大阪中之島美術館がついにオープン! 黒いマッシブな箱の中をパッサージュが行き交う

  • 写真・文:中島良平

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大阪中之島美術館 館長 菅谷富夫(右):1958年千葉県生まれ。財団法人滋賀県陶芸の森学芸員、大阪市立近代美術館建設準備室学芸員を経て、2017年より大阪中之島美術館準備室長。2019年より現職。 遠藤克彦建築研究所 代表 遠藤克彦(左):1970年横浜市生まれ。東京大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了、1997年に遠藤克彦建築研究所設立。茨城県大子町新庁舎ほか、公募プロポーザルで最優秀を受賞し、進行中のプロジェクトを複数抱える。

1983年に構想が発表され、1990年に準備室を開設。そして2022年2月2日、ついに大阪中之島美術館が開館を迎える。オープニングを飾るのは、国内トップレベルの質と量を誇るコレクションをお披露目する『超コレクション展—99のものがたり—』。そして最初の企画展は開館記念特別展として、4月9日より『モディリアーニ —愛と創作に捧げた35年—』が開催される。準備室開設の2年後よりチームに加わり、館長として開館を迎える菅谷富夫と、設計を手がけた建築家の遠藤克彦に話を聞いた。

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大阪中之島美術館が位置するのは、国立国際美術館の北側に道を1本挟んだ場所。一帯からの文化発信が期待される。ロゴほかVIを手掛けたのはアートディレクターの大西隆介。

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拠り所となるのは市民とのつながり。

1990年に開設された滋賀県立陶芸の森で準備段階から学芸員を務めた菅谷は、現代陶芸を中心とするコレクション収集のために世界各地の美術館を巡り、作家や学芸員をはじめとする関係者から話を聞きネットワークを築いた経験を持つ。大阪中之島美術館でも準備期間中から作品収集を予定しており、収集方針のひとつに「近代デザイン」が入っていたことから、現代陶芸に限らず広く工芸やデザインに関する評論を行っていた菅谷に声がかかった。

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天井高6m、3室あわせて1700平方メートルの5階展示室のひとつで、その広さを伝えるために反対側の壁まで歩いた菅谷館長。5階は主に企画展に使用されるが、大規模展の開催にも期待が高まる。

「いまでこそ近代デザインをコレクションに加えている美術館は増えていますが、30年前にはほとんどなかったと思います」と菅谷は語る。「大阪という土地の意味を込めて作品を収集しようというのも面白いテーマで、もともと経済力のある都市ですから、作家も美術品も集まってきた歴史があります。明治以降にもその傾向は残っていて、船場から女性作家が登場する流れが生まれたり、東京美術学校(現・東京藝術大学)を中心とする主流を避ける動きもありました。たとえば『具体』などもそうですよね。大阪をテーマのひとつとすることで、主流とは異なる場所から生まれる表現の強さを見せられるコレクションでもあると感じています」

収集方針は以下の通り。
—佐伯祐三を中心とする近代美術の作品と資料
—大阪と関わりのある近代・現代美術の作品と資料
—近代・現代美術の代表的作品と資料
—大阪と関わりのある近代・現代デザインの作品と資料
—近代・現代デザインの代表的作品と資料

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4階は主に収蔵作品展に使用されるが、吉原治良をリーダーとして活動した「具体」がかつて拠点としていた中之島の展示施設「グタイピナコテカ」をオマージュし、展示室の一部には黒い可動壁を設置した。
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対面する展示室ロビーから4階パッサージュを望む。「回遊性を配慮し、来場者に対してオープンであることを目指した建築コンセプトに、2022年にオープンする美術館の同時代性を感じていただきたい」と菅谷館長。

作品の収集と研究を30年にわたって継続し、すでに6000点超の作品を所有する。企画展、コレクション展を開催する展示室と、所蔵品収蔵庫を備え、同時に人が集まり行き交う場としての美術館を目指し、設計案の公募コンペが行われた。テーマは、フランス語で歩行者のための小径を意味する「パッサージュ」。日本中の公立美術館を取り巻く状況を見てきたことからそのテーマが生まれた。

