デザイナー佐藤卓の展覧会が開催。仕事と作品、2つの距離と関係とは

  • 文:川上典李子(ジャーナリスト)
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佐藤卓の仕事と作品、両者の距離と関係を知る

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冷蔵庫にある『明治おいしい牛乳』(株式会社 明治) © Takashi Homma

牛乳やガムのパッケージ、広告ビジュアルなど、デザイン事務所を率いて幅広く手がける佐藤卓。一方で作品を制作し、画廊で発表することも継続。仕事と作品を同時に紹介する今回の個展は、佐藤による試みの場でもある。

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佐藤卓●1955年、東京都出身。 東京藝術大学大学院修士課程修了後、株式会社電通入社。84年に電通を退職し佐藤卓デザイン事務所設立。2018年TSDOに改名。「ニッカ ピュアモルト」の商品開発から始まり、「明治おいしい牛乳」「エスビー食品 スパイス&ハーブ」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザインなどを手がける。その他、施設のサインや商品のブランディング、企業のCI、NHK Eテレの子ども向け番組制作に参加するなど、活動は多岐にわたる。

佐藤卓は全身で瞬間をつかまえる。趣味としているサーフィンで一瞬の波をとらえるかのように。佐藤が率いるデザイン会社「TSDO」の仕事は、企業が求めるものに向かい、とらえ、デザインの可能性を広げるかのように示されている。そのデザインは、私たちの周囲に溶け込むように存在している。

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捨てられた『キシリトールガム』(株式会社ロッテ)の包み紙 © Takashi Homma

このような仕事を継続するうちに、佐藤の中でふと生まれる発想があるという。仕事と切り分けた「作品」として制作し、20年ほど前からは銀座のアートギャラリーで、3年に一度の個展として発表されているものだ。

「自然に湧き上がるものがあって、こんなことをしてみたらどう見えるか、どう感じられるのだろうかと、実験がしたくなってしまうんです。片足を必ずデザインに置きながら、もう片足はどこに持っていってもいいんじゃないか。そんな感覚で制作しています」

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『PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE “ANIMALS” 』(株式会社 イッセイ ミヤケ)

TSDOでの仕事と自発的な作品。それらを同一空間内で披露する。仕事は地下に、2004年以降の作品は1階に。他に映像作家の山中有と制作した映像を2階で紹介する。

展示には、TSDOによるデザインが日常の中にある風景をホンマタカシが撮った写真も。展覧会名「inLIFE」に込める佐藤の想いが重ねられたものだ。

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『東京メトロ銀座線 銀座駅地下通路』(株式会社 松屋)

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『オノマトペの屋上』(富山県美術館)

「デザインを特別なものであるとするのは、残念で深刻な誤解です。以前から伝えていることではありますが、デザインは日常の生活を支えるもの。至る所にデザインはあり、それによって当たり前の生活が成立しているのです。このことに気づくと、生活がより豊かに、心地よくなるはずと考えてきました」

「また、デザインにはその後があります。製造には資源を使い、使用後はごみにもなる。デザインはどこから来てどこに行くのか、そのことに思いを馳せてもらい、デザインとはなにかを考えてもらえる場になれば嬉しい」

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『ほしいも神社』(一般社団法人「ほしいも学校」、堀出神社)

今回、地階で紹介される「仕事」と、1階にある「作品」の関わりも興味深いところ。行き来するごとく相互に関連することを意識しているのではと思いきや、「分けています。思いっきり」と明快だ。「仕事は依頼を受けて返すプロセス。作品が顔を出してはいけないと考えます」。そうだ、佐藤の著書『塑する思考』(新潮社)でも、「(仕事は)自分の作品ではなくクライアントの作品。プロのデザイナーの責任がある」と記されていた。

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佐藤卓展『MASS』(巷房)

「同じ人間の中で起こっていることなのでどこかでつながっているのでしょうが、その関係を整理したこともないし、自分でもわからない部分がある。どんな関係性が見えてくるのか、展覧会を通して私自身が確認してみたいという気持ちもあります」

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佐藤卓展『2つの実験』(巷房)

自発と他発、主観と客観など、対照的で異なることを自覚しつつ生み出されてきた表現の数々だが、こうして一度に目にできることで、佐藤ならではの両者の関係や相互の影響がにじみ出るように伝わってくるのではないだろうか。デザインに対する佐藤の姿勢を示すとともに、本人にとっての実験の場ともなる展覧会。これはぜひとも立ちあいたい。

『佐藤卓TSDO展〈 in LIFE 〉』

開催期間:5/16~6/30
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー
TEL:03-3571-5206
開館時間:11時~19時 ※木、金は20時まで。入館は閉館30分前まで
休館日:日曜日、祝日
入場料:無料
※開催の詳細はサイトで確認を
www.dnpfcp.jp/gallery/ggg

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※この記事はPen 2022年6月号より再編集した記事です。