メルセデス・ベンツが新生スマートのピュアEVでやりかったこととは?

  • 文:小川フミオ
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「スマート Smart」がピュアEVのニューモデル「#1」を発表した。2022年4月7日にベルリンでお披露目されたこのモデル、アバターと呼ばれるAIエージェントが常駐して、ドライバーはボイスコントロールでさまざまな操作を行えるなど、あたらしい次元のコネクティビティを実現しているのも話題だ。

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Yシェイプと呼ばれるキャラクターを与えられたヘッドランプまわり

スマート#1は全長4270ミリのボディに、2750ミリというかなりのロングホイールベースをもった4ドアSUV。66キロワット時という日産アリアB6と同等の容量をもつ駆動用バッテリーと200kWのモーターを組み合わせた後輪駆動だ。

「スマート#1は、スマートブランドの再出発となるモデルであり、同時に、私たちのあたらしいデザインDNAである”Sensual Producty”に基づいたスタイリングを採用しました」

メルセデス・ベンツやメルセデスAMGやメルセデス・マイバッハを含めたグループ全体のデザインを統括するゴーデン・ワゲナー氏は、プレス向けリリースのなかで、上記のように説明している。

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ローンチエディションはホワイトとゴールドのコンビネーションがカラースキーム

プロダクティって英語はあるんだろうか。ひょっとしたら、いままではSensual Purity(日本法人は「官能的な純粋さ」と訳出)がデザインテーマだった。音的にそれにひっかけたうえ、ボディの作りやテクノロジーを、官能的なスタイリングを実現するために使って、新世代のデザインを創出する、って意味なのかなと、私は思ったりしている。

あたらしさという点では、車名としてはかなりめずらしい「#」が注目される。「#1」だと従来はナンバーワンと読んだが、今回は、ハッシュタグでおなじみの記号ととらえたほうがいいかもしれない。

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スマートフォンとクルマとが機能的に結びついている

「人間を中心にすえた技術を採用して、ひとと場所と経験をつなげていくのが、スマート#1のコンセプトです」(スマート)。そのひとつが、冒頭で触れたアバターの設定。さらにドライバーはさまざまなデータにクラウドでアクセスできる。通信内容は情報保護のためエンコードされるという。

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ルーフをプラン(俯瞰)で見たとき、フロント部分のパーティションが目をひく(なにかの機能と関係しているのだろうか)

全体の印象はかなりクリーン。フロントグリルはほぼ廃止され、上下幅の細いアクセントモール(おそらくLEDライトが埋め込まれている)が左右のヘッドランプをつないでいる。EVのシステムが最高の性能を発揮するためには、適宜、冷却と加熱を必要するため、空気をとりこむエアダムはバンバー下だ。

スマートのスタートは、1997年。都市内移動を主眼に置いた2人乗りコンパクトカートして「スマート・シティクーペ」が初登場した。そもそもは、腕時計のスウォッチとフォルクスワーゲンとの共同プロジェクトだった。

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従来のForTwo ED(エレクトリックドライブ)

私も1990年初頭に、フォルクスワーゲン本社に呼ばれ、当時の呼び名「スウォッチカー」の説明を受けたことがある。このときフォルクスワーゲングループを率いていたカール・ハーン取締役会会長の腕のスウォッチ・クロノグラフを、なんだか鮮明におぼえている。

スマートの方向転換は2019年。メルセデス・ベンツ(当時の社名はダイムラーAG)と、同社の筆頭株主である浙江吉利控股集団(Zhejiang Geely Group Holding Co., Ltd.)とのあいだで、ピュアEVブランドにすることが決定されたのだった。

自動車にくわしい読者のかたならご存知のように、スマートは2007年に「ForTwo ED(Electric Drive)」というピュアEVを発売している。そのあとモデルチェンジ。

それなりに走りを楽しめるモデルであったが、航続距離やパワーという点では”中継ぎ”感は否めなかった。今回の「#1」でついにクリーンナップ路線の始まり、ということになるだろうか。無理やり野球にこじつけると、だけど。

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ホワイトとメタリックなゴールドとで構成されたローンチエディションのインテリア

スマート#1のスタイルについて、前出のチーフデザインオフィサー、ゴーデン・ワゲナー氏は「成熟したもの」と自己評価。「クールで、美をあたらしいスマートなかたちで表現しています。あたらしく、新鮮で、魅力的で、#1はスマートをデザインでもトップクラスに押し上げるポテンシャルをもっています」。

内装は、素材感が強い。つまり、樹脂パーツに塗装するというより、金属的であり、場所によってはセラミックのような雰囲気を感じさせる。中央に2つ、左右に1つずつ、大きめのアウトレットを持つダッシュボードのデザインテーマは、これまでのメルセデス・ベンツ車との関連性を思わせる。

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ドライバーの眼の前には計器盤というより情報モニタースクリーン

物理的なスイッチ類はほとんど見当たらず(よく見ると中央の12.8インチのモニターの下にいくつか並んでいる)、高い位置にまで上げられた「フローティングセンターコンソール」など、このクルマにしかないデザインが作りあげられているのが印象的だ。

「ローンチエディション」なる初期の限定車では、ホワイトの表皮をもったシートが、あえてダークトーンで仕上げられた天井やミラーやドア内張りと強いコントラストを生んでいて、新鮮にみえる。

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300Nmもの大トルクで走るのでシートも乗員のからだをしっかりサポートする形状

シートじたいは、中央部分が同系色の市松模様になるなど、細部にも気配りがなされている。そもそもスマートは内装に凝っていた。さいきんのBEV(バッテリー駆動EV)は、車内で快適な時間を過ごせることを前面に押しだしているのをみても、その考えかたが正しかったことが証明されたといえる。

たとえば、オンラインでさまざまな情報にアクセスできる機能などスマートフォンのような使い勝手がめざされているし、オーディオはビーツBeatsの13スピーカーシステムで構成されている。スマートがやるかどうかわからないが、そのうち、個々の乗員が同時に違った音楽コンテンツを楽しめるようなシステムも開発されるのではないかと私は思っている。

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サブウーファーを含めて13のスピーカーで構成されるBeatsのシステムも用意される

Specifications
全長×全幅×全高 4270x1822x1630mm
電気モーター×1 後輪駆動
最高出力 200kW
最大トルク 343Nm
バッテリー容量 66kWh