ロボットフィギュア?いや、美術作品!バレンシアガとのコラボも話題な池内啓人の個展がエモい

  • 写真・文:高橋一史
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それが絵画なのかイラストなのか、フィギュアなのか彫刻なのか、境界線はあいまいなもの。
マスコミ文章を書くとき、私は原則として自分が感じた感覚と判断に従います。
ニュースリリースの紹介文にアートと書かれていても、作家の肩書がアーティストでも、ギャラリーで展覧会をやっていても、違和感があればそう呼ばないように努めます。
もっともイラストが絵画より魅力が薄いことはありませんし、部屋に置いて毎日眺めるなら彫刻よりフィギュアのほうが心地いいことだってあります。
ただ作品に製作者の思想が深く息づき、幾重もの感情を呼び起こす奥行きがあるとき、そこに芸術を感じて強く引き込まれることも事実。

1月8日(土)〜30日(日)まで東京・渋谷の商業施設「レイヤードミヤシタパーク」内のギャラリー「SAI」で、
造形作家の池内啓人さんの個展「IKEUCHI HIROTO EXHIBITION」が開催中です(入場無料)。
これほどの量の展示は初となる試み。
実物を見たことがなかったもので楽しみにしていたところ、
ギャラリーからオープン前のレセプションのご案内をいただきまして。
期待感満載で(ハードルをめちゃ上げして)行ってきました。


結果。
予想を上回る面白さ。
いわゆるSF趣味とは次元が違います。
サイバーなメカが人間の生活に入り込んだ、現実になった仮想空間。
20世紀のSF映画やSFアニメが描いてきた未来像の文脈に沿うパラレルワールド。
それがパーソナルな空想世界の表現で終わらず、現代の私たちのリアルな生活と複雑に絡む社会性があることに芸術を感じました。
優れた造形の、その先にあるもの。
自分が生きてる常識がグラつく感じ。
映画『マトリックス』じゃないですけど。

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バレンシアガ2022年春夏ルックにも登場した、実際に人が乗って操作できるメカスーツ。
見た瞬間に頭に浮かんだのは、映画『エイリアン2』の終盤シーン。
シガニー・ウィーバー演じる主人公が運転する、人型の作業機械。

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エレコムのゲームコントローラーが!

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パソコンのキーボードも。

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WEBカメラも搭載。

池内さんの作品は、パソコンらのガジェットと、プラモデル部品で構成されています。
一言で言えば、コラージュ。
その手法こそが、私たちが暮らす現実社会とつながる一本の線を生んでいます。
ありえないオブジェクトなのに、身近に思える不思議さ。

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ヘッドセットシリーズは必見です。
マスクをして人前で顔を隠すのが当たり前になったパンデミック生活とリンクする、異次元にあるもうひとつの社会。
造形の美しさも際立ちます。

SFホラー映画『ヴァイラス』は人間の肉体と機械が融合していく、まー気色悪い作品ですが、
池内作品に心地よさがあるのはメカがあくまでも人が使う道具として存在してるからでしょう。
人という存在を否定してない。
フェティッシュなエロス表現もありませんから、お子さんも安心な展覧会です。

池内さんが過去のインタビューで幾度となく語っているのが、子供のころにアニメの『機動戦士ガンダム』シリーズや『攻殻機動隊』、映画『スターウォーズ』シリーズを見て育った自分が思い描いた未来は、デコラティブなメカの世界だったと。
でも現実に未来になったらスマホのようにメカはシンプルになり、そのギャップを埋めるメカをつくっていると。
だからヘッドホンなら音楽を聴けるようにするし、モニタもちゃんと映るようにしているそう。
機能する構造からしても、フィギュアじゃないんですこれは。

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体中にメカを搭載した女性。
普通に街を歩いているムードが最高。

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お掃除セット!
銃のような掃除機に、ルンバ型の床拭きロボットまで。

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モデルガンの老舗、東京マルイが原型を提供したエアガン。

パソコンとジオラマを融合させた多摩美術大学の卒業制作品が、13年の第17回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞。
オーストリアの世界的メディアアートイベント「アルスエレクトロニカ」に招待されるなど、デジタル分野で注目される池内さん。
ゲーム内でコレクション発表するほどサイバー空間に夢中なファッションブランド、バレンシアガからもラブコールが。
ただ私の感覚だと、池内作品はいい意味でもっとアナログ。
実現しなかった未来を実現させようとする作品の目的と高い美意識は、テクノロジーの可能性を追求するメディアアートとは別のベクトルにあると思えてなりません。

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ギャラリー会場のSAIは、ファッションショップや飲食が並ぶ3階にあります。
夜遅くまでやってるのも嬉しいですね。
若いストリートテイストが得意なギャラリーですが、いつも確かな目線で展示対象が選ばれているハイレベルなスペースです。


あ、そうそう、「スターウォーズを鑑賞しはじめてもすぐに寝てしまう」という会場にいた知り合い女子によると、これらの作品はなんだかよくわからないそうです(笑)。
好きな映画ジャンルの筆頭がSFという私ほど皆さんがお好きかはなんともいえず。

ただSFが好きといっても、『攻殻機動隊』『新世紀エヴァンゲリオン』は数話見て、陰鬱なムードとカタカナ特殊用語だらけのサイバー脚本についていけず挫折した人間です。
『機動戦士ガンダム』への興味は中学生で終わり。
でも『コブラ』は、人生最高の漫画TOP5に入る。
トム・クルーズ主演の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は大好き、しかし『トランスフォーマー』は小学校低学年向けに思えてダメ。
自分もそんな感じ、ってな人はきっとワクワクできる展覧会です。

All Photos©KAZUSHI

IKEUCHI HIROTO EXHIBITION

2022年1月8日(土) ~ 1月30 日(日)
SAI
東京都渋谷区神宮前 6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
営業:11時〜20時
無休
www.saiart.jp

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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