ソニーが鋭意開発中のEVにあって、他社の製品にない強力な武器とはなんだ?

  • 文:小川フミオ
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「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ことを自社の存在意義とするのが、ソニー。なるほど、と思わせるプロダクトが、2022年1月に発表された。なんと、クルマ。自社製のピュアEVが、ラスベガスで開催の「CES」に出展されて、いっきに話題を呼んでいる。

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公道テストが22年暮れから始まっているVISION-S01

「VISION-S」と名づけられた(現時点では)コンセプトモデル。ファストバックスタイルの「01」は現在公道を使ってテスト走行を繰り返している最中。そこにSUVタイプの「02」も加えられた。話を聞くと、海外の専門会社も巻き込んで、開発はかなり本気のようだ。

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SUVタイプのVISION-S 02

22年のCESでは、「これまでにない体験とゲームの世界への没入感を実現する」と謳う「PlayStation 5」対応の次世代バーチャルリアリティシステム「PlayStation VR2」と専用コントローラー「PlayStation VR2 Sense」コントローラーの商品名称を初公開。

「PlayStation」向けゲームタイトルのIP(著作権)を活用した映画やテレビ作品を制作することを目的とした「PlayStation Productions」の取り組みについても紹介された。

同時に、創造力の発揮を支援するプロフェッショナル向けに開発されたというドローン「Airpeak」や、最新のスマートフォン「Xperia PRO-I」などもお披露目された。

「私たちのあらゆる活動を通じて、同じ興味や関心を持つ人同士がさらに深くつながり、それぞれのコミュニティの中で絆をより強めて欲しい。ソニーグループ株式会社の吉田憲一郎会長兼社長CEOのコメントも紹介されたのだ。

ソニーとクルマと聞いたとき、すぐ思いうかぶのは、昨今話題のアップルカーかもしれない。開発は継続中という。ソニーは、じつは、2001年に「pod(ポッド)」と名づけたクルマのコンセプトを、トヨタ自動車と共同開発し、この年の東京モーターショーで公開し、私たちを驚かせてくれた。私にはその記憶が強く残っている。

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AIBO的な要素を盛り込んで話題を呼んだ「pod」

「pod」は、一見おにぎりのような形態。じつは「AIBO」をクルマと合体させたようなモデルで、ヘッドランプは眼として、アンテナは尻尾として、といったぐあいに動作させ、まるでイヌのように、オーナーの気持ちを察するようなコミュニケーションをとるとされた。

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ミニpodなる形態端末が付属していて、自宅のvaioに接続すれば、データをpodに転送。ナビゲーションの目的値を自宅で入力しておけたり、オーナーの好みの音楽をかけてくれたり、と、それから20年以上たった今の最新のインフォテイメントシステムと同様のことが出来る。当時、すでにさまざまな技術の萌芽があったことの証明だ。

「pod」出るとおもしろいなと思っていたものの、企画はこのときかぎり。今回の「VISION-S」は、自動運転をはじめ、いまのソニーが持てるデジタル技術を詰め込んだという点では、ソニーでなければ作れないクルマである。ただし、「pod」のように夢のような部分はなく、しっかり現実的なのだ。

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01のリアビュー

20年のCESで「過去10年のメガトレンドは、モバイル(スマホ)で、今後のメガトレンドはモビリティになる」としたソニーだけある。「クルマで移動空間をエンタテインメント空間にしていきたいとの思いもあり、安心安全をしっかりとしながら、進化するクルマ、各種エンタテインメントを楽しめるクルマを目指しています」と広報担当者は教えてくれた。

開発スタートは2018年。チームは「pod」とは無関係とのこと。「ソニーの最先端技術を継続的に投入し、EV化が進むモビリティ環境における新たなモビリティ体験の提供」をめざすと、ソニーが用意したプレスリリースに記されている。

CMOSイメージセンサーや立体空間を3Dで正確に把握するLiDAR(ライダー)、ドライバー認証やパッセンジャーを見守るためのモニタリング機能、ジェスチャーコマンドや音声コマンドへの対応、各システムのアップデートがOTA(Over the air)で車両へ反映される5Gのモバイル通信、といったぐあい。

「スマートフォンの開発を通じて培ってきた通信技術や通信セキュリティ等の社内技術や知見を活かしたリモート運転を自動運転時代の到来を見据えた重要技術と位置付けて」いるとするソニー。ADAS(運転支援機能)は Level 2+という。

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市販化に向けて公道テストが始まっているVISION-S

冒頭で、開発は本気、としたのは、20年からVISION-S 01の公道試験が始まっていることだ。車両のデザインはソニーのクリエティブセンターが手がけ、開発はオーストリア・グラーツのマグナシュタイヤ社が協力する。

グラーツは、じつは現代のモータウン(Motor+Town)。自動車開発会社がひしめき、世界中の自動車会社をクライアントに、車体、エンジン、ドライブトレイン、それに電子技術など、ハードウェアもソフトウェアも開発を手がける。

かつて、ホンダS2000の凝りに凝ったエンジンもグラーツで開発されたといわれたし、ドイツの自動車会社のSUVなど、いわゆる企画モノはグラーツの会社の提案をもとに製品化されることも少なくない。

マグナシュタイヤ社はなかでも老舗。たとえばメルセデス・ベンツのために4マティックというフルタイム4WDシステムを開発している。VISION-Sがそこで開発されているというから、これがソニーの本気の証明のように思うのだ。

アップルカーと通称されるアップルが開発中といわれるEVのばあい、詳細は厚いベールの向こうがわで、すべてが憶測の域をでない。それに対してVISION-Sははるかに具体的である。

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エンターテイメント空間を作りあげるのにソニーのコンテンツ力がものを言う

ソニーが手がけるため、先進技術が多く盛り込まれるとは先述のとおり。同時に、同社では「モビリティエンタテインメント空間の深化」とコンセプトを表現。

車室内ではダッシュボードにパノラミックスクリーンを設置。加えて、後席も左右にディスプレイを取り付け、映像配信サービス「BRAVIA CORE for VISION-S」を視聴可能にするとか。「載臨場感のある映像視聴体験の提供」とはソニー。

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VISION-S 02の車内

さらに、立体的な音場を実現するシートスピーカーとともに、「360 Reality Audio」に対応したストリーミングサービスにも対応。車室内にいるひとは、生演奏を実体験するぐらい、「没入感のある音楽体験」(ソニー)が得られるという。

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02のリアシートもエンターテイメント空間になるという

自宅のPlayStationに車内からリモート接続を可能にする。それによって、車室内でのゲーム体験と、さらに、クラウド経由でストリーミングして数かずのゲームアプリが使えるそうだ。

車室をラウンジ化するアイディアは、フォルクスワーゲンやBMWミニもコンセプトモデルで表現。クルマに移動手段とは別の価値を付与するMaaS(マーズ=Mobility as a Service)の一環ととらえてもいいだろう。

中国の高級EVでは、大きなモニターでゲームが楽しめる装備は、少し前から”当たり前”になってきている。そこについに大御所ソニーの参入というわけだ。同社は、映像、音楽、ゲームのコンテンツ企業なので、走りの機能に加えて、VISION-Sは、マーケティングにおける強力な武器を最初から手にしているといえる。

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スタイリングは荒唐無稽でなく現実味がある

車両の詳細な諸元や、販売網、それに価格といったものは未公表。ソニーでは「2022年春に事業会社「ソニーモビリティ株式会社」を設立し、EVの市場投入を本格的に検討して」いくことを発表している。販売は、「日米欧を予定」とは同社広報室の弁。