アメリカのパリピはいかに搾取されるのか? 「ガーシーch」と同じ男性優位のヒエラルキーシステム

  • 文:速水健朗
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最近、こんな本を読んだ。『VIP――グローバル・パーティーサーキットの社会学』。元モデルでもある経済社会学者が、パーティガールとしてスーパーリッチたちが開催するパーティに潜り込み、その経済圏についてレポートするという話だ。パーティー会場は、高級ホテルのペントハウスだったり、リゾート地のプール付きコンドミニアムだったり。そして、大勢の若くて美しくてスリムな“girl”たちが集められる。彼女たちを手配するのは、プロモーターの役割だ。プロモーターたちは、日常から若い女性が多い街やパーティに出入りし、富裕層が好みそうな女性と連絡を取り合い、リストをつくっている。このプロモーターの話、最近どこかで聞いたことがある話だと思った。そうか、彼らはアメリカ版のガーシーだ。

YouTubeの「ガーシーch」は、たまに観てしまう。いや、嘘。かなり観ている。そりゃあ「下世話」だろうし「あんなの信じてるの?」とも思われるだろうし、ゴシップに夢中なんて頭が悪そうに見えるというのも、まあ正論だ。とはいえ、観てしまう。ガーシーは、芸能人たちが西麻布のバーやラウンジで開く飲み会やパーティーにモデルやアイドルの卵、インフルエンサーの女の子たちを呼ぶという役割を果たしてきた。本人は“アテンド"と呼んでいる。そんな職種があることも、芸能人のパーティーも、そもそも西麻布の街のどこにその手の店があるのか想像もつかない。どこかにあるユートピア、どうしたら行けるのか、本当に教えてほしいとタケカワユキヒデでなくとも思うところ。

だがガーシーは、そのユートピアから転落していく。違法賭博で多額の借金を背負ったのだ。その後、芸能人に会わせると言って金を受け取るという行為まで(多数)働き、結果、友だちをすべて失った。友だちを失うのは当然だ。だがガーシーの話はここからが本筋である。彼は海外に逃亡し、暴露系YouTubeに転身する。その後の話は、書くまでもない。省略。彼の暴露の支持者は、芸能人のゴシップ以上に、“無敵の人の転落”“復習の物語”に興奮している。和製“ジョーカー"のようなものか。

話を『VIP――グローバル・パーティーサーキットの社会学』に戻す。“girl”たちは、朝まで飲んだ後に、引き続き主催者の打ち上げにまで参加していたりする。さらに移動して次のパーティにも呼び出される。パーティーガールと聞くと単に楽しい生活を謳歌する人々に思えるが、実態は過酷な労働者でもあった。稼いでいるのはプロモーターたちである。また、主催者の金持ちたちは、どれだけ浪費しようと財産がすり減るわけでもなく、むしろステータスを上げていく。結局、搾取されているのは、アテンドされた“girl”たち。本書から浮かび上がるのは「名声と男性優位のヒエラルキーシステム」である。

またガーシーの話に戻るが、彼の暴露の目的は、アクセス数や投げ銭に応じて生まれる金銭だし、そもそもガーシーはアテンドする側、つまり搾取をしている側だ。だけど、「名声と男性優位のヒエラルキーシステム」の内部告発者になってしまっている面がちょっとある。あくまで無自覚な告発者。「ガーシーch」用語でいう「流れ弾」だ(暴露相手以外に被害を与えてしまうガーシーの得意なムーブのこと)。彼自身にジャーナリズム的要素や女性への搾取を許さないといった気概はない(たまに見せてくるのがどうかというのもある)。彼が言っていることが真実だとも思わないし、擁護するつもりもない。単なるゴシップ。でもときたま、さまざまな社会の“男性優位”のヒエラルキーや搾取の構図を浮かび上がらせるところはある。

本の話を書いているのか、ガーシーの話なのかわからなくなってきたのでこの辺りで切り上げておく。そろそろ生配信の開始時間なのだ。

速水健朗

ライター、編集者

ラーメンやショッピングモールなどの歴史から現代の消費社会をなぞるなど、一風変わった文化論をなぞる著書が多い。おもな著書に『ラーメンと愛国』『1995年』『東京どこに住む?』『フード左翼とフード右翼』などがある。

速水健朗

ライター、編集者

ラーメンやショッピングモールなどの歴史から現代の消費社会をなぞるなど、一風変わった文化論をなぞる著書が多い。おもな著書に『ラーメンと愛国』『1995年』『東京どこに住む?』『フード左翼とフード右翼』などがある。