カーニバルのサンバ・パレードはリオデジャネイロのものが世界的に有名だが、ここサンパウロでも毎年行われている。昨年はパンデミックにより中止。今年はオミクロン株の感染拡大で2月末開催の予定が、季節外れの4月末に延期されて行われた。人気のサンバチームが出場した最終夜は満員御礼の盛況ぶりだった。
サンバのリズムには軽やかにステップを踏むダンサーの姿がイメージされるが、そのリズムに人を踊らせる力があることを裏付ける脳科学の研究結果が発表された。
今年2月、ドイツのマックス・プランク研究所所属の研究者らは「サンバ打楽器のビートにおける変化する同調性を聞くこととグルーブを感じることの神経相関」という論文を発表した。マックス・プランク研究所はこれまで数々のノーベル賞受賞者を輩出してきた由緒ある研究機関だ。
研究者らは、サンバビートへの人間の脳の反応を調べるため、ブラジル人のサンバ・ミュージシャンらに、パレードに用いる9種のリズム楽器を演奏してもらい録音。その後、ジャストタイミングの音源と、意図的にスネアドラムの音だけを28ミリ秒、55ミリ秒、83ミリ秒遅らせた計4つの音源を用意し、それぞれ85デシベルと95デシベルの異なる音量で再生し、サンバ奏者12人と一般の被験者21人に聞いてもらいながらMRI検査を行った。

結果は、ジャストタイミングに近く、より大きな音量の再生に対して、被検者らの左脳の補足運動野、運動前野、上前頭回、中前頭回が著しく活性化し、その反応はリズムに親しんだサンバ奏者において強かったそうだ。
「脳内の運動領域の活動は、グルーブを感じることによって身体を動かしたくなる衝動を誘発する神経基盤を培う可能性があります」と主任研究員のアンネローゼ・エンゲル博士。人を踊らせる音楽は世界に多いが、100を超える打楽器アンサンブルが大音量で奏でるパレードのサンバには特にその効果が高いのだという。
音楽は脳卒中やその他の神経疾患の治療に使用されている。音楽には患者に動くことを動機づけ、運動シークエンスを再学習させる効果があることが知られている。「サンバのようにグルーブの強い音楽は神経リハビリに高い効果を発揮する可能性があるのです」とエンゲル博士は語る。
そんな学術研究のことなど知らずとも、サンバのパレード会場を満席にした観客と出場者。楽しい一夜を求めて訪れたのはもちろんだが、彼らの脳内は、いろいろと行動が規制されたこの2年間からのリハビリを求めていたのかもしれない。