写真家・ジェーン エヴリン アトウッドを知っているか?シャネル・ネクサスホールで『Soul ジェーン エヴリン アトウッド展』が開催中

  • 写真・文:はろるど

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『Soul ジェーン エヴリン アトウッド展』展示風景。会場内の撮影もOK。

薄暗い地下鉄の入り口でうずくまる路上生活者や酒に酔って道に横たわる浮浪者、そして独房にて途方に暮れたように座り込む女性…。中には地雷で身体の一部を失った人や、手錠をかけられたまま出産する女性といったショッキングな光景も写されている。思わず目を背けてしまうかもしれないが、そうした困難な状況に置かれた人々を長年にわたり写している1人のアーティストがいる。

それがシャネル・ネクサス・ホールにて日本初個展を開いているジェーン エヴリン アトウッド(1947年〜)だ。ニューヨークに生まれ、パリへと移住したジェーンは、学生時代にアメリカの写真家、ダイアン アーバスの社会の周縁に生きる人々のポートレイトに感銘を受ける。するとカメラを手にしては、パリの路上に立つ娼婦たちを被写体に活動していくのだ。そして目の不自由な子どもたちを写したシリーズにて評価されると、1980年には第1回「ユージン スミス賞」を受賞。その後も報道カメラマンとして、阪神・淡路大震災の被災地や、コソボやアフガニスタンの地雷被害者などを撮影し続けている。

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『Paris, France, 1977』 1975年に初めてカメラを購入したジェーンは、1976年からパリ・ロンバール通りの娼婦などを撮影。その後、欧州で初めて公の場でエイズ患者と認めたジャン=ルイを写した。

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『Alaska, United States, 1993』 ジェーンは1989年から1999年にかけての10年間、欧州やアメリカなど40の刑務所や拘置所で、死刑囚を含む収監された女性たちを撮影した。

ジェーンの写真を追っていると、一見、即興的に写しているように思えるが、実は被写体を深く理解するために、何カ月、あるいは何年もの間、対象と時間をともにするという。なかでも地雷の犠牲者の調査は4年、また女性の受刑者の撮影については10年間も費やすなど、長期間にわたり複数のプロジェクトを手がけてきた。そして1枚の写真が世界を動かす。ジェーンが手錠をかけられたまま出産した女囚の写真を発表すると、それを切っかけに出産する囚人に手錠をかける慣行がアメリカの複数の州で非合法化され、イギリスでも1997年以降に禁止されたのだ。

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左:『Paris, France, 1996』、右:『Paris, France, 1976-1977』 現在も精力的に活動するジェーンは、これまでに13冊の作品集を刊行。世界各地の個人や公共施設に作品がコレクションされている。

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『Soul ジェーン エヴリン アトウッド展』展示風景。代表的なシリーズから報道カメラマンとして撮影された作品が、小さな部屋に区切られた空間に展示されている。

「私が写真を撮るのは、彼らに近づいて理解する為だからです」と語り、「写真を撮ったところで何も役に立たない、と時に思うこともあります。それでも、とにかくやらなくてはならければならないのです」との言葉を寄せたジェーン。会場では初期の娼婦のシリーズをはじめ、近年に至るまでの写真が、年代やシリーズ別で区別されることなくばらばらに展示されている。時に過酷なイメージが写されつつも、被写体への思いやりの心や優しい眼差しが感じられるのも作品の魅力だ。ジェーンが向き合った不遇な環境にいる人々の魂(Soul)を、1枚1枚の写真から感じとりたい。

『Soul ジェーン エヴリン アトウッド展』
開催期間:2022年3月30日(水)~5月8日(日)
開催場所:シャネル・ネクサス・ホール
中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
TEL:03-3779-4001
開館時間:11時~19時 ※入場は閉館30分前まで
無休、入場無料
※臨時休館や展覧会会期の変更、入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://nexushall.chanel.com