福岡発の家具ブランド・リッツウェルの新たな旗艦店で、大学教授/建築家の豊田啓介が体感した職人の手仕事

  • 文:和田達彦 写真:齋藤誠一

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北青山三丁目の複合施設「ののあおやま」1階にオープンした「リッツウェル 表参道 ショップ&アトリエ」。

大胆さと繊細さを併せもつ美しいデザインと高い実用性が、国内外で高い評価を得ている家具ブランドのリッツウェル。1992年に福岡県で創業され今年で30周年を迎える同ブランドだが、1月20日にフラッグシップストアとなる「リッツウェル 表参道 ショップ&アトリエ」を東京・表参道至近にオープンした。店内にはアトリエが併設され、同ブランドが創業当初より大切にしてきた「一つひとつの家具に個性を生む」ための、自社の職人による椅子張り作業が見られる。

そんなリッツウェルの世界観をより深く体感できる旗艦店へ、東京大学生産技術研究所の特任教授であり、建築家でもある豊田啓介とともに訪れた。

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広々とした店内には、リッツウェルのさまざまな家具の展示スペースとともにアトリエを併設。

リッツウェルの新たな旗艦店に、大学教授/建築家の豊田啓介と訪問

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豊田啓介●1972年、千葉県生まれ。96年、東京大学工学部建築学科卒業。安藤忠雄建築研究所、コロンビア大学建築学部修士課程、SHoP Architectsを経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所noizを蔡佳萱と設立(16年より酒井康介が加わる)。17年「建築・都市×テック×ビジネス」をテーマにした領域横断プラットフォームgluonを金田充弘と設立。コンピュテーショナル・デザインを積極的に取り入れた設計・製作・研究・コンサルティングなどの活動を、建築からプロダクト、都市、ファッションなど、多分野横断型で展開している。21年より東京大学生産技術研究所特任教授。

デジタル技術を活かした「コンピュテーショナル・デザイン」の旗手として知られる、東京大学生産技術研究所特任教授で、建築家でもある豊田啓介。単に建築や都市のデザインにデジタル技術を用いるだけでなく、近年ではデジタル情報とリアルなモノの世界をシームレスに接続するインフラデザインなどの分野を開拓。産学連携のための研究所の開設や、アカデミックな人材育成のための学会の立ち上げに携わるなど、活動の領域を次々と広げている。

「僕は建築家なので、本来は情報がモノに接続する部分、実際に触れることでしか体感できない部分についてデザインし、その体験を提供できることこそが自分たちの価値の出しどころだと思っています」と語る豊田。

「でも気がつけば、いまではデジタルな情報領域の仕事をするのが僕の役割みたいになっていて、新しい仕事の依頼もデジタルばかり。それはそれで面白いし、社会的に足りていないので僕がやらなければという使命感もあるのですが、一方で情報領域をやればやるほど、デジタルでは代替できない、リアルなモノがもつ強さや価値をより感じるようにもなっているんです。だからこそ、デジタルとまったく関係なく、徹底的にディテールや質感にこだわった建物も設計してみたいという願望もあります。規模が大きくなると密度が薄くなってしまうので、小さい別荘みたいなものがいいですね」。そんな豊田は、リッツウェルの家具に触れて何を感じるのだろうか。

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2008年から世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ」に出展し続けているリッツウェル。16年には世界の一流メーカーが集まる人気会場「デザインホール5号館(HALL5)」にアジアブランドとして初めての出展を果たした。その他にも国際的デザインアワードで受賞するなど、海外からも高い評価を得ている。写真中央の四角形のスペースは、ミラノサローネでの展示スペースをイメージして設計された。

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無垢の木材や、ベジタブルタンニンなめしの革など、天然素材を用いることで、独特の風合いや温かみを醸し出すリッツウェルの家具。パーツの展示などからも、素材そのものの美しさへのこだわりが感じられる。

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素材のよさを活かした、こだわりの家具が揃う

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「リッツウェル 表参道 ショップ&アトリエ」のオープンを記念して限定5脚でつくられた、特別仕様の「IBIZA FORTE easy chair(イビザ・フォルテ イージーチェア)」。クッションのパイピング、厚革のステッチなどにポイントカラーをあしらっている。¥566,500(税込)

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「ぼてっとしているところと細いところとのコントラストがすごく好きです。イタリアのミッドセンチュリー家具を思わせますね」と豊田。「ローチェアは座る時の負荷が大きいので、普通ならありえないほど華奢な構造なんですが、そのために厚みのあるパイプを使っているんですね。細いけれど座っても気にならない。よく考えてつくられています」

