繰上返済で老後破産に? 昔と今で変わった住宅ローンの「常識」

  • 文:川畑明美
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毎月の返済とは別に元金の一部を返済する「繰上返済」。大きなお金が入ったタイミングですると思っている方もいるだろう。払う予定だった利息を減らせるため総返済額が予定よりも少なくなるお得な返済テクニックといえる。ところが繰上返済は、いつでもお得というわけではないのだ。

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住宅ローンの繰上返済の常識が現代と昔では変わってきている。知らずに繰上返済をして老後破産になるパターンもある。bymuratdeniz-istock

退職金で住宅ローンを完済したことで、老後破産になってしまうケースもある。退職金で住宅ローンを完済しても再雇用の収入では生活費が足りず、借金が膨らんでしまうという人もいるのだ。住宅ローンを完済する前にやるべきことは、家計の収支を把握することだ。再雇用の収入で支出を賄えるのか? さらに、年金生活になった時に年金の範囲内で生活できるのか? それらを試算しないで、退職金で住宅ローンを完済してしまうのは無謀な行動だ。そして、できれば60歳の定年までに住宅ローンを完済できるよう、計画して繰上返済すべきなのだ。


人生で最大の買い物であるマイホームを購入する時には「貸してくれる金額」で購入するのではなく、「返済できる金額」で購入することだ。人口の減少により、不動産価格が右肩上がりに上昇するのがいつまで続くのかわからない。マイホームは資産ではない。資産というのは、保有しているだけでお金が入ってくるものだ。マイホームは一生ものだと思っている方も多いのだが、家も古くなれば修繕は必要だ。管理が徹底しているマンションならば良いのだが、管理が悪いマンションは価値が下がる。親がマイホームの購入を勧めたとしても、返済が可能な金額なのかをしっかり試算してから、購入すべきだ。住宅ローンをどう扱うかで老後破産を防ぐこともできる。

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繰上返済の2つのタイプを理解しよう

では、住宅ローンの繰上返済の基本とタイミングについて考察してみよう。まず繰上返済には2つのタイプがある。


1)返済期間短縮型

毎月の返済額は、そのままだが返済期間を当初よりも短くする方法。特徴は、繰上返済後も「毎月同じ金額を返済していく」ことで返済期間を短くできる。返済期間短縮型に向いている方は、下記の通り。

・金銭的に余裕がある方

繰上返済で大きな金額を使った後もそれまでと同様の額の返済が続くため。

・定年までに完済してしまいたい方

返済期間を短くすることで定年後のローン残高をゼロにできる可能性がある。

2)返済額軽減型

返済期間はそのままだが、毎月の返済額を当初よりも少なくする方法。特徴は、繰上返済後も「返済期間は変わらない」ため必然的に月々の返済額は減少する。返済額軽減型に向いている方は下記の通り。

・定年退職後の負担を軽くしたい方

繰上返済後の毎月の返済額が減るため将来的な負担が軽くなる。

・安定的な老後を迎えたい方

月々の返済額が減ることで、手元に残るお金が増えることになる。いざという時の余裕資金や投資の原資を貯めやすくなる。

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金利が低い住宅ローンには繰上返済の効果が少ない

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超・低金利の現在は、住宅ローンの繰上げ返済のタイミングを間違えないようにしたい。現在は住宅ローンの金利が最も低いのだ。MicroStockHub-istock

繰上返済のタイミングには注意点がある。繰上返済のタイミングは、「資産に余裕があるときだけ」ということ。貯金を切り崩してまで、繰上返済してしまうと後々の生活にしわ寄せがくる恐れがあるからだ。また、低金利の時期は、そもそもコストが低いので「支払う利息のトータルを減らせる」という繰上返済の効果があまり発揮されない。


特に変動金利で借りている人は、金利が低いうちは無理に繰上返済しない方が良いケースもある。それよりも大きなお金は手元に残して、いざというときのために蓄えておいた方が、リスク回避につながりやすくなる。繰上返済をした直後に、病気を患ってお金が必要になるかもしれない。低い金利で借りている場合は、想定外のことに備えるためにも、優先順位を考えて欲しい。


学資ローンやマイカーローンも住宅ローンより金利が高い。住宅ローンを繰上返済しても、子どもの教育費が足りずに学資ローンを借りることになった場合、金利を軽減させたはずが、かえって支払う利息が増えてしまうことになりかねないのだ。そう考えると、積極的に繰上返済を考えるべき人は多くない。繰上返済が必要な時とは、金利が急に上がったタイミングだ。それであれば、繰上返済で利息を減らす意味がでてくる。金利が上がることで返済が負担になるようであれば、手元に大きなお金があるときに繰上返済をしてもいいだろう。

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若いうちは繰上返済より「貯蓄」を優先

特に注意が必要なのは、若い世代だ。早いうちに繰上返済をすることで後々の負担が減り、ラクになると考えてしまいそうだが、そう単純に考えてはいけない。若いうちは早く返すことよりも、返済しながら貯金をする習慣をつけて、生活の基盤を作ることが先決だ。そして、老後に住宅ローンの負担がかからないように戦略的に返していくことが理想的だ。早く完済することに重きを置いてしまいそうだが、遠い未来だけでなく現在の生活も含め総合的に考え、繰上返済の時期を判断して欲しい。


また「退職金で住宅ローンを繰り上げ返済したほうがいいのか?」とよく聞かれる。筆者がFP資格を取得した頃は、退職金で残りの住宅ローンの繰上返済を勧めるパターンが一般的だった。だが今の時代、一概に退職金で住宅ローンを繰り上げ返済したほうが良いとは、いえない。「長寿化」で正解が変わってきたのだ。長寿化が進んで、手元に現金がないのは、とても危険だ。急な病気で入院する時に困ったり、介護が必要になった際に家をリフォームしたくてもできなくなる可能性もある。「退職金で住宅ローン完済」が正解だったのは、少し前の世代までなのだ。

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退職金で住宅ローンを完済して老後破産に

もちろん、預貯金が十分にあり、年金も上乗せ制度などで潤沢にある場合は退職金で住宅ローンを完済してもよい。また退職金で繰り上げ返済することのデメリットは、まだある。最大のデメリットは、金利の対策にならないということだ。退職金で返済するということは、ローンの支払い期間が既にほとんど終了していることになる。一括返済や繰上返済は、残りの期間が短ければ短いほど利息軽減のメリットが少なくなる。


年金生活になり住宅ローンの負担が大きい場合は、すべてを繰り上げ返済するのではなく、返済軽減型の繰り上げ返済を選択して、家計に負担にならない程度の金額にしたい。それぞれのご家庭の資産状況によるので、ライフプランニング表を作成するなどして、しっかり試算することが大事なのだ。退職金で住宅ローンを完済して老後破産に追い込まれる人も少なくない。

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/