なぜテスラ「モデル3」が人気を集めているのか、そのワケがわかった気がする

  • 文:小川フミオ
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最速で”ブランド化”したクルマはレクサスと言われるが、米のテスラも負けていない。日本上陸が2011年で、10年のうちに電気自動車の代名詞にまで成長した感がある。速い。その背景には、当然ながら商品。2019年に比較的買いやすい価格で発売された「モデル3」がいまヒット中だ。

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モデル3はテスラに共通する個性的なフロントマスクをそなえる

モデル3、乗ると、ヒットの理由がわかる。走行性能が高くて、加速感もいいし、乗り心地も快適だし、室内はしずか。かつ、いわゆる”キャラがたった”スタイリングを持っている。街中ですぐ、モデル3とわかる。数はやたら多くない適度な稀少性と、ブランド力を併せ持っているのが、オーナーのよろこびになっているはず。

モデル3は、グリルレスのフロントマスクと、ショートデッキのプロポーション、それに一筆書きのようにスムーズなウィンドウグラフィクス(サイドウィンドウの輪郭)を持つ。「モデルS」「モデルX」「モデルY」とテスラ車に共通のデザインアイデンティティだ。

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電動パワートレインへの冷却気採り入れはバンパー下から行われる

フロントマスクがグリルレスのデザインなのは、内燃機関のようなラジエターをもたない、というデモストレーション(のはず)。クリーンなイメージの強調というべきかな。

じっさいには、電気自動車はインバーターやバッテリーといった部品が熱をもったり、逆に冷えすぎていると性能を発揮しなかったりで、温度コントロールがかなりデリケート。フロントに開口部も必要なので、モデル3もよく見ればちゃんと空気取り入れ孔がある。それでも、走っている姿を見ると斬新だ。

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じつにシンプルな構成のダッシュボードで操作の多くは15インチモニターで行う

内装もかなりとんがっている。ここも私が好きな点。シンプルすぎるほどシンプルで、目につくのはステアリングホイールと、15インチの大型モニタースクリーンのみ、といっていい。初めて乗ると、始動用のスイッチがないなど、(私のように)ぜったいにとまどうと思うが、すぐ慣れる。

カードキーをセンターコンソールに置いて、ステアリングコラム右側のシフトレバーでD(ドライブ)レンジを選択すると、モーターが始動する。つまりスターターボタンを押すというプロセスがひとつ省略されているのだ。これ、(やっぱり私のように)イラチなひとにはよさそう。

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シフトレバー操作でDに入れるとシステムが作動する

慣れるということであれば、走行性能も同様。私が乗ったのは、モーターを前後に搭載して4つのタイヤを駆動する「ロングレンジ」というモデルで、力がたっぷりある。バッテリーをはじめインバーターもモーターも性能は未公表であるが、端的にいって、かなり速い。意のままに加速できるので、慣れるというか、とりこになりそうだ。

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パワーを求めるひとはAWDモデルを、使い勝手優先ならRWD(後輪駆動)を

モーターなので加速の立ち上がりがよく、かつ速度域にかかわらず、加速がするどい。テスラのデータによると、静止から時速100キロまで加速するのに4.4秒しかからない。全長4.6メートルの4ドアセダンでありながら、この加速性能は、たとえばポルシェ911カレラにコンマ2秒負けているだけ。

高速を走っていると、あれよあれよというまに速度があがっていく。「ロングレンジ」の上に、やはりモーターを前後に搭載してより高性能な「パフォーマンス」(こちら加速は3.3秒)というグレードが設定されているものの、ふだん乗るには「ロングレンジ」で満足できそう。

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電気自動車は(タイヤの選択さえ正しければ)雪道とも相性がいい

「ロングレンジ」とはその名のとおり、大型バッテリー搭載で航続距離689キロ。その下にベーシックモデル「RWD」があり、こちらは565キロの走行距離で、加速は静止から時速100キロまで6.1秒。トヨタ86の6.3秒より速い。長距離移動はあまりしないなら、のモデルでじゅうぶんだと私は思った。

インテリアは、2875ミリと長めのホイールベースのおかげで、前後席とも空間的余裕が感じられる。ルーフは、プリウスを思わせるような、運転席の後ろで盛り上がる山型であり、さらに大きなガラスがはめこんであるので、とくに後席にいると、気分的にリラックスしていられるのだ。

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シート表皮の色はブラックかホワイトが選択できる

室内は、テスラ言うところの、ビーガンインテリアで仕上げられている。べつの表現だとレザーフリー。本革をいっさい使っていない。北米のテスラの株主からの要求が大きかったとか。ステアリングホイールだけは、滑りやすさなどの点から、本革がいいとテスラでは当初主張していたものの、はたして、たいへん触感にすぐれたイミテーションレザーの採用にいたった。

ファッションに詳しい読者のかたがたは、レザーフリーの流れが世界的傾向にあるのをご承知では。ハイファッションのブランドのなかにも、レザーの使用をとりやめるか、使用量を減らすところが出てきている。クルマの世界でも同様の傾向。これ、テスラが早かった。

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半球形のコントローラーでボイスコマンドシステムも操作できる

もうひとつ、テスラが早かったのが、運転支援システム。同社は、自動運転を視野に入れた運転支援システムの採用に熱心だった。とはいえ、3年ほど前に私が乗ったモデルXでは、ステアリングシステムの自動操作があまりにも唐突で、隣りの車線に入ったあと、いきおいあまって外に飛び出すんじゃないかとヒヤヒヤさせられたのも事実。

モデル3は、うんと洗練されている。レバーのクリックと、ステアリングホイールのパッドにそなわった半球形のコントローラーでもって、速度や先行車との車間距離など、かんたんに設定できる。動作もナチュラルで、安心して使える。

ようするに、モデル3は、クルマとしての完成度が上がったところが最大の魅力なのだ。ドイツ車や日本車のスポーティなモデルに乗っていたひとが乗り換えても、まったく違和感がないはず。それどころか、先述のとおり、インテリアのデザインを含めて、あたらしい感覚を楽しめるだろう。

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スタイリングはアクが強くなく万人向けにデザインされている

さいきんでは、トヨタ自動車、SUBARU、それに日産自動車といった日本のメーカーがあいついで新型ピュアEVを準備しているし、アウディ、メルセデス・ベンツ、プジョー、それにヒョンデもピュアEVの乗用車を日本市場に投入。スポーツモデルではポルシェもすぐれたモデルを手がけている。

オンラインで車両の販売を行い、納車のときと点検のときのみ、指定の拠点に出向くのも、テスラが先鞭をつけた。システムのアップデートなどはOTH(Over The Air=オンライン)で行われる。オンラインのストアで、車載アプリを選ぶことも可能。モデル3に代表されるテスラには、未来が詰まっているようだ。

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リアビューがカメラで確認できる

モデル3は、もっとも買いやすい「RWD」が494万円。今回の「ロングレンジ」は579万円で、「パフォーマンス」は717万3000円となる。「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」の対象となるので、とくにRWDは価格競争力が高い。これも、テスラのもうひとつの強みかもしれない。


写真提供:Tesla

Tesla Model3 Long Range

全長×全幅×全高 4695x1850x1445mm
車重 1850kg
電気モーター×2 全輪駆動
最高出力 非公表
最大トルク 非公表
走行可能距離 689km
価格579万円