“普通の椅子”がちょうどいい。デザインジャーナリスト・土田貴宏が愛する椅子

  • 写真:竹之内祐幸
  • 編集&文:山田泰巨
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椅子を愛する、デザインジャーナリストの土田貴宏さん。偏愛する一脚について、その想いを語ってもらった。

フランクフルトチェア/マックス・シュテルカー

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ダイニングルームには家族の人数分を揃えたフランクフルトチェア。子ども椅子はデンマークのリエンダーによるハイチェア。

国内外のデザインシーンを追い、取材活動を続けるデザインジャーナリストの土田貴宏さん。新旧の椅子に詳しい彼が自宅用に選んだ椅子は、意外にもヨーロッパの街角にあるカフェや食堂で使われる“普通の椅子”であった。

「かつては後先を考えず好きな椅子を買い、ダイニングにそれらが不揃いで並ぶことも厭いませんでした。しかし引っ越しの際に背もたれのある木の椅子を揃えたいと思うようになり、買い換えを検討していました。また、近頃は椅子に限らず、10年以上惹かれたものを購入しています。そうすると自分と製品との関係にひとつの共通項が見出せるように思うのです」

この椅子をデザインしたマックス・シュテルカーは、ほとんど無名のデザイナーだと土田さんは言う。そして椅子との出合いがいつであったかも思い出せないと苦笑する。しかし意識するきっかけとなったのは、1978年初演の現代舞踏家のピナ・バウシュによる代表作、『カフェ・ミュラー』などに登場していると知ったことだ。バウシュがフランクフルトチェアを選んだのは、劇中の過酷な使用に耐える丈夫さとともに、その存在が特別な意味をもたないからではないか。そして、そこにこの椅子の魅力があると土田さんは言う。

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書斎にはハーマンミラーの「コズムチェア」、そしてエディ・スリマンがデザインした直線的な椅子という対照的な2脚を置く。

フランクフルトチェアの発表当時、いくつもの名作椅子が生まれた。しかしこの椅子はモダンデザインが発展する途上、そうした流れの集合知から生まれたのではないかと土田さんは推測する。時を前後して類似する椅子は多く、影響を与え合うことで椅子の歴史は進められた。だからこそ、そこに特別な主張や気取りはなく、汎用的で座りやすい椅子となった。

「そうした魅力をもつ椅子だから普段づかいにちょうどいい。ものづくりのあり方に納得させられる、希有な椅子なのです」

土田貴宏

デザインジャーナリスト。1970年、北海道生まれ。2001年よりライターやデザインジャーナリストとして活動。東京藝術大学で非常勤講師も務める。おもな著作に『デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ』(PRINT & BUILD)。

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※この記事はPen 2022年4月号「名作椅子に恋して」より再編集した記事です。