あまり物欲がなく、ファッションなどにもあまりこだわらないという豊田だが、家具となると話は別だ。「仕事柄というのもありますが、素敵な空間や、良質な家具があるところで過ごしたいという気持ちは常にあります」。商業施設のインテリアデザインの仕事も数多く手がけている豊田だけに、空間づくりにおける家具の重要性も熟知している。豊田が昔から重視しているのは、モノとしての存在感があり、分厚い質感を感じられるかどうか。

「たとえば椅子なら、実際に座った時の密実さとか重厚感。大量生産のものは、写真ではそれなりに見えるんだけど、触った時に残念だとか、使った時に薄っぺらさが感じられてしまうものが多いんですよね」。上質な天然素材を用い、職人のていねいな手仕事の工程が施されたリッツウェルの家具は、そうしたマスプロダクト品とは対極的な存在だ。

「西洋スタイルの家具の魅力は重厚さやリッチさ、たっぷり感だと思うのですが、家具づくりというのは何世代もかけて醸成される文化でもあるので、再現するのは難しいんです。しかし、リッツウェルの家具にはリッチ感がちゃんとありますね。こういうテイストの家具が日本発のものとしてあるのは、嬉しい驚きです」

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「BEATRIX(ベアトリクス) 」シリーズの、イージーチェアとオットマンのセット。大きく湾曲したヘッドレストと高いクッション性が生み出す、包み込まれるような座り心地が魅力だ。椅子はラージとミディアムの2サイズ展開で、張地はファブリックやレザーからさまざまな組み合わせが選べる。イージーチェア ¥353,100(税込)~、オットマン ¥136,400(税込)~

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伝統的な「蛇腹戸」を引き戸に取り入れたAVボード/サイドボードの「JABARA(ジャバラ)」シリーズ。引き戸は一本一本細く切り分け、丸みをもたせた無垢材で構成されている。AVボードは2019年に、ドイツの権威あるプロダクトデザイン賞であるレッド・ドット・デザイン賞で最高賞となる「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞。¥440,000(税込)~。「この製品は話題になったので知っていましたが、引き戸のレールは金属を使わずに無垢の木のままにしているとは気づかなかった。動かす時の摩擦抵抗や擦れる音のためにあえてそうしていると聞き、確かにそれもクオリティのひとつだと感心しました」

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イージーチェアの座り心地を確かめる豊田。「一見、張りがありそうですが、見た目よりふかふかしてやわらかい。レザーも気持ちよさそうだけど、このファブリックもブランケットに包まれている感じがしていいですね。それでいてちゃんと支えてくれるし、1日中読書していられます。もう今日はこれで終わりにしたいぐらいです(笑)」

実用性と審美性のふたつの視点からブラッシュアップを繰り返すことで、時が経っても古さを感じさせない、タイムレスなデザインを纏うリッツウェルの家具。使い心地や触り心地を徹底的に研究し、幾度もの試作を繰り返しながらじっくりつくりあげられている。

「家具も建築も、見せたいものを見せるために、裏側でどう頑張っているのかというところがキモ。『ああ、ここでこうしているからこれが実現できているんだな』っていう部分をついつい見ちゃいますね。それを分析できないとデザインとして提供することもできないので。また『この質感の違いはなにが原因なんだろう』という視点で常日頃から気にして見ています」と語る豊田。

展示されている品の素材や構造について、表からは見えない部分に至るまでスタッフに質問していた豊田。「たとえば椅子なら、パイプでは剛性不足になる構造の場合は無垢の金属をフレームに使ったり、指先に触れる部分に継ぎ目が当たらないように肘掛け部分の形状を工夫していたりする。歩留まりやコストといったことを考えてつい二の足を踏んでしまいたくなるような部分でも、必要なら妥協はしない。素材のよさを活かすために、細部までとてもこだわってつくっていることがわかりました」。

