老後資金の不安の正体とは? 安心するためにしたい「3つのこと」

  • 文:川畑明美
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人生100年時代を迎え、老後の不安は大きい。老後のお金の不安とはいった何なのか? それを知らずに焦って行動すると大損する可能性が大きい。istock

老後資金に不安を過度に感じている方ほど、リスクを好む傾向にある。迫る老後の不安に駆られて「早くお金を増やさなければ! 」と、考えてしまうのかもしれない。老後の人生が長くなっているのだから、年金生活になっても資産運用を続けて資産の寿命も長くすることは必須だが、リスクについてよく考えて欲しい。


「早くお金を増やさなければ! 」と焦って投資するのは、とても危険だ。まずは、お金の不安の正体をよく知ることだ。老後のお金の不安は、若い世代ほど感じているようだ。セコムが実施した「老後の不安に関する意識調査」 によると、20代といった若い世代でも、男女ともに80%以上も「老後の不安を感じる」と、回答してる。


昭和の時代と違い、右肩上がりで給与が上がるとは考えにくい。だから若い世代ほど心配なのかもしれない。実はこの不安の要因のひとつは、「知らない」ことなのだ。人間は、わからないものには不安を感じる。ところが老後の不安を感じている方に年間にどのくらい収入があっていくら使っているのかを聞くと「わからない」というのだ。

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老後資金の不安を解消する方法その1
→自分の資産内容をよく知る

老後のお金が不安というのならば、年間にどのくらいお金を使っているのかを調べ、どのくらいの年金収入があるのかも調べてその差額を準備したら良いわけだ。20代30代の若い世代では、まだ働き方によって年金額は変わるかもしれないが、現在の世帯平均受給額で試算してみるといい。


令和4年度の年金額の例では、厚生年金で夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額は、月額21万9,593 円。現在の支出とどのくらい差があるのか確認するだけでも不足額を試算できる。子どもがいたとしても、小学生くらいまでなら生活費はほとんど変わらない。習い事や進学塾などの特別な費用を除けば今の支出で試算していいだろう。


将来の年金額も知らない、現在の支出も知らないのでは不安になるのは当然だ。老後のお金を不安に感じるというのは、ほとんど「よく知らない」ことが原因になっているのだ。ことわざの「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と同じことだ。

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投資をするなら?

実際「よく知らない」ために、リスクを冒して損してしまった例もある。以前、筆者のメールマガジンで投資の失敗談を募集した時にこのような回答があった。「お金を持っていないと思っていた頃、母と祖母の遺産、父の生前贈与を、FX投資をして損をしてしまった。その後、自分の資産内容をチェックしたら、思っていたより持っていて、そんなに焦ってFX投資をする必要はなかったと後でわかった」


ご自身の資産内容を「知って」いれば、リスクを回避できたのだ。老後が不安で投資をするのならばまずは、ご自身の資産がどのくらいあるのか書き出してみることだ。すべての預金通帳を記帳して、貯蓄性のある保険の金額も書き出してみよう。「意外にも資産を持っていた! 」と感じる方も少なくないのだ。


ただし預金だけでは、インフレがすすんでいる時には、資産を減らしてしまう。物価が上がることをインフレというが、モノやサービスの値段が2倍になれば同じ貯蓄額で買えるモノの量が半分に減ってしまう。


ここ最近は、食料品をはじめ値上げが相次いでいる。このようなインフレ時は、貯金をしているだけでは損をしてしまうのだ。「投資したら、お金を減らしてしまうかも」と心配して貯金に励んでいると逆に資産額を減らしてしまう可能性も考えて欲しい。せっかく将来の不安に対処するために貯金をしても逆効果になってしまうこともあるのだ。


過度に貯金好きの方は、なぜかインフレ対策には鈍感だ。「心配する」ということは、堅実に実行する原動力だ。なので基本的には良いことだが、過度に心配をし過ぎると弊害が多い。

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老後資金の不安を解消する方法その2
→リスクとリターンの関係をきちんと理解する

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投資分野と保険分野では「リスク」の意味が異なる。投資のリスクは避けるものではなくコントロールするものだ。istock

投資においてのリスクとリターンは、同義語だ。リターンが大きければ、リスクも大きい。ここで勘違いしないで欲しいのだが、リターンが大きい投資をしては、いけないと言う事ではない。「リスクをコントロールすること」が大事なのだ。


多くの人はリスクとはできるだけ避けるべきもの、あるいは避けたいものと思っているのに、投資となると欲に目が眩んで必要以上にリスクを取ってしまうのだ。損を経験したことがない初心者ほどリスクに鈍感な傾向が高い。逆に投資は怖いと思っている方も要注意だ。リスクというのは常にリターンと対になっているのだから、リスクを避けるということは、それに対応したリターンを諦めることでもある。


60代になり老後が差し迫っているのならば、お金を減らしてしまうような投資をしてはいけない。遠回りのようだが、リスクを避けつつ運用の効率性も考え、リスクをコントロールする必要がある。想定外の暴落があった時に冷静でいられる人は少ないのだ。金融商品は、よく調べれば価格変動リスクの指標が公開されている。それを調べて、リスクを減らすことも重要だ。

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リスクを試算することは可能

例えば国内債券の投資信託の価格変動リスクが5%だと仮定しよう。そして先進国株式の投資信託の価格変動リスクは20%だったとする。価格変動リスクとは、5%上がるかもしれないが、5%下がるリスクもあるということ。例えば、100万円を国内債券に投資すれば、損失の可能性は100万円×5%=5万円だ。先進国株式に同じく投資すると、100万円×20%=20万円になる。先進国株式のリスクを国内債券と同じくらいに減らすには、掛金を少なくしたら、いいわけだ。


100万円をすべて先進国株式に投資せずに25万円にした場合を考察してみよう。25万円×20%=5万円になり、損失の可能性が下がる。リスクがいつ現れるのか、プロでも予測できない。だから慎重にリターンとリスクを考えることが重要なのだ。リターンだけを追い求めるのではなく、あなたが受け入れられるリスクを計算することだ。

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老後資金の不安を解消する方法その3
→年をとっても仕事を続けることにする

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老後とは、どういう状態をいうのか少し考えてみて欲しい。「老後をなくす」ことは健康ならば誰でも可能なのだ。istock

また、老後が不安なのであれば、老後をなくしたらいい。老後とは、年齢ではなく仕事をやめ年金生活に入った時のことを指す。つまり仕事を続けていれば、老後とは言わないのだ。老後の3大不安は、お金と健康とコミュニティがないことだが、働き続けることで、この不安の大部分は解消される。


働き続ければお金が入ってくるし、家に閉じこもっているよりは健康的だ。さらに職場の仲間がいるのでコミュニティに入れるのだ。「会社を辞めたら友人が1人もいなくなった」なんてよくあることだ。なかには頑張って働いて投資で資産を作り早くからリタイアメント生活を目指している方もいるが、一緒に遊んでくれる友人がいない方は早期リタイアは退屈な生活になってしまう。


老後をなくすために働き続けるといっても、サラリーマンのようにキツイ仕事でなくてもいい。筆者の顧客の中には、定年後に児童心理学を大学で学び直して、その実践のために学童保育でアルバイトしてイキイキしている方もいた。趣味の延長上で働くくらいの仕事を続けるのは、逆に生きがいにもつながるのだ。

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/