クルマってこんなに進んでるのか! ヒョンデ(ヒュンダイ)のニューモデルに感心

  • 文:小川フミオ
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楽しいクルマが日本に入ってきた。韓国の「ヒョンデ(現代自動車)」が手がける「IONIQ5(アイオニックファイブ)」と「NEXO(ネッソ)」だ。

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左がIONIQ5、右がNEXOというヒョンデのZEVコンビ

IONIQ5は、ピュアEV(電気自動車)。NEXOは、水素を燃料にして電気モーターを回す燃料電池車。 ともにZEVともよばれる。ゼロエミッションビークル、つまり排ガスゼロのクルマだ。

デザイン的にも、とりわけIONIQ5は、個性が際立っている。ぱっと見には、かつてのランチア・デルタなどを思わせるハッチバックスタイル。ボディ各所には「三角形をモチーフにした」と同社のデザイナーが教えてくれたキャラクターラインが入る。

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LEDを使った四角いポジションランプが斬新なイメージ

世界の自動車販売でつねに4位か5位という大メーカーのヒョンデ。いっぽうで、デザインに興味があるひとならご存知かもしれないが、ミラノデザインウィークなどにも積極的だ。先端技術を駆使した大規模なインスタレーションで訪問者を楽しませてくれてきた。

三角形をモチーフにしたのは、じつは物語がある、とさきのデザイナー氏。ヒョンデがジョルジェット・ジュジャーロに依頼したコンセプトモデル、ポニークーペをトリノ自動車ショーで発表したのが、1974年。そのときの「挑戦者の精神」をEVとして具体化したのが、45年後の2019年にフランクフルトの自動車ショーにおけるコンセプトモデル「45」だった。

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ホイールベースは300ミリもあるのにプロポーションは従来のハッチバックとほとんど変わらないのは、全高や前後のオーバーハングなどのバランスが計算されつくされているからだろう

この45のコンセプトをスタイリングをひっくるめて量産化したのが、2021年に本国と欧米で発表して、たちどころに大きなセールスを記録している「IONIQ5」。45から連想される三角形(の内角)のイメージを各所に採用。それにパワフルに膨らんだボディ面を組み合わせて、立体的な造型を完成させているのだ。

IONIQ5のおもしろさは、スタイリングにとどまらない。クルマとして見た場合、ボディ全長は4635ミリとミドルサイズ。それに対して、ホイールベースは3000ミリもある。メルセデス・ベンツEクラス(全長4940ミリ)の2940ミリより長い。それをインテリアスペースに活かして、まさにラウンジのような空間を実現している。

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前席中央のセンターコンソールを後にスライドさせると前席左右間の移動が行える

じっさいに試乗したのは、「Lounge(ラウンジ)」と名づけられた上級グレード。大きなモニタースクリーンいがい、操作類が目立たないようデザインされているダッシュボードと、たっぷりしたクッションのシートが印象的だ。

このシートには仕掛けが多い。ひとつは前席が左右ともにボタンひとつで、大きくリクライニングすること。脚を載せるオットマンまで出てくる。もうひとつは、後席。リクライングするうえに、電動スライド機構によって135ミリも前後に動く。そしてさらに、運転席から、すべてのシートのポジションをメモリーして呼び出せる。

リラクゼーションシートが前席にそなわるのは、充電待ちの時間のためだとか。外出先での充電が必要なとき、イライラせずリラックスして音楽を聴くなり本を読むなりすればいい、というコンセプトだ。

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IONIQ5の後席は電動で前後にスライドし、前席とのあいだに余裕ある空間をつくることもできる

後席をめいっぱい後に下げると、前席とのあいだに大きな空間が生まれる。家電を使える電源ソケットも。ヒョンデが用意したIONIQ5のカタログ写真を見ると、コーヒーテーブルなど、リビングルームのような空間が作られている。

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コンピューター画像の最小単位であるピクセルをモチーフに「パラメトリックピクセル」なるデザインテーマをボディ各所に採用したIONIQ5

走りはよい。パワフルだ。Loungeは、72.6kWhのバッテリーを搭載し、160kWの最高出力と350Nmの最大トルクを持つモーターで後輪を駆動する(前にもモーター搭載の4WDもある)。発進からぐいぐいと加速し、加速は高い速度域まで鈍らない。気がつくと、え、こんな速度、と驚くかもしれない。

いっぽうで、乗り心地はよく、乗員は揺さぶられることがなく、つねにフラットな姿勢で乗っていられる。カーブを曲がるときは、車体はあまり大きく傾かず、気持ちよいコーナリング性能が味わえるのだ。

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IONIQ5の計器盤の右端はマグネット板で写真のようにフックをつけて運転中はマスクをひっかけられるなど配慮がこまかい

車内騒音が低いのも、今回感心した。往々にしてモーター化すると、風切り音やタイヤからのノイズが目立ちがちであるものの、IONIQ5は静か。オーディオでナチュラルな音を楽しんでいられる。

