ブルゴーニュの農家を改装してアトリエを構え、絵画やグラフィックデザイン、絵本や舞台美術などを手がけるポール・コックス(1959年、パリ生まれ)。1990年代からナンシー・オペラ座といった劇場のポスターを数多く制作し、ポンピドゥー・センターにてインスタレーションを発表するなどフランスを中心に活動している。実は日本での仕事も少なくなく、北陸新幹線の開業キャンペーンやキリン淡麗グリーンラベルのイラストを手がけている。
板橋区立美術館で開催中の『つくる・つながる・ポール・コックス展』では、コックスの幅広い創作をさまざまな作品にて楽しむことができる。中でも目を引かれるのが、日本でも『ヘビと船長』などで知られる絵本の仕事だ。どれも明るい色彩とポップなイラストを特徴としているが、ストーリーを読む一般的な絵本だけでなく、ページを入れ替えて偶然組み合わさる文章と絵を楽しんだり、テキストの数字や記号をヒントに内容を想像する絵本もあって、知的遊戯と言えるような遊び心も感じられるのも魅力だ。


『えひらがな』とは、ひらがな46文字を別のものに置き換えて表現したゲーム型のインスタレーションだ。例えば「うし」なら「う」、「にわとり」なら「に」など、あいうえおが、そのひらがなではじまるものの絵で表されていて、人や動物たちのイラストを自由に手にとりながら好きな文字を作ることができる。また『ローラースケープ』は、家や自転車、それに焚き火などを象ったオブジェにキャスターが付けられていて、さまざまシーンを舞台美術のように生み出せる作品だ。ここにもコックスならではの遊びの精神が感じられる。
2011年頃から本格的に制作をはじめた風景画も見逃せない。同年より2014年まで南仏のアルルに滞在したコックスは、自宅のテラスよりローヌ川を見下ろしながら日々、多くのスケッチを描きながら風景画を制作してきた。それらはどこかで見たような懐かしい風景であったり、一転して抽象的でもあるが、自然のかたちを取り出して表現しているようで強く心を捉えられる。幅7メートルに近い新作『レ・ボ=ド=プロヴァンスの庭』にいたっては、まるでモネの晩年の睡蓮を目にするように美しい。


コックスと板橋区立美術館との交流は、2006年にイラストレーター向けのワークショップ「夏のアトリエ」の講師として招聘したことにはじまる。講座終了後も参加者とコックスの関わりは続き、来日すると度々来館しては講演会などを開いてきた。今回はコロナ禍のために来日は叶わなかったが、オンラインにてミーティングを重ねて、コックス自らが作品を選定しながら開催にこぎつけている。アトリエにいるような雰囲気の会場にて、自由なアイデアと遊びに満ちたコックスの世界を満喫したい。
『つくる・つながる・ポール・コックス展』
開催期間:2021年11月20日(土)~2022年1月10日(月・祝)
開催場所:板橋区立美術館
東京都板橋区赤塚5-34-27
TEL:03-3979-3251
開館時間:9時半~17時 ※入館は16時半まで。
休館日:月(ただし1月10日は開館)、年末年始(12月29日~1月3日)
入場料:一般¥650(税込)
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/artmuseum/