも指定されているアル=ケ=スナン王立製塩所の庭園。来年からは県全体に対象校を増やし、本格始動する。

2008年に誕生したエルメス財団は、サヴォワールフェールの継承、作品制作、環境保護、そして連帯の奨励を4本柱として、アーティスト支援やワークショップなどのさまざまなプログラムを行っている。16年からは木工、石膏や革細工のテクニックでオブジェを作るプログラム「MANUFACTO」を提案、学校教育の中で手しごとに親しむ機会を提供しているが、この「MANUTERRA」は、いわばその菜園版。子どもたちは土に親しみ、命に触れ、エコシステムを体感するとともに、造園や農業をめぐる職業や生物多様性への理解も深めていくことになる。

日本でも昨年、素材をテーマにした「スキル・アカデミー」が開始され、中高生向けのワークショップが始まったばかり。エルメス財団の活動は、未来を担う世代に向けて、広がりを見せていきそうだ。