フランス人シューズデザイナーのピエール・アルディは、エルメスのシューズ担当としても名高くモード界で尊敬を集める実力派だ。先日、彼の最新作となる2022年春夏コレクションを一望できる機会があった。ゆっくりと手に取り眺めていたら、いつもの彼の作風と異なる個性的なデザインに目が留まった。アクティブなスポーツシューズのディテールが採用された、ストリートの息吹漂う3足。聞けばこれはアメリカンフットボールで活躍した黒人選手のビクター・クルーズとのコラボモデルという。クルーズはハイブランドを着こなしパリコレの席に座るファッションアイコンの人物。そのセンスがこの3足にしっかりと込められている。パーツのグラフィカルなコンポジションはアルディが得意とするもの。まさしく両者の力が発揮されたコラボレーションである。そしてなによりも、コラボうんぬん以前に見る者の心を動かす魅惑のシューズに仕上がっている点が秀逸だ。
フランスを中心とする貴族階級をルーツに持つモードの表舞台は、主に白人層が支配している。その慣習を打ち破ったのが、18年にルイ・ヴィトンのメンズ部門クリエイティブ・ディレクターに抜擢されたアメリカ人のヴァージル・アブロー。人種や階級に閉鎖的だったモード界に風穴を空け、差別的な扱いをされて生きる者に勇気を与えた。そのアブローが21年11月28日に病気により41歳の若さで他界したことは、クリエイションの力を信じる人々にショッキングな出来事となった。切り開かれた道が閉ざされることを危惧した人も多いはずだ。
アメリカのスポーツ界の花形だったクルーズは、アブローが手掛けたルイ・ヴィトンのファーストショー発表の招待客。パリの大舞台で歴史が動いた瞬間の感動を、その身に染み込ませたことだろう。アルディとの協業の第二弾となる今回のコレクションは、ブラック・ライブズ・マターといった人種問題への戦いに終止符を打ちたいと願う両者が人類の団結の象徴としてつくりあげたもの。アフリカ系とラテン系の男性が誇りを持って履くことが想定されている。
ファッションモデルの体型は痩せ型でなくてOKになり、ジェンダーの志向の違いも問わない方向性が広がっている。ファッション産業はこれからも最良の未来を目指して歩んでいきそうだ。願わくば黒人層への訴求のみならず、コロナ禍で顕在化した私たちアジア人への差別にフォーカスする試みにも期待したい。ニュースの裏側に隠されたマイノリティの声は、どこまで西洋社会に響くのだろうか。
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ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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