一歩一歩“未来”に近づいている気にさせる電気自動車、「カヌー」のユニークさ

  • 文:小川フミオ
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EV(電気自動車)は、作り手のクリエイティビティを刺激してくれる乗りもののようだ。スタートアップによる創造性に富むプロダクトが次々に現れ、見ているだけでもかなり楽しい。北米の「カヌーCanoo」はいい例だ。

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トの字型のポジションランプがカヌーのプロダクトの特徴のひとつ

2022年に第1号車の発売を予定している「カヌー」のプロダクトは、カプスルのようなモノフォルム。昔のSF映画に出てきそうな、いわゆるレトロフューチャー感と、同時に、ラウンジのように室内を使えるという、トレンディなデザインコンセプトを併せもっている。

カヌーの車両は、「ライフスタイルビークル」「MPDV(マルチパーパスデリバリービークル)」「ピックアップトラック」が現在、生産に向けて準備中。バッテリーとモーターとサスペンションシステムを組み合わせた、シンプルなプラットフォーム構造を活かして、さらにこのあとも新しいボディデザインが登場しそうだ。

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いまの目からするとSF映画の1シーンのよう

「カヌーの使命はEVをすべてのひとに提供すること」。ホームページにそう大書する同社では、「買いやすい」「独創的」「あらゆるひとのニーズに合うように汎用性が高い」といった言葉で、プロダクトの特徴を説明する。最初から北米を中心とした市場を対象に、ラインナップを構成。ここがカヌーの特徴だ。

さきに触れたように「ライフスタイルビークル」はラウンジような後席をもったミニバンの未来形で、4輪駆動を含めていくつものバリエーションを想定。MPDVは、北米で重宝される、いわゆるパネルバンという商用車。そして、北米を中心に愛されているピックアップトラックもしっかりラインナップに入っている。

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すこし専門的に解説すると、車両は、ボディとシャシーを切り離したセパレート構造。前述のとおり、それによって、あまりコストをかけずに、多様なボディを載せることができる。駆動用バッテリーは1層にしてシャシーに敷きつめる。カヌーでは外観から「スケートボードアーキテクチャー」と呼ぶ。

サスペンションは、本格的クロスカントリー型4WD車と同様のリーフスプリングを採用。前後ともにダブルウィッシュボーン式のサスペンションシステムとの組み合わせだ。ステアリングシステムは、電気信号によるモーター式の操舵システムである、ステアバイワイヤ。大手自動車メーカーもまもなく実用化するといわれる技術の、いわば先取りだ。

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ウィンドウ面積が大きいうえに、ダッシュボードのむこうにもウィンドウが設けられて視界がよい

伝統的な設計と、最新の技術が、同時に盛り込まれているのが、カヌーのおもしろさ。目的は、なるべく構造をシンプルにすること。同時に、操縦性や機能性を追求する合理的なコンセプトで、全体がまとめられているのだ。

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ステアバイワイヤシステムのためステアリングホイールをぐるぐる回す必要がなくなるので、このような形状でも充分使いやすい

モーターは、300HP(だいたい223kW)の最高出力と、450Nmの最大トルクを有する。シングルモーター仕様では、このモーターをリアに搭載しての後輪駆動。前にモーターを追加した全輪駆動も用意される。

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「アドベンチャー」には(おそらく)4WD仕様も用意されるだろう

「ライフスタイルビークル(80kWhバッテリーパック仕様)」のバッテリー容量は、たとえば、ポルシェのEVセダン「タイカン」(ベーシックグレード)をごくわずかだが上回る。満充電からの航続距離は250マイル(約402キロ)で、やはりタイカンの354〜 431キロと同等かそれ以上だ。

ボディは全長4421ミリと意外にコンパクト。全高は1846ミリとけっこう高い。全幅は1896ミリだ。ホイールベースは2850ミリなので、全長比でいうとかなりのロングホイールベース車。乗車定員は仕様に応じて5名から7名となる。

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ホイールベースが長くパッケージングがよいのでリアの居住性がかなり高そう

「ライフスタイルビークル」は「車輪のついたロフト」がコンセプトという。街乗り、ビジネス、ファミリー、それにオフロードと、想定は多様。

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左から「デリバリー」「アドベンチャー」「プレミアム」

「ライフスタイルビークル」は4つのモデルで構成される。2座の「デリバリー」が商用にも使えるモデル。1464ポンド(664キログラム)の積載能力を有するそう。250マイルの航続距離をもつ80キロワット時のバッテリー搭載だ。

乗用車として、ベーシックモデルは、まさに「ベース」と呼ばれる。最大で350HP(260kW)の出力をもち、乗車定員は5名。28分で80パーセントまでの充電を可能とする。車体色は3色だそう。

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真上(プラン)からみるとどちらが前だかわからないユニークな造型

「プレミアム」は、7人乗り。いわば快適仕様で、グラスルーフ、17スピーカーのオーディオ、室内アンビエントライトなどをそなえる。昨今のトレンドである空気清浄システムも、セリングポイントのひとつだ。

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「アドベンチャー」はこんなライフスタイルをもつユーザーへのアピールを狙うようだ

4つめのモデルは「アドベンチャー」とよばれる。2000ポンド(約907キログラム)の能力を持つ牽引バー、大きなルーフラック、それに、専用のダークグリーンの車体色を持つ、機能性を前面に出したモデル。

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まるでラウンジのような形状のリアシートも用意される

室内もかなりユニーク。広くて、居心地がよさそう。加えて、デザインが近未来的だ。四角いステアリングホイールは、ステアバイワイヤとのことなので、おそらく操舵の速度などから、わずかな動きでも前輪を大きく切ることが出来るはず。

後席は、新しい意匠のラウンジシート型だ。ボディ側面まで回りこんだ(上から見て)コの字型のアレンジを選択すると、通常の5名プラス2名の乗車が可能となるもよう。

カヌーは外部給電が出来るか不明であるが、もし一般家電用ソケットがそなわっていたら、どこかで駐車したのち、まさにラウンジのように車内でリラックスしていられそうな雰囲気だ。

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ピックアップトラックにはモーターを前後に搭載した4WD仕様も予定されている

「ピックアップトラック」も、興味を惹かれるモデル。発売は2023年を予定しているといい、実際の数値は目標値というが、500HP(372kW)超の最高出力が目指されている。

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Canoo_PickupTruck_ExteriorSnow_9.jpgピックアップトラックの荷室は使い勝手のよさがいろいろ考えられているもよう

積載能力は1800ポンド(816キログラム)で、荷台は6フィート(182センチ)あるいは8フィート(243センチ)が選べる。駆動方式は4WDも用意されるとのことなので、実用性が高そう。GMといいフォードといい、ピックアップトラックもついに電動化の時代に突入したのだ。

「ライフスタイルビークル」のスターティングプライスは3万4750ドル(約410万円)と発表されている。一説によると、残価設定型ローンの、いわゆるサブスク販売に限定されるとか。そうすると、月の支払い額が低くなるため、敷居が低くなる。

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クレイモデルを前にデザインを検討中の風景

トヨタも22年に発売予定のピュアEV「bZ4X」をサブスクのみで販売するとしており、それと似た考えによるアプローチだろうか。電気自動車を定着させるには、ユーザーへの敷居を低くする必要があったり、バッテリーを含めたシステムの管理をしっかり行いたいというメーカーの思惑が背後にあったりする。そして”未来”へと向かっていくのだ。