「もつべきものは友」とよく言うが、信州に住む旧友から素晴らしいものが届いた。
袋を開けると、中から出てきたのが、何枚かのボタンダウンシャツ。「コロナ禍の中、ワードローブを整理していたら昔購入したまま着ていないシャツなどが出てきました。要りますか?」と言う連絡がLINEで入り、「欲しいデス!」と連絡しておいたので、送ってくれたのだろう。
シャツはどれもアメリカのもの。ブランドがアメリカというだけでなく、アメリカで生産されていたもの。いまでもたまに目にするアイク・ベーハーやギットマン・ブラザーズなどに混じって、ケネス・ゴードン(KENNTH GORDON)という珍しいブランドのシャツが入れられていた。しかもそのシャツはアット・イーズというアメリカ・ロサンゼルスにあった、とても洒落たトラッドショップのために特別につくらせた、いわゆる別注品だった。アット・イーズを親友に教えたのは私だが、一緒に行った覚えはない。LINEに「35年以上前に購入したシャツもある」と書いてあったので、親友が仕事かなにかでロサンゼルスに行った折に手に入れたシャツに違いない。
私がウエストウッドのアット・イーズに初めて行ったのは、もう43年前のことだ。観光でアメリカ西海岸に行くことになり、旅行前にSというセレクトショップに勤務する知り合いから「ウエストウッドにあるアット・イーズというショップはウチのお手本にしたショップ」と聞き、訪ねたのだ。


当時、日本ではアメリカ西海岸のファッションやライフスタイルがとにかくブームだった。ウエストウッドは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)がある学生街で、「UCLA」のロゴマークのTシャツやスウェットシャツも流行していた。その学生街の一等地にアット・イーズは店を構えていた。メイド・イン・U.S.A.のトラッドアイテムを中心に、西海岸らしい明るく、新鮮な色を使ったものが目立っていたことをよく覚えている。かなり大きな店で、メンズ、ウイメンズ、そしてボーイズやガールズまで揃ったショップ。ショップ名が入ったアイテム以外にも、ボーイズではポロブランドのツイードジャケットなどが並んでいた。
どれもこれも欲しいものばかりで、滞在中、毎日のように通ったが、一緒に行った姉たちと店名が入った黄色のショッピングバッグをたくさん抱えていると、「君はバイヤーか」と店のスタッフに尋ねられた覚えがある。実はこの店に滞在中、数人の日本人も私たちを超えるようなたくさんの服や小物を購入していた。帰国後、渋谷のインポートショップに積まれていた服を見てビックリ。このシャツも、このパンツも、全部、アット・イーズに並んでいたものではないか。だからたくさん服を買う私たちを見てアット・イーズのスタッフは彼らの同業者と勘違いしたのだろう。
あの頃はロサンゼルスに新鮮な感覚をもったトラッドショップがたくさんあった。キャロル、ジェリー・マグニン、ウィルクス・バシュフォード……。アット・イーズはそのなかでも割と新参ものだろう。ロサンゼルスのニューポートビーチにもショップがあって、たぶんそれが1号店だったと記憶している。アット・イーズは、80年代に日本の某アパレルメーカーが契約して数店展開したが、すぐに辞めてしまった。10数年前だろうか、またウエストウッドに行く機会があり、周辺をクルマで回ってみたがもうアット・イーズはなく、回りに数軒あったトラッドショップもなくなっていた。独立したトラッドショップがやっていくのはアメリカでは難しい時代になってしまったのだろう。ネットでアット・イーズと検索してみたが、もうニューポート・ビーチ店も閉店してしまったらしい。
このボタンダウンシャツを製作したケネス・ゴードンもとても懐かしいブランド。80年代にはいまで言うセレクトショップが輸入していたシャツだ。アット・イーズと同じく、日本のアパレルメーカーと一時期契約していたこともある。


ケネス・ゴードンは、上質な素材を使ったトラッドなシャツを得意とするブランド。やや小さめの襟に、ダブルステッチを入れているのが大きな特徴だ。私も当時、何枚か購入したが、残念ながら手元には残っていないので、新品の状態で手に入ったのは嬉しい。アット・イーズと同じくネットで検索してみたら、とあるサイトで、このブランドはルイジアナ州ニューオリンズにあるシャツ専業メーカーと書かれている。アメリカの有名百貨店ノードストロムの製品も製作していたとも書かれている。最近、このブランドのシャツは古着でもなかなか見ることはない。ブランド自体は残っているかもしれないが、たぶん工場等は残っていないだろう。
どこでつくられたものであるか、それだけで服の価値が決まるわけではないが、少なくとも、80年代はアメリカがコストを優先せずにていねいに服をつくっていた時代だった。だから素材や縫製にメイド・イン・U.S.A.の製品でしか味わえない魅力がたくさんあった。このシャツはまさにその象徴的なアイテム。希少なアメリカ製のボタンダウンシャツを前に、そんな80年代を思い出してしまった。