大胆さと繊細さを併せもつ美しいデザインと高い実用性が、国内外で高い評価を得ている家具ブランドのリッツウェル。1992年に福岡県で創業され今年で30周年を迎える同ブランドだが、1月20日にフラッグシップストアとなる「リッツウェル 表参道 ショップ&アトリエ」を東京・表参道至近にオープンした。店内にはアトリエが併設され、同ブランドが創業当初より大切にしてきた「一つひとつの家具に個性を生む」ための、自社の職人による椅子張り作業が見られる。
そんなリッツウェルの世界観をより深く体感できる旗艦店へ、東京大学生産技術研究所の特任教授であり、建築家でもある豊田啓介とともに訪れた。
リッツウェルの新たな旗艦店に、大学教授/建築家の豊田啓介と訪問
デジタル技術を活かした「コンピュテーショナル・デザイン」の旗手として知られる、東京大学生産技術研究所特任教授で、建築家でもある豊田啓介。単に建築や都市のデザインにデジタル技術を用いるだけでなく、近年ではデジタル情報とリアルなモノの世界をシームレスに接続するインフラデザインなどの分野を開拓。産学連携のための研究所の開設や、アカデミックな人材育成のための学会の立ち上げに携わるなど、活動の領域を次々と広げている。
「僕は建築家なので、本来は情報がモノに接続する部分、実際に触れることでしか体感できない部分についてデザインし、その体験を提供できることこそが自分たちの価値の出しどころだと思っています」と語る豊田。
「でも気がつけば、いまではデジタルな情報領域の仕事をするのが僕の役割みたいになっていて、新しい仕事の依頼もデジタルばかり。それはそれで面白いし、社会的に足りていないので僕がやらなければという使命感もあるのですが、一方で情報領域をやればやるほど、デジタルでは代替できない、リアルなモノがもつ強さや価値をより感じるようにもなっているんです。だからこそ、デジタルとまったく関係なく、徹底的にディテールや質感にこだわった建物も設計してみたいという願望もあります。規模が大きくなると密度が薄くなってしまうので、小さい別荘みたいなものがいいですね」。そんな豊田は、リッツウェルの家具に触れて何を感じるのだろうか。
---fadeinPager---
素材のよさを活かした、こだわりの家具が揃う
あまり物欲がなく、ファッションなどにもあまりこだわらないという豊田だが、家具となると話は別だ。「仕事柄というのもありますが、素敵な空間や、良質な家具があるところで過ごしたいという気持ちは常にあります」。商業施設のインテリアデザインの仕事も数多く手がけている豊田だけに、空間づくりにおける家具の重要性も熟知している。豊田が昔から重視しているのは、モノとしての存在感があり、分厚い質感を感じられるかどうか。
「たとえば椅子なら、実際に座った時の密実さとか重厚感。大量生産のものは、写真ではそれなりに見えるんだけど、触った時に残念だとか、使った時に薄っぺらさが感じられてしまうものが多いんですよね」。上質な天然素材を用い、職人のていねいな手仕事の工程が施されたリッツウェルの家具は、そうしたマスプロダクト品とは対極的な存在だ。
「西洋スタイルの家具の魅力は重厚さやリッチさ、たっぷり感だと思うのですが、家具づくりというのは何世代もかけて醸成される文化でもあるので、再現するのは難しいんです。しかし、リッツウェルの家具にはリッチ感がちゃんとありますね。こういうテイストの家具が日本発のものとしてあるのは、嬉しい驚きです」
実用性と審美性のふたつの視点からブラッシュアップを繰り返すことで、時が経っても古さを感じさせない、タイムレスなデザインを纏うリッツウェルの家具。使い心地や触り心地を徹底的に研究し、幾度もの試作を繰り返しながらじっくりつくりあげられている。
「家具も建築も、見せたいものを見せるために、裏側でどう頑張っているのかというところがキモ。『ああ、ここでこうしているからこれが実現できているんだな』っていう部分をついつい見ちゃいますね。それを分析できないとデザインとして提供することもできないので。また『この質感の違いはなにが原因なんだろう』という視点で常日頃から気にして見ています」と語る豊田。
展示されている品の素材や構造について、表からは見えない部分に至るまでスタッフに質問していた豊田。「たとえば椅子なら、パイプでは剛性不足になる構造の場合は無垢の金属をフレームに使ったり、指先に触れる部分に継ぎ目が当たらないように肘掛け部分の形状を工夫していたりする。歩留まりやコストといったことを考えてつい二の足を踏んでしまいたくなるような部分でも、必要なら妥協はしない。素材のよさを活かすために、細部までとてもこだわってつくっていることがわかりました」。
---fadeinPager---
併設のアトリエで職人の技術を堪能!
「リッツウェル 表参道 ショップ&アトリエ」の最大の特長は、なんといっても目の前で職人の作業を見学できるという点だろう。併設のアトリエで見られるのは、椅子の座面や背にクッション材を詰め、張地を張って覆う椅子張りの作業。デモ用ではなく、仕上げられた椅子は実際にここから出荷される。「このアトリエの存在は嬉しいですね。自分自身見ていて楽しいし、子どもにも見せてあげたい」と語る豊田。
「こういう家具って、愛着を感じてナンボの世界だと思うんですが、愛着はカタチやカタログに載っているストーリーだけで生まれるものじゃない。誰かが思いを込めている過程に触れること、たとえばこのアトリエで職人が革をギューッと引っ張っている時の手を見て、その力の入り方を感じるとか、そういった体験の総体として醸成されていくものだと思うんです」。まさにリッツウェルが創業以来目指しているのは「永く使えば使うほど愛着が湧き、使う人がだんだんと好きになっていく」家具づくり。
家具は我々にとって身近な存在だが、どうやってつくられているのか意外に知らないもの。完成品を見るだけではわからない細部へのこだわりも、職人の手仕事を通じて感じることができ、それが愛着へとつながっていくのだ。
1992年の創業以来、一貫してメイド・イン・ジャパンの家具にこだわり、日本国内で企画開発から製造までの全工程を手がけているリッツウェル。東京のアトリエで仕上げられる製品はもちろんごく一部で、大半は開発拠点となる本社のある福岡で製産されている。同社は2019年、博多から電車やクルマで約30〜40分の糸島市に「糸島シーサイドファクトリー」を開設。美しい玄界灘を望む松林の中という絶好のロケーションに佇むこの工場は、「職人としての美意識や技術力は、快適な空間に身を置いてこそ磨かれる」という信念が結実したものだ。豊田は、こうした姿勢がとても嬉しいのだと言う。
「イタリアやドイツでは、世界的な家具ブランドがあえて地方に本社と工場を構え、周辺の雇用をエコシステムとして維持している。都会と地方に文化的な格差はなくて、地方には地方のプライドとクオリティがちゃんとある。ああいう文化はいいなと思っていたんですが、日本に根付くためには地方にそういう企業がないといけない。今日、それがあるんだということを知って嬉しいんです」。
リッツウェルの製品に直に触れ、細部までこだわったものづくりの姿勢に豊田は強い共感を覚えたようだ。
Ritzwell 表参道 ショップ&アトリエ
住所:東京都港区北青山3-4-3 ののあおやま1F
TEL:03-3423-2929
営業時間:11時~19時
定休日:水曜・年末年始
問い合わせ先/リッツウェル
https://ritzwell.com/special/