「収入が減少し行政的に閉館を求められた美術館があったとして、閉館に反対する市民の声が上がらなければ当然継続することは不可能です。そういう状況は国内外問わず生まれてきました。つまり拠り所となるのは、市民とのつながりです。どれだけ優秀な学芸員がいても、インバウンド観光客の収入で盛り上がろうと、市民に支持してもらえる美術館でなければ活動は続きません。そういう意味で、開かれた『パッサージュ』が行き交い、価値あるコレクションやアーカイブ資料を皆さんに公開できる民主的な美術館が必要だと考えたのです」

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単純さのなかに複雑さを設計する。

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2階パッサージュからは、ガラス1枚を隔てて外の芝生広場とつながっている印象だ。

公募コンペで3度の審査を経て選ばれたのが、「さまざまな人と活動が交錯する都市のような美術館」をコンセプトとする遠藤克彦による設計案だった。遠藤は菅谷のコメントを受け、次のように述べる。

「これだけの収蔵作品があるのですから、やはり責務は大きいですよね。100年、500年、1000年と次の時代に美術品を引き継がなければいけません。その一方で、現代を生きる人たちにも作品に触れていただきたい。展示と収蔵の機能を両立させ、開いた部分にも閉じた部分にも公共性を備えるべき美術館建築のアーキタイプを大前提に意識して設計を進めました」

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来館者の動線がぶつかることを回避した動線設計は、エッシャーのだまし絵を連想させる空間デザインとしてかたちになった。

黒い箱としてボリュームとインパクトを持つ外観があり、同時に、中に入って外を見ると4方向の窓からは芝生広場や中之島の景色が望めて、外とのつながりを感じられる。メインエントランスのある2階からは、常設展示室と企画展示室のある4階、5階へと吹き抜けの空間を貫くエスカレーターで上り、展示を見終えて再び2階へと降りる線は一筆書きで結ばれている。遠藤はデザインの根底に流れる意図について次のように語る。

「単純さのなかに複雑さを設計したいと考えました。現代において、すごく単純に見えるものは、じつは複雑にデザインされていることが多いと思います。スマートフォンをよく喩えに出すのですが、昔の携帯電話はボタンがたくさんついていて、ボタンひとつに持たせられる機能は限られていました。結果、デザインとして複雑になっていた。しかしスマートフォンは、シンプルなタッチパネルによって複雑さを増やしています。建築においても、単純さの向こう側にどれだけ複雑な様相を設計できるか考えてきました。パッサージュを立体的に設計することで来館者が多様に楽しめる『都市空間』を創出するというコンセプトから、この美術館の構想が生まれています」

中之島を歩く人が館内を通り抜け、ふと美術と出会う機会が生まれる。展覧会を目的に来館した人が、展示室を歩いたあとに芝生広場でくつろぐ機会も得られる。街の一部となり、また美術のみではなく建物自体を目的にも訪れたくなる美術館のオープンまであと少しだ。

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5階から4階へと降りてくる階段は、展示を見た余韻を想定してゆっくりと歩けるように傾斜も緩やかにデザインした。

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ヤノベケンジ『シップス・キャット(ミューズ)』2021年 芝生広場に設置されるのは、旅を守り地域に福を呼び込む「船乗り猫」。堂島川に面する大阪中之島美術館が世界に向けて情報発信をする象徴となる。

開館記念 Hello! Super Collection
超コレクション展 —99のものがたり—

開催期間:2022年2月2日(水)〜3月21日(月・祝)
開催場所:大阪中之島美術館 4、5階展示室
大阪府大阪市北区中之島4-3-1
TEL:06-6479-0550(代表)
開館時間:10時〜17時
※展示室入場は16時30分まで
休館日:月(3月21日は開館)
入館料:一般¥1,500
※日時指定事前予約優先制
https://nakka-art.jp

モディリアーニ —愛と創作に捧げた35年—

開催期間:2022年4月9日(土)〜7月18日(月・祝)
開催場所:大阪中之島美術館 4、5階展示室
休館日:月(5月2日、7月18日は開館)
入館料:一般¥1,800
※その他の情報は開館記念展と同じ