「老後がもうすぐなので、失われた20年なんてことになったら、怖くて投資できない」と、投資ビギナーに、このように聞かれることがある。失われた20年と言っても、株価は変動している。例えば日経平均株価は、上下を繰り返しながらも上昇を続けているのだ。20年間、ずっと株価がただ下がっていた訳ではない。
昨年の4月7日付日本経済新聞電子版に『バブル後日経平均 長期低迷でも「資産 2.4 倍」の謎』という分かりやすい記事があるので読んでみて欲しい。一部を引用すると「バブル崩壊後の90年1月から日経平均に連動する投信(実質的に配当込み指数に連動)があったとして、毎月3万円を積立投資していたら、20年末までの累計積立額は1116万円。じゃあ資産はいくらになったと思う? ……1500万円くらい? 20年末の資産は2668万円。累計積立額の2.4倍だ」
失われた20年でも2.4倍になっていたのだ。「失われた20年」とマスコミが使っている言葉に惑わされて「投資は危ないもの」と誤解しないで欲しい。もちろん、投資を始めるならば正しいやり方はあり、それを学ぶことは前提だ。
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なぜ円安が進んでいるのか?
急激な円安が続いている。加えて小麦や原油価格も上昇しているので、食品やガソリンが値上がりして家計を圧迫している。外貨建ての株や債券などの資産や、外国株や海外債券の投資信託など間接的な外貨建て資産を保有していない方は、資産が目減りしているだろう。
なぜ円安が進んでいるのか? 米国では政策金利を引き上げる方向に進んでいるが、日銀は金利の上昇を抑えているから金利の低い円を買わずにドルを買う流れが続いているのだ。さらに日本の貿易赤字も拡大している。それも円安になる原因となっている。
今は企業努力で値上げを抑えていても、夏頃には値上がりするモノが増えてくると予測できる。物価上昇のタイミングは、商品やサービスによってズレがあるのだ。例えば小麦の値上がりで麺類やお菓子が既に値上がりしている。しかし今後も小麦の価格が上昇していけば、肉類の価格も上がると予測できるのだ。牛や豚、鶏の飼育には小麦を含む大量の穀類が必要だ。小麦価格の上昇だけでなく他の穀類も上昇している。トウモロコシの年明け以降の平均価格は、昨年の平均価格を上回っている。
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夏頃に値上がりするモノやサービスは?
肉類の価格の上昇が続けば、外食サービスも値上がりしていくのは想像に難くないだろう。すでに低価格のチェーンは値上げをしているが、今年の夏頃にはさらに値上げする外食サービスが多くなると予測できる。肉類の高騰と原油価格の上昇でエアコンなどの費用もかさむからだ。
また原油価格が上がってガソリンや電気料金がすでに上がっているが、バスやタクシー代も夏頃に値上げされると考えられる。さらに原油価格の上昇が続けば電車代なども値上がりする可能性さえもあるのだ。マンション価格も木材などの資材価格が高騰しているので今後もまだ値上がりすると考えられる。
日本企業は、原材料の価格上昇に企業努力で値上げを抑えているから給与が上がるとは考えにくい。給与が上がらず、モノやサービスの価格が今後も上昇するのならば今から収入を上げる努力をしなければ、現在と同じ水準の生活は守れない。投資を家計に取り入れることも真剣に考えておくべきだ。
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投資をしたらお金が減ってしまうのか?
冒頭の質問以外にも投資ビギナーによく聞かれるのは、「投資をしたらお金を減らしてしまうのではないか?」という質問だ。投資でお金を減らすということは「含み損」がでている時に売却してしまうことだ。含み損とは、実際の損失ではなく「時価」が購入時よりも減っている状態のこと。その「含み損」の状態の時に、売却してしまうと「損を確定する」ということになり、資産を減らしてしまう。
例えば保有している株がマイナスになり、怖くなって売却してしまえば「損を確定」してしまい、お金を減らしてしまう。逆に含み損のマイナスを我慢でき、さらにその金融商品がプラスの「含み益」に転じた時に売却できれば、お金を減らしてしまうことはない。もちろん、その金融商品が再び含み益になることが前提なのはいうまでもない。「投資をしたらお金を減らしてしまうのではないか?」と、心配する方は、どのくらマイナスになってもメンタルが平常でいられるための金融商品の選び方が大事なのだ。
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投資ビギナーにあった金融商品は?
投資と聞くと、真っ先に「株」を思い浮かべる方が多い。株式投資とは、個別の企業に投資をする方法だ。好決算や赤字といった企業の業績や政治や経済の影響を受けて価格が上下する。この企業の今後はどうなるのか予測するのは投資ビギナーには難しい。
企業の決算書なども読まなければならない。決算書を読まなければ投資ができないのかというと、そういうことではないのだが、株式投資は学ぼうとすると色々な手法があるので際限なく学ぶことにもなる。投資ビギナーならば、投資信託の方が安心だ。インデックス型の投資信託ならば、日本や世界の株式市場の代表的な株価指数と同じように上昇していく。株価指数とは、株式相場全体の状況を示すために、個々の株価を一定の計算方法で総合的に数値化したものだ。
もちろん投資信託でも政治や経済の影響を受けて上がったり下がったりする。だが、株式投資のように倒産して株に価値がなくなるということはない。価格の上げ下げは、個別企業に依存していないので価格変動のリスクを分散できるのだ。投資信託は、プロのファンドマネージャーが銘柄の入れ替えをしている。基本的には、良い銘柄だけが残っていくので右肩上がりに上昇していくのだ。これはインデックス型の投資信託でも同様だ。インデックス(株価指数)の銘柄の入れ替えがあるからだ。
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投資信託を長く保有すると?
なぜ投資信託を長く保有することでお金が増えるのか。例えば、NISA制度が始まった2014年1月の日経平均株価は、1万5908円だった。この時に購入して2022年まで保有を続けていたとしよう。日経平均株価は、4月25日の終値で2万6590円だ。ロシアの侵攻のさなかでも約1.7倍になっているのだ。2014年から9年間保有していたら1.7倍になるのだ。
また、長期間積立買付することで値動きの幅が縮まってくることが知られている。運用成績の悪い時期と良い時期がならされて収益率が安定する傾向があるのだ。「いつ売却したらいいですか?」という質問も多くいただくが、5年以上保有しているのならば売却するのは「お金を使う時期」がきた時でいい。
筆者も子どもの大学費用で、積立していた投資信託や株を一部売却した。使う時期が決まっていたので前年からリターンの高いものから売却して預金に変えておいた。すべてを売却することはなく一部売却しただけなので、大きく資産が減ることはない。お金を長持ちさせることができるのが、投資の魅力的なところだ。
【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/