デジタル技術の使いかたも、ヒョンデならではと感心させられる。とくに使い勝手がいいのは、車線変更時にウインカーレバーを操作すると、車体の死角のカメラ映像がドライバー前のモニターに映しだされるシステム。これに慣れると、装備のないクルマだと運転が不安になりそう。

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河原で見つかる丸い石のような自然が作った造型を参考にしたというNEXOのエクステリアデザイン

燃料電池車のNEXO(ネッソ)は、スタイルはより一般的なSUVだ。全長4670ミリ、全高1640ミリのやや背の高いボディと、2790ミリのホイールベースの組合せだ。水素を燃料に、特殊な装置でもって電気を取り出し、それでモーターを回す。基本的にはトヨタMIRAIなどと同じだ。

水素タンクを3本、それに衝突安全性を考えての補強が入っているものの、車重は1870キロ。電気モーターならではの軽快な走行感覚は、IONIQ5と通じる感覚だ。

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メーターとインフォテイメントのモニターが並んだNEXOのダッシュボード

私がこのクルマに乗ったのは、箱根の山道。感心したのは、カーブを曲がる身のこなしのよさである。やや重めの操舵感をもつステアリングホイールを操って走るときの、ダイレクトな感覚はよくできている。減速はしっかりするし、カーブから抜けでて加速するときは強く引っ張れるような力強さだ。

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NEXOも広々としたインテリア空間がセリングポイント

NEXOも、死角を映しだすカメラ装備。扱いやすい。満充填で820キロとメーカーではしているので、水素ステーションが自分の行動範囲で見つけやすいひとは、居心地のいいインテリアをそなえたこのクルマをいちど試してみるといいかもしれない。

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IONIQ5もNEXOもウインカーと連動してカメラモニターが作動し後方の死角を映し出してくれるのがたいへん便利(写真=筆者)

ヒョンデ・モビリティジャパンによると、今回の2台は、2022年5月から受注開始して、納車は7月を予定しているとか。ユニークなのは、基本的にオンラインのみでの販売を考えている点。先行するテスラのように、スマートフォンで購入して、納車ひきとりと整備のときのみ指定サービスセンターに出向くようなスタイルも検討中とか。

「テスラはかつて日本市場に参入したものの、2009年に撤退しました。やはり競争の激しい日本市場でも成功したいという思いがあり、施策を練って今回の再参入になりました」

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テスラモデル3などを視野にいれた戦略的な価格と、オンライン販売など新しい施策で日本での成功をめざすというヒョンデ・モビリティジャパンでマネージングダイレクターを務める加藤成昭氏

ヒョンデ・モビリティジャパンでマネージングダイレクターを務める加藤成昭氏は、試乗会の会場でそう説明してくれた。その際に、ゼロエミッションビークルに限定し、さらにオンライン販売や、若い層に向けてはシェアリングなど、あたらしいかたちを考えているそうだ。

若い層へのアピールという点では、ひょっとしたら、読者のなかには”ヒョンデといえばBTSのグローバルスポンサーだね”と知っているひともいるかも。日本では当面、そのイメージは使わず、ただし東京・原宿駅前に「Hyundai House Harajuku」をオープンして、日本のクリエイターとのコラボレーションを展示するなど、「新しいライフスタイル」を訴求する意向を明らかににしている。

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東京・原宿駅前に22年5月まで期間限定オープンのポップアップ「Hyundai House Harajuku」では試乗も受け付けている

IONIQ5のラインナップは4つ。バッテリーがやや小さいRWD(後輪駆動)のベースモデルの航続距離は498キロ(最高出力は125kW、最大トルクは350Nm)。ほかの2つのRWDモデル(160kW、350Nm)は618キロ。モーターを前後に2つもった「AWD」モデル(225kW、605Nm)はやや落ちて577キロだ。

「IONIQ5」は4つのモデルでラインナップが構成されている。58kWhのバッテリー搭載のベースモデルが479万円。上に72.6kWhの「Voyage」(519万円)と、快適装備が豊富な「Lounge」(549万円)。さらに、「Lounge AWD」が589万円となる。

燃料電池車「NEXO」の価格は776万8300円。IONIQ5とともに、クリーンエネルギー自動車補助金と、環境対応車普及促進税制の対象なので、税金が軽減され、かつ、じっさいの購入金額が低くなる場合がある。

IONIQ5は、クルマから住宅へといった外部給電ができるので、令和3年度クリーンエネルギー自動車導入促進補助金の額も上がるようだ。

Hyundai Ioniq5 Lounge
全長×全幅×全高 4635x1890x1645mm
車重 1990kg
電気モーター 後輪駆動
最高出力 160kW
最大トルク 350Nm
走行可能距離 618km(WLTC)
価格549万円

Hyundai Nexo
全長×全幅×全高 4670x1860x1640mm
車重 1870kg
燃料電池 前輪駆動
最高出力 120kW@5200rpm+70kW
最大トルク 395Nm
走行可能距離 820km
価格344万円