ここのところ、アウディはかなりおもしろい。つくづくそう思わせてくれるのが、2021年12月に試乗できた新型「RS3セダン」だ。400馬力のパワフルな全輪駆動。サーキットでもじゅうぶん楽しめる性能ぶりを謳っている。
もうひとつの魅力はスタイリングだ。ベースになったA3に対して、太いタイヤを履くからフェンダーまわりは張り出しているし、フロント回りには、エンジンやブレーキに冷却気を導くための孔が空けられている。そこが雰囲気だ。
さらに、空気の流れも徹底的に考えられている。採り入れた空気を効果的に吸い出して、乱流が起きて車速が落ちるのを防いだり、車体の上を流れる空気を利用して、車体を下に落ち着いて空気抵抗を減らすダウンフォースを生んだり。ようするに、スポーツカー的な機能美に満ちている。アウディ、ここんとこのデザインがうまい。
みなさんは、ICEって言葉をご存知だろうか。BEV(バッテリー駆動の電気自動車)の対概念といえばいいのか、内燃機関(エンジン)搭載車のことだ。
アウディがおもしろい、としたのは、BEVとICE、ともに、可能性を追求している感があるから。アウディ的なBEVの代表選手は、このサイトでも紹介しているピュアEV、e-tron(イートロン)だ。
たとえば、スポーツモデルのe-tron GT。一充電で、航続距離534キロを誇る。私は、東京と静岡の日本平のてっぺんまで往復した際、あと100キロ以上走れるとバッテリー残量計に表示されていたのに、驚いた記憶がある。
いっぽう、富士スピードウェイで走らせたら、びっくりするぐらい速かった。路面に張り付くように走り、車体の動きは終始安定。ブレーキはしっかり効く。カーブからの脱出速度は、モーターの得意とするところで、速い。新時代のレースカーだと私は思った。
クルマじたいは排出ガスを出さないという点では、環境適合性が、ICEより高い。同時に、ごく低回転からトルクがたっぷりでるパワフルさも、ICEとはちがう魅力。
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e-tron GTを手がけるいっぽう、アウディのICEはおもしろい。それが、最新のRS3セダンだ(同時にRS3スポーツバックも発表)。エンジンはオールアルミ製の2.5リッター直列5気筒。最高出力は294kW(400ps)、最大トルクは500Nmを発揮する。
パワフルなエンジンには、アウディ得意の4輪駆動システム「クワトロ」の組合せ。レース活動を担当するアウディ・スポーツGmbHが開発しただけあって、RS3のクワトロには「RSトルクスプリッター」という機構が採用されている。
トルク(駆動力)を左右と前後でスプリット(振り分け)するというとおり、後輪は左右の駆動力を完全に可変配分。たとえば、 サーキットなどでは、コーナリング時に外側の後輪への駆動力を増加させる。車両が外側にふくらんでカーブを曲がる速度が落ちるのを防ぐのが目的だ。
直進になると、後輪左右へは駆動力が均等に配分される。また、高速巡航など、いわゆる負荷が低いときは、後輪への駆動力はカットされ、前輪駆動となって燃費をかせぐ。
こむずかしいシステムことばかり書き連ねて、恐縮です。それでもRS3の真骨頂は、走りを追求するための技術のかたまり、みたいなところにあると思うので、もうすこしだけ。
サスペンションシステムも、RS3は凝っている。専用開発されたダンパーを採用。たいてい筒型をしているダンパーの働きは、スプリングバネの動きの規制にある。車両が動くのに合わせて、スプリングが伸びたり縮んだりするとき、その動きを制御して、最適な運動性能をもたらすのがダンパーだ。
アウディではダンパーにバルブシステムを設けて、伸びと縮み、ともに最適な動きをもたらすようにしている。さらに、オプションでは、前後左右のダンパーを個別に電子制御する「RSダンピングコントロールサスペンション」も。
「アウディドライブセレクト」という車内からモードを選べるドライブモードセレクターと連動して、「RSダンピングコントロールサスペンション」は動く。
RS3には、駆動力を外輪後輪に100パーセント配分して、ドリフトを容易にする「RSトルクリヤ」と、サーキット走行時にセミスリックタイヤに対応する「RS パフォーマンス」なる2つのモードが追加されているのも特徴だ。
