【2021年に感動したこと】思わず3度も劇場鑑賞した、映画『アメリカン・ユートピア』

  • 文:ガンダーラ井上
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©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

各方面で絶賛された今年の映画といえば『アメリカン・ユートピア』ですよね。元トーキングヘッズのデイヴィッド・バーンと11名のパフォーマーが繰り広げるブロードウェイのショーをスパイク・リー監督が映画化した本作は、その臨場感に圧倒されっぱなしの状態で冒頭からエンディングまで突っ走り切る大傑作だと思います。

最初にこの映画を見たのは日本橋のシネコン。コロナ禍の対策もあり一つおきの座席で皆さんと一緒に静かに座って鑑賞。頑張って大人しくしていたわけですが、上映中に何度も立ち上がったり叫んだりしたい欲求に駆られたのでありました。ライブを見に行くという行動を抑制されている状態が続いていたので、その代替品としても最高のご馳走という感じの映画です。

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そうすると、もっと大きな音が欲しくなるのは自然な欲求ですよね。そうこうしているうちに渋谷で爆音上映のイベントがあるのを知り、チケットをゲット。これがすごい競争率で人気アーティストのライブの争奪戦みたいな感じもあり、そのプロセスも楽しめたのでありました。2回目の鑑賞ですが新鮮さは変わらず、音響としてはライブPAのような音圧を期待した私が欲張りだったのかな。という印象でありました。

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NYを本拠地とするニューウェイブバンドであるトーキングヘッズといえば、そのライブパフォーマンスをジョナサン・デミ監督が長編映像作品にしたのが『ストップ・メイキング・センス』。こちらは1980年代の作品ですが、リバイバル上映があるとのことで30年以上の時を経てもう一度映画館で鑑賞することに。

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©1984 TALKING HEADS FILMS. ALL RIGHTS RESERVED

本作の撮影はフイルムで、舞台演出はカセットテープに始まりマルチ駆動のスライドプロジェクター(Kodakカローセルに違いない)が活躍し、音響的にはアナログシンセ(シーケンシャル・サーキトですよ)の電圧制御フィルターの音色が冴えるなどアナログ機材のオンパレード。もちろんそれが時代の最先端であり、公開当時は尖りまくりのライブ映画の金字塔として絶賛されていたわけです。懐かしすぎてキュンキュンしちゃいました。

だけど、『アメリカン・ユートピア』はそれをさらに超えているのがすごい。この2本の映画を観るとデイヴィッド・バーンがやりたいことは一貫していて、過去の自分を超える作品を生み出しているという事実に感動します。そして、それを実現するにあたり、照明用にシルバーグレイのスーツ両肩に仕込まれた位置センサや、完全ワイヤレス伝送の音響シシテムなどデジタルの最先端技術がバリバリに実装されているのがたまらなくクールです。

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『アメリカン・ユートピア』を3回目に観たのは、昭和の匂いのするいい雰囲気の川越スカラ座でした。この映画を何度見ても気になって仕方がない部分。それは登場する12名のパフォーマーが裸足であること。そして、そのうち2名のダンサーだけが、振り出した足の“つま先”で着地していること。体の動かし方って、人それぞれで面白いですよね。

もちろん、本公演の棟梁たるデイヴィッド・バーンの動きも常人離れしていて最高。真似しようとしても上手くいかないあの動きは、どのような身体操法によるのかを知りたい。それが無理なら、せめて普段彼が何を食べているのかだけでも教えて欲しいものです。この人、本当にイカしてます。

『アメリカン・ユートピア』

監督/スパイク・リー
出演/デイヴィッド・バーンほか
2020年 アメリカ映画 1時間47分
配給/パルコ ユニバーサル映画

ガンダーラ井上

ライター

1964年東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒。松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間務める。在職中から腕時計やカメラの収集に血道をあげ、2002年に独立し「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」などの雑誌やウェブの世界を泳ぎ回る。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)など。

1964年東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒。松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間務める。在職中から腕時計やカメラの収集に血道をあげ、2002年に独立し「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」などの雑誌やウェブの世界を泳ぎ回る。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)など。