岩元航大(プロダクトデザイナー)インタビュー|素材と向き合い発想を広げ、未知の形を探る【創造の挑戦者たち#64】

  • 写真:野村佐紀子
  • 文:土田貴宏

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岩元航大●鹿児島県生まれ。神戸芸術工科大学在学中、デザインプロジェクト「デザインソイル」に参加してイタリアやフィンランドで出展。2016年、スイス のECAL(ローザンヌ州立美術学校)を修了し、東京と鹿児島を拠点に活動。パリ「メゾン・エ・オブジェ」の「ライジング・タレント・アワード2022 」の6人のひとりに選ばれている。

東京・八王子に「スタジオ発光体」が開設されたのは昨夏のこと。工房をメインとする広々としたスペースは、デザイナーやアーティストのためのシェアスタジオだ。その中心人物のひとりが岩元航大である。国内外の学校で学んだ彼は、2016年からフリーランスのデザイナーとして活動。今年3月、パリのインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」で「ライジング・タレント・アワード2022」に選出され、海外での注目度もいっそう高まりそうだ。

岩元の活動の起点は、大学在学中の「デザインソイル」というチームでの作品制作だった。

「デザインソイルでは1年間の最初にテーマが決まり、学生も教員も一緒にディスカッションを繰り返しながらコンセプトを詰めて、作品をつくっていました。年齢に関係なく率直に意見を交える感じがとてもよかった。発光体もそんな場所にしていきたいです」

デザインソイルの作品は、イタリア・ミラノで開催されるミラノサローネの際に展示を行うのが恒例だった。出展者として現地を訪れた岩元は、同時に世界各国のデザイン学校の展示に圧倒される。「コンセプトも、そのベースになるリサーチも、さらに作品をビジネスや社会に結びつける発想も、日本とはここまでクオリティが違うのかと衝撃を受けました」

大学を卒業後、岩元はスイス・ローザンヌの美術大学「ECA(エカル)」に留学。ECALは現在のデザイン教育において世界有数の名門校で、他国からも多くの学生が集まる。やはり日本の教育とは大きな違いがあった。

「学生の提案も、先生の意見も、各自のアイデンティティと結びついているんです。それまで生きてきた経験値が色や形にも表れています。日本で育った自分は、ヨーロッパの人々に比べてアイデンティティを見つめる機会が少なかったのだと実感しました」

ECALを修了してヨーロッパに残る道もあったが、あえて日本に拠点を置いて仕事を始めたのは、そんな思いが背景にあった。

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自分の手で素材を扱い、新しいデザインを探る

帰国後の岩元は、ECALをはじめヨーロッパのデザイン学校の出身者を集めて、自らグループ展を企画した。その時に発表したスツールは、日本の家具メーカーの目に留まり、やがて「ベントスツール」として製品化された。

「ECAL時代、身の回りにあるツールを使ってアナログな方法でものをつくる授業があり、パイプをつぶすという行為をずっと実験していました。その手法で家具をつくろうと考えて、実現したのがベントスツールです」

素材に向き合い、自分の手を使って変化を与え、新しい発想を展開していく。こうしたアプローチは、岩元が最も得意とするところだ。もうひとつの代表作「PVCハンドブローイングプロジェクト」の花器も、住宅の配管などに使われる塩ビ管を熱してやわらかくし、空気を吹き込んで成形する。

「古い地層から出土した土器の形を、吹きガラスと同じような製法で、現代のプラスチックを素材につくりました。安価なプラスチックも時代が変わればまったく違う価値をもつかもしれない。いくつもの要素を取り込んで価値の曖昧さを表現するのが狙いでした」

新作「PARI PARI(パリパリ)」は、積層合板を構成する厚さ1㎜程度の薄板に着目。薄板を1枚ずつ彩色し、水性接着剤で貼り合わせ、接着剤が固まる前に部分的にパリパリと剥いでいく。接着剤を拭き取ると、独特のパターンの板が出来上がる。その板を用いた家具シリーズだ。

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好奇心に突き動かされて、既存のデザインを超える

いろいろな素材を使って実験するには、周囲に気を使わずにすむ、広いスペースが必要だ。「だから発光体のような場所をずっと探していたんです」と岩元は話す。自由度の高い「余白」のようなものが、彼の創造には欠かせない。

さらに最近、インスピレーションを「歴史」に求めている。たとえば鎌倉時代、中国から日本にもたらされた禅宗の高僧を描いた肖像画や彫刻(頂相)には、しばしば椅子に座った僧侶の姿が見られる。もしも日本で、その椅子が独自に発展し、定着していったとしたら? そんな想像を膨らませ、未知の椅子の形を思い描くのだ。

「これはアイデンティティの話にもつながっていて、自分は歴史を知らなすぎるから、それを補うためいろんなことを調べています」

岩元のモチベーションとなるのは、圧倒的な好奇心だ。出来上がったものが量産されるのか、エディション作品になるのかにも執着しない。クライアントが見つからなければ、自分でつくって販売しようと考える。そのための新しい試みも彼にとって刺激になる。

「現在のテクノロジーを使えば大体のことはできる。発光体という場所があるから在庫も持てるんです」と岩元。こうした前向きさこそが、デザインを次代へと更新していくのだろう。

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WORKS

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Tomohiko Ogihara

PARI PARI

鉈によって丸太を割くように板材にする「へぎ」という伝統技法に触発され、合板の表層を手作業で剥ぎ取って独特のパターンを生み出した家具シリーズ。今年3月、パリのメゾン・エ・オブジェでも展示された。

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Kodai Iwamoto

PVC HANDBLOWING PROJECT

塩ビ管を熱してから空気を吹き込むという成形法によって制作したもの。アップサイクルのプロジェクトとして紹介されることもあるが、素材と微妙な関係にある「価値の曖昧さ」の表現を意図したものだという。

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Kei Yamada

KD

日本を代表する家具産地、福岡県大川のメーカー、fielのためにデザインしたワークスペース向けのテーブル。脚部を中央に寄せることでどの角度からも使いやすくし、天板にはPCのコードなどを通せるスリットを設けた。

※この記事はPen 2022年5月号より再編集した記事です。