「RS パフォーマンス」では、トルクスプリッターが働いて、アンダーステアおよび、パワフルゆえ後輪が外側に膨らもうとするオーバーステアを最小限に抑制する。それによって、「狙った走行 ラインを外すことなく、非常にダイナミックでスポーティな走りを実現」するとアウディではしている。
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はたして、富士スピードウェイを走らせたさい、RS3セダンは、いってみれば目がさめるようなスポーティなドライブを味わわせてくれた。
飛び出すように発進し、みるみる速度を上げていく。どこまでも回転が上がっていき、同時に、ぐんぐんと力が増していくのを感じさせる、すばらしい感覚だ。エンジン万歳と言葉がつい口をついて出そうになる。
ブレーキの制動力は強力であるうえ、ペダルを踏んだときの減速性は繊細。ドライバーは、慣れれば、非常に細かく減速のコントロールができる。これはスポーツカーの重要な要件で、運転者との強い一体感を感じさせてくれるので、安心して速度を上げて走れるのだ。
握りが太めで、径の小さめなステアリングホイールを切り込んだとき、車体が向きを変える速度もまた速い。かつ、カーブでは遠心力で車体が傾くものであるが、その傾き度合いは、よくできたダンパーがしっかりコントロールしてくれる。
路面に吸いつくように走るので、ドライブしている身としては、カーブを抜けたあと、どこへ向かって加速していけばいいか、視線がぶれないので、アクションが速くなる。
目を向けた方向に向けて、小径で扱いやすいステアリングホイールの動きだけで、車体はさっと向きを変える。手で7段ツインクラッチ変速機のギアセレクターを操作して、入口ではギアを落とし回転を維持、そのあと出口が見えたら加速とともにギアをぽんっと上げる。5気筒エンジンは吠えるようなサウンドともに、パワーをしぼりだす。とまあ、そんなことを味わえるクルマなのだ。
コクピットは、サーキット走行のための機能性が考えられている。メーター類は見やすいし、ここで書いてきたように、小径ステアリングホイールはグリップが滑りにくい人工スウェード巻きだし、その背後に設けられたパドル型のギアセレクターも扱いやすい。
専用シートはしっかりからだを保持してくれる。きついカーブを曲がっていくときに、私のからだが不安定になることはなかった。
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同時にコクピット内の審美性は高い。私が感心してしまったのは、色づかいだ。ボディと同色の差し入れが、ダッシュボードやシートに用いられている。試乗したのは「キャラミグリーン」というあざやかなグリーンだった。その色をシートのステッチやショルダー部に使っている。この凝りかたはさすが。気分がアガるの必至だ。
審美性だけでない。10.1インチのタッチディスプ レイには、エンジンのクーラント温度、エンジン温度、トランスミッションオイル温度、そして、G メーターが表示される。ステアリングホイールには、前記のRS モードボタンが配置されている。
外観上は、フロントにワイドな「Rバンパー」装着。アウディ言うところの「シングルフレームグリル」には光沢のあるブラックのハニカム パターンを採用。ウェッジシェイプの LED ヘッドランプと、やはりLED を使ったリヤコンビネー ションランプ(ダイナミックターンインディケーター搭載)が標準装備だ。
フロントホイールアーチ後方には、エアアウトレットが新設されている。さきに触れたとおり、ブレーキ冷却のために導き入れた空気がそこで乱流を起こして車速が低下するのを防ぐため、効果的に吸い出すのが本来の機能である。アウディではこれも「新たな デザインエレメント」としている。たしかに目を惹く特徴だ。
価格は、RS3セダンが818万円。同時発売のRS3スポーツバックは799万円。発売は22年4月が予定されている。
写真提供 アウディジャパン
車名 Audi RS3 Sedan
全長×全幅×全高 4540×1850×1410mm
2480cc5気筒 全輪駆動
最高出力 294kW@5600〜7000rpm
最大トルク 500Nm@2250〜5600rpm
価格 818万円