夫婦にとって資産は2人で一緒に築くという考えが強いだろう。家計の管理をどちらか片方に任せている場合、夫婦の収入を一緒に管理しているケースもある。「夫婦間のお金のやり取りは、税金がかからない」と、思っている方もいるが、知らずの内に贈与税の対象になる行為をしてしまっているケースもあるので要注意だ。
筆者のマネー講座のサービスは、ご夫婦2人で学んでも同じ金額としている。投資をするというと「家族に反対されるので投資はできません」といわれることが多いからだ。投資は危険なものと思っている方が多く、このように言われる方が多いのだろう。そのためご夫婦で一緒に参加できるようにしている。
ただし、夫婦であっても税制から考えると「自分のお金は、自分のお金」なのだ。そこを意識していない方を多く見受ける。多くの家庭では、このようにお金を管理していないだろうか? 収入の多い夫の給料から引き出して妻の名義の預金に入れ、そこから生活費として管理しながら使う。この場合、生活費のヤリクリのため妻の口座に入金するのは「贈与」ではない。
ところが! 夫が亡くなった時に問題になってくる。例えば妻がヤリクリ上手で、夫からの生活費の残りをそのまま預金に残していたケースだ。税務署からみると「夫の稼いだお金は夫のものである」ため上手にヤリクリした生活費の残りは夫のお金となってしまうのだ。
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ケースその1
→生活費の残りのお金は誰なものなのか?
「このお金は、夫からもらった少ない生活費をヤリクリして貯めたお金なんです!」と、主張しても通じない。自分で稼いだお金と証明できなければ、夫の財産として相続税がかかる。なので、夫婦であっても「自分のお金は、自分のお金」なのだ。夫からもらった生活費が余るのならば、その分は妻に生活費として渡す前に投資に回すか貯金をしておくことだ。
お勧めなのは、生活費のヤリクリで余った資金は、子どもやお孫さんの教育費として貯蓄することだ。子どもに必要な教育費に贈与税がかかることはないし、孫の教育費を支援しても非課税だ。使うまでに10年以上の期間があれば、まず預金にしておいてある程度貯まったら、資産運用しても良いだろう。冠婚葬祭などの予測が難しい特別費として預金しておいて一定額以上残っていたら、その分を夫の名義で運用するといい。
夫婦であっても貯蓄は自分で管理することが望ましい。生活費でもらったお金は、贈与の対象ではないが、残ったお金で妻の名義で株や投資信託を購入した場合、夫が亡くなった時の相続税の対象になってしまう。それを知らずに妻がヘソクリを自分の名義で運用してしまっては、いけないのだ。
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ケースその2
→夫婦間でも基礎控除を超えた金銭のやり取りに注意
夫婦間でも原則贈与税がかかることがある。夫婦は家族として共に生活しているため、自分の財産なのか相手の財産なのかという感覚が薄くなってしまう。ところが夫婦であっても、無償で財産をあげる行為は贈与に該当してしまうケースがあることを意識して欲しい。特に夫婦の口座間のお金の移動には要注意だ。
少額のお金の移動ならば問題はないのだが、高額の場合は贈与とみなされる可能性もある。数百万円、数十万円の移動の場合、贈与とみなされる可能性も考えておこう。税務署は相続の際、過去の銀行口座の履歴を調べることができるのだから、過去のお金の流れから贈与について指摘される可能性がある。何の資金だったのか明確にしておきたい。
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気を付けたいのは高級車の名義
「贈与税がかかるなんて知らなかった」という言い訳は通用しないのだ。最悪なパターンでは、延滞税や無申告加算税などペナルティも課されることもある。夫婦の口座間で多額の移動は要注意だ。贈与税がかからない基礎控除は110万円まで。この基礎控除を超えた、夫婦間のプレゼントも贈与とみなされる。
例えば結婚記念のお祝いに150万円のアクセサリーを送った時には40万円が贈与の対象になる。生活費であれば贈与の対象にならないが、生活費と嗜好品の判断は難しいのだ。よく問題になるのは、高級車をプレゼントするケース。普通の車ならば、生活に必要なものとして贈与税はかからないが、高級車を夫が全額出して買ったものを妻の名義にする場合は、贈与となる。
ただし高級車を相続する場合にも、相続税が加算されるので贈与税として支払った方がいいケースもある。相続まで考えると、贈与税を支払って妻の名義にした方が良いケースもあることは事実だ。名義を妻にする前に税理士に相談するといいだろう。
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ケースその3
→マイホームの共有名義
その他にも気を付けたいのがマイホームの持分割合だ。1つの不動産を複数人で所有することを共有という。そして共有者それぞれの所有権の割合のことを持分割合という。原則として各名義人が住宅購入について住宅ローンを含め支払った金額に応じて持分割合が決まる。計算式で表すと下記のようになる。
持分割合=名義人の支払った額÷不動産購入代金
支払い額と違った割合にしてしまうと贈与税が発生する。夫が不動産の取得費用を全額負担しているのに、妻を共有名義にした場合には贈与税の対象になる。ただし実際に妻もローンを支払っているのならば、共有名義で住宅を購入することはメリットになる。夫婦2人で住宅ローン控除が使えることだ。住宅ローン控除は、2022年から年末時点のローン残高の0.7%が13年間にわたって所得税と住民税から控除される。最大控除額は、省エネ基準に達しているかどうかで変わる。新築ならば省エネ基準に適合している場合が多いので、いままでとそれほど変わりはない。共有名義にしていれば、2人分の控除枠を使えるのは大きなメリットだ。
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共有名義のデメリットは離婚時にあり
また売却時にも共有名義のメリットはある。一定の要件を満たした住宅ならば、利益額3000万円までは特別控除で非課税になる。所有者が2人ならば、2人分の6000万円までが非課税となるのだ。ただしデメリットもあるので、注意して欲しい。ご夫婦のみならば良いのだが、相続により共有者が多くなってしまうと売却時が大変になる。共有者全員が承諾しないと売却できないからだ。
注意点はペアローンの場合、住宅ローンが2本立てになるので事務手数料や契約印紙代、登記免許税など諸経費が増える。また、離婚時の対応も複雑になる。筆者が今住んでいる家は、築2年で売りにでていたのだが、前所有者はペアローンを組んでいた。とても仲が悪くなって離婚になってしまったようで、住宅の契約時には別室での契約だった。契約するのに通常の倍、時間がかかったし、購入の話がまとまるまでにも時間を要した。売却先にもよるが、売却時には不利になる。また、売却せずにどちらかが住む場合もローンの負担額が大きく増えるので、それもまた大変なことになる。
【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/