九州を拠点に活躍し、“新しい体験”をもたらすクリエイター集団【Penクリエイター・アワード anno lab】

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:中島良平
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太陽と月の部屋。2020年8月、大分県の長崎鼻リゾートキャンプ場内に開館したanno lab初の常設美術館「不均質な自然と人の美術館」。写真は展示作品のひとつで、自然光とインタラクティブに触れ合う仕組みをもつインスタレーション。鑑賞者の動きに応じて円形の窓が開閉し、光が空間を移ろう。中央はanno lab代表の藤岡定。企画・検証協力:的場寛、モータ制御デバイス制作:堀尾寛太(Ponoor Experiments inc.)、新美太基、音響デザイン:中村優一(invisi.)
anno lab。2012年に設立、福岡を拠点に活動するクリエイティブ・ラボ。学術研究員、アニメーション作家、ゲーム開発者、広告代理店勤務など、多様な経歴をもつクリエイターたちが参加し、作品のみならずクライアントからの依頼によるアートディレクションやグラフィックなども手がける。https://annolab.com

Pen クリエイター・アワード、2021年の受賞者がいよいよ発表! 今年は外部から審査員を招き、7組の受賞者が決定。さらに審査員それぞれの個人賞で6組が選ばれた。CREATOR AWARDS 2021特設サイトはこちら。

設立のきっかけは、九州大学の芸術工学部の学生同士が集まって、自主企画で『九州好青年科学館』と題する展示を福岡アジア美術館で開催したことに遡る。音響設計や画像設計など学科を横断して交流が生まれ、バラバラに活動していた学生が自然発生的に共同で企画運営を行うようになった。いまから15年ほど前の話だ。卒業後はそれぞれ就職したが、再び集まり制作しようと「anno lab(あのラボ)」を結成したのが2012年のこと。

「遊び心いっぱいの新しい体験」を生み出すために、異なる経歴・表現言語をもつクリエイターたちが集結。広告や舞台演出などのクライアントワークから、美術館や芸術祭で発表する作品までを手がけている。

「自分たちの好きなことを中心にやっていくスタンス」だと、代表の藤岡定は話す。「もちろん、やりたいことを押し通したり、クライアントと分断された状態になるのではなく、一緒に興味をもって、同じゴールに向かってつくるのが幸せだと思っています。『こんなものをつくってください』という要望を単に実装する集団になってしまうと、同じ技術を安く提供できる集団に負けてしまう」

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森の部屋。円筒形全周スクリーンに5台のプロジェクターで、コンピューターのアルゴリズムで生成される生命のうごめきを表すアニメーションと、周囲の自然を撮影した映像が映し出される。風力や風向きに影響を受けてアニメーションが生まれるジェネラティブ・アート作品を通し、美術館の周りの森を体感できる。サウンドデザイン:中村優一(KAMRA)invisi.

20年に完成した「不均質な自然と人の美術館」は豊後高田市がクライアント。公募内容は、「デジタルアートのギャラリーをつくってほしい」というものだった。建築家の西岡美紀と小島佳子がanno labを誘い、周辺環境との調和を意識した建物内に現地の環境条件を取り込んだデジタルアート作品をインストールするプランを立てた。クライアントも賛同してくれたという。