ミッドセンチュリーはこうして生まれた! 知っておきたい基礎知識

  • イラスト:小林達也(Miltata)
  • 文:高橋美礼
  • 協力:西川栄明
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二度の世界大戦に勝利し、世界の産業の中心となったアメリカ。経済発展を遂げるなかで、一般向けの家具の需要が増した20世紀中盤のアメリカの椅子デザインを振り返る。

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20世紀に起きた二度の世界大戦で戦場にはならず、輸出産業により経済が繁栄したアメリカ合衆国。欧州の国々が戦禍で荒廃し、敗戦国は多額の賠償金を負う一方、アメリカは世界の産業の中心となった。戦地から帰還した若い兵士が結婚して新居を構える状況になると、家具の需要も一気に増加。低コストで量産できる一般向けの椅子が求められるようになっていく。

20世紀半ば、ミッドセンチュリーと呼ばれる時代を牽引したのは、そんなアメリカのデザイナーたちだった。チャールズ&レイ・イームズ、エーロ・サーリネン、ハリー・ベルトイアらをはじめとする優秀な人材が互いに刺激し合い、機能的な椅子を次々と生み出した。戦争によって急速に進化したプラスチックなどの新素材や金属成型などの技術が、日用品へと応用されるようになる。椅子のデザインにも積極的に取り入れられ、それまで成し得なかった形状を実現させていったのである。

彼らの多くは1932年に設立された「クランブルック美術アカデミー」に関わっていたことも大きい。レイ・イームズや後にノル社のデザイナーとして活躍したフローレンス・ノルも同校出身だ。「チューリップチェア」や「ダイヤモンドチェア」などノル社から製造販売された名作は数多い。

さらに、イームズによる成型合板製の椅子を商品化して大ヒットさせたハーマンミラー社も忘れてはならない。デザイナーのジョージ・ネルソンがディレクターに就任すると、イームズを起用し、三次元成型やスチール製脚の加工技術を発展させていった。

このよきライバル2社が競い合うように成長したことも、家具産業が大きく躍進した要因のひとつだ。なお現在は合併しミラーノル社となっている。

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イームズ プライウッドラウンジチェア LCW/1946

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第二次世界大戦中にイームズが開発したレッグスプリント(医療用添え木)の製造方法を応用し、パーツすべてが成型合板製。三次元曲面の背もたれと座面は、人体のラインに合わせるように設計され、接合部には硬質ゴムを挟み込むことで強度と弾力性をもたせている。同じ構造のDCMはテーブルで食事をするのに適した、座高が高いダイニングチェア。当初のエヴァンス社に代わり、1949年からハーマンミラー社で製造販売されている。

イームズ シェルチェア/1950

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当時画期的だったFRP(繊維強化プラスチック)を素材とする、イームズの代表作のひとつ。1940年、MoMA主催のコンペティション「オーガニック・デザイン・イン・ホーム・ファニシング(家具の有機的なデザイン)」にエーロ・サーリネンと共同出品した「サイドチェア」が最初のアイデアだった。座面から背まで一体型のシェルがFRP製で大量生産されたのは世界初。イラストはDSXのタイプ。小型でスタッキングが可能、低価格という点でも評価された。

イームズ ラウンジチェア & オットマン/1956

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成型合板をベースとしたラウンジチェアは同じ構造のオットマンとセット。アルミダイキャスト製の5本脚で安定感があり、羽毛入りのレザークッションが「使い込まれた野球グローブのよう」な心地よさをもたらす。座っている人が眠り込んでしまうほど快適、と発売時から好評だった。幅と奥行が約84㎝もあり、回転椅子としては大きめだが、ノックダウン方式で生産効率と輸送コストまで考慮されている。

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チャールズ&レイ・イームズ

チャールズ:1907-1978

レイ:1912-1988

ダイヤモンドチェア/1952

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ビニールコーティングまたはクロムメッキされたスチールロッドで生み出す三次元曲線によって、工業用素材に新たな魅力を与えた椅子。溶接を得意とする金属彫刻家であり、ジュエリーデザインの教鞭も執っていたベルトイアの代表作。しかし、早くからワイヤーシェル構造を考案していたにもかかわらず、先に世に出たのはイームズの「DKR(ワイヤーメッシュチェア)」だった。それ以降、ふたりの仲は疎遠になっていったようだ。

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ハリー・ベルトイア/1915-1978

チューリップチェア/1957

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世界で初めて量産されたペデスタル(1本脚で支える台座)構造の椅子。床から伸びる脚と花弁のようなシェルは、まさに一輪のチューリップ。当初は全体をFRP一体型にする考えだったが、強度の面から脚部はアルミダイキャストに。シェルが分離したことで座面を回転できるようになった。51歳の若さで夭逝したサーリネンだが、「ウームチェア」やニューヨークJFK空港TWAターミナルの設計など、ミッドセンチュリーデザインに大きな足跡を残している。

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エーロ・サーリネン/1910-1961

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※この記事はPen 2022年4月号「名作椅子に恋して」特集より再編集した記事です。