マツダ・ロードスター990Sは、乗らずに死ねるかと思わせるほど楽しいのだ

  • 文:小川フミオ
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私たちの、と所有形容詞をつけたくなるほど、多くのひとに、ドライブの楽しみを、買いやすい価格でもって提供してくれているマツダ・ロードスター。2021年12月に発売された特別仕様「990S」は、クルマ好きならいちどは乗ってもらいたいと言いたくなるほど、よく出来たスポーツカーだ。

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ロードスター990Sはダークブルーの専用ソフトトップをそなえる

ロードスター990Sは、車名のとおり、現代にあってはけっこう軽量な990キロの車重を特長とする。自動車の世界では”軽さにまさる性能なし”などと言われていて、操縦性に与える影響は大きい。加速性でも、カーブを曲がる性能でも、軽量ボディがいいのだ。かつ、燃費もよくなる。

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ソフトトップを上げた姿もサマになる

ひょっとしたら、読者のなかには、”軽いといっても、ロードスターのラインナップにはすでに同じく990キロの”S”が存在しているではないか”というクルマ好きもいらっしゃるかもしれない。

今回の990Sは、軽さに加えて、エンジン制御、サスペンション、ステアリングシステムなどに専用チューニングがなされている。ブレーキはブレンボ製。ホイールはレイズによる特製で、1本あたり800グラム軽量化した鍛造タイプだ。さらに、幌とブレーキキャリパーと内装の一部に専用色が採用されている。

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990Sは195/50R16タイヤにRAYS製のダークガンメタリック塗装の鍛造アルミホイール装着

ロードスターのよさは、全長3915ミリとコンパクトなボディであり、かつ運転席に座ったまま、ソフトトップの開閉が出来る使い勝手のよさが大きい。

欧州の映画にあるように、オープンカーに乗る主人公が、とつぜんの雨に振り込められたとき、速度を落としつつ、運転しながらさっと幌を引き出す。そんなシーンを自分で再現することも簡単だ。誰がやっても、カッコいいですよ。

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タイトにつくられた2人乗りのコクピットで、ステアリングホイールのグリップは細め

もちろん、ドライバビリティといって、操縦性の高さは、今回の990Sの真骨頂。最大の特徴は、新開発の「キネマティックポスチャーコントロール(KPC)」の採用だ。

KPCとは、ロードスター特有のリアサスペンションの「アンチリフト」ジオメトリーを活用して、コーナリング時に内側の後輪に微小にブレーキをかける。それによって、ロール時のボディの浮き上がりを抑え、車体全体を引き下げて旋回姿勢を安定させる効果を発揮。

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コンパクトサイズのオープン2シータースポーツカーは貴重な存在

ドライブすると、まさにそのとおりの印象だ。カーブの大小にかかわらず、車体はみごとに安定。カーブの入口、途中、そしてカーブを抜けて直線に向かう、すべての過程で、車体が路面に吸いついたように走る。おもしろくて、つい笑顔になるほど。

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フロントミドシップされた1.5リッターエンジンはカムカバーがあえてクラシックなイメージでデザインされている

日本で売られるオープンのロードスターは、1496cc4気筒エンジン搭載。最高出力は97kW(132ps)、最大トルクは152Nmで、後輪を駆動する。数値的にはけっこう控えめだけれど、軽い車重とあいまって、遅いと感じることはほとんどない。

「時速30キロでも楽しいクルマをめざしています」と、開発の総指揮をとる齋藤茂樹主査は言う。1989年にユーノス・ロードスターとして初代がデビューしていらい、いまにいたるまで、この言葉どおりの出来。魅力は基本的に変わっていない。

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最軽量グレード”S”をベースに、さらなるバネ下重量の低減と、軽さを活かしたシャシーとエンジンの専用セッティングの990S

990Sは軽量化のために遮音材や吸音材を省略している。でも、いやな音と感じない。オープンなのでやたら遮音に気をつかわなくてもいい、という前提もあるのだが、エンジン音のチューニングがうまい。しかも、よく使うエンジン回転域では、車体構造の一部をわざと共振させて”いい音”を作りだすなど、凝っている。

世の自動車メーカーが(マツダを含めて)電動化へと向かうなかで、原初的なクルマの楽しさがしっかり感じさせてくれるだけに、990Sの存在は貴重。

「複雑な電子技術を採用していないし、重量も1グラムも増えていないです」。KPCの開発を手がけたマツダの操安性能開発部の梅津大輔氏が誇らしげに語ってくれたとおり、990Sはスポーツカーとしてのロードスターの特長を拡張した仕上がりだ。

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ダッシュボードのエアコンルーバーのベゼルがブルーとピアノブラックで構成されているのも990Sの特徴

990Sは変速機もマニュアルのみ。マニュアルの経験があるひとなら、手でギアを変えていく楽しさを再発見するだろう。ギアレバーはカチカチと気持ちよく操作できるし、クラッチペダルも唐突につながるかんじはない。

「多くのかたが楽しめるように」と齋藤主査が言うように、低めのエンジン回転域からトルクがしっかり出る設定で、マニュアルの変速機も扱いやすい。ようするに、20世紀初頭から世界中で愛されてきた軽量オープンスポーツカーのよさが結晶化したような出来。それを楽しめるのは、私としてはとてもうれしい。

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格納式タルガトップをそなえるロードスターRFはパワフルなモデル

同時に、ロードスターRFにも、KPCが搭載された。ポルシェ911タルガのようにルーフの一部が取り外せるクーペボディを特徴としたモデルだ。エンジン排気量もロードスターより大きく、135kWの最高出力と205Nmの最大トルクを持つ2リッター。それに対して車重は1100キロだから、じゅうぶん力強い。

ロードスターRFにおけるKPCの作用は抜群であり、コーナリングはやはりかなり楽しい。ただしこちらはパワフルであるぶん、ドライバーに自制心が求められるともいえる。はやる心を抑えながらドライブするのもまた、スポーツカーのよさであるのだけれど。

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ロードスターRFにもKPCが採用されコーナリングの楽しさが増している

価格は、ロードスター990Sが¥2,893,000のモノグレード(ATの設定はない)。KPCは全車標準装備なので、快適装備がより充実したモデルを選ぶという手もある。ロードスターRFは¥3,461,700から。手が届きやすい価格設定もまた魅力的であるなあ。

Specifications
全長×全幅×全高 3915x1735x1235mm
1496cc直列4気筒 後輪駆動
最高出力97kW@7000rpm
最大トルク152Nm@4500rpm
価格 289万3000円