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エッジにあえて丸みをもたせた天板が特徴的な「MO TABLE(エムオー テーブル)」と、リッツウェルを象徴するシリーズである「RIVAGE(リヴァージュ)」のアームチェア。手前は「MT BENCH(エムティー ベンチ)」のベンチ。テーブル ¥616,000(税込)~、アームチェア ¥141,900(税込)~、ベンチ ¥327,800(税込)~
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「リヴァージュ」シリーズの椅子は、日本刀の反りをイメージしたアームレストのフォルムがユニーク。こちらは革張りのイージーチェア。木部はウォールナットやナラなどから選べる。¥218,900(税込)~
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同じく「リヴァージュ」シリーズの布張りラウンジチェア。脚部は標準では黒のスチールだが、このようにヘアライン仕上げのカラーステンレスにアップグレード可能。¥213,400(税込)~
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丸みを帯びた天板のエッジに沿って、巻き込むように張り込まれた厚革パッドが印象的な「MO ブリッジ」のデスク。脚のラインが目を引く椅子は「CLAUDE(クロード)」シリーズのもの。デスク ¥358,600(税込)~、チェア ¥104,500(税込)~

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併設のアトリエで職人の技術を堪能!

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アトリエで行われている椅子張りの作業に見入る豊田。「いつまでも見続けていられますね」。大きさにもよるが、1脚の椅子張りにかかる時間は3〜5時間。アトリエでは職人の休憩時間を除き、いつでも作業を見学することができる。

「リッツウェル 表参道 ショップ&アトリエ」の最大の特長は、なんといっても目の前で職人の作業を見学できるという点だろう。併設のアトリエで見られるのは、椅子の座面や背にクッション材を詰め、張地を張って覆う椅子張りの作業。デモ用ではなく、仕上げられた椅子は実際にここから出荷される。「このアトリエの存在は嬉しいですね。自分自身見ていて楽しいし、子どもにも見せてあげたい」と語る豊田。

「こういう家具って、愛着を感じてナンボの世界だと思うんですが、愛着はカタチやカタログに載っているストーリーだけで生まれるものじゃない。誰かが思いを込めている過程に触れること、たとえばこのアトリエで職人が革をギューッと引っ張っている時の手を見て、その力の入り方を感じるとか、そういった体験の総体として醸成されていくものだと思うんです」。まさにリッツウェルが創業以来目指しているのは「永く使えば使うほど愛着が湧き、使う人がだんだんと好きになっていく」家具づくり。

家具は我々にとって身近な存在だが、どうやってつくられているのか意外に知らないもの。完成品を見るだけではわからない細部へのこだわりも、職人の手仕事を通じて感じることができ、それが愛着へとつながっていくのだ。

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椅子張りは、プロダクト全体のシルエットを決め、快適な座り心地を実現させる重要な仕上げ作業。木材や革はひとつとして同じものがないので、職人が感触やクセを手で確かめながら張り込んでいく。

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この日作業していた製品と同型の、「リヴァージュ」シリーズのスツール。天然皮革の表情が最も美しく見えるように、引っ張る角度や強さを調整しながら均一な張りを生み出すのが職人の腕の見せどころ。¥105,600(税込)~

1992年の創業以来、一貫してメイド・イン・ジャパンの家具にこだわり、日本国内で企画開発から製造までの全工程を手がけているリッツウェル。東京のアトリエで仕上げられる製品はもちろんごく一部で、大半は開発拠点となる本社のある福岡で製産されている。同社は2019年、博多から電車やクルマで約30〜40分の糸島市に「糸島シーサイドファクトリー」を開設。美しい玄界灘を望む松林の中という絶好のロケーションに佇むこの工場は、「職人としての美意識や技術力は、快適な空間に身を置いてこそ磨かれる」という信念が結実したものだ。豊田は、こうした姿勢がとても嬉しいのだと言う。

「イタリアやドイツでは、世界的な家具ブランドがあえて地方に本社と工場を構え、周辺の雇用をエコシステムとして維持している。都会と地方に文化的な格差はなくて、地方には地方のプライドとクオリティがちゃんとある。ああいう文化はいいなと思っていたんですが、日本に根付くためには地方にそういう企業がないといけない。今日、それがあるんだということを知って嬉しいんです」。

リッツウェルの製品に直に触れ、細部までこだわったものづくりの姿勢に豊田は強い共感を覚えたようだ。

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「イタリアやドイツでは、親子2世代、3世代にわたって同じ工場で務めている職人もいます。リッツウェルもそういうプライドを引き継いでいけるようなブランドになってほしいですね」と語る豊田。

Ritzwell 表参道 ショップ&アトリエ

住所:東京都港区北青山3-4-3 ののあおやま1F
TEL:03-3423-2929
営業時間:11時~19時
定休日:水曜・年末年始

問い合わせ先/リッツウェル
https://ritzwell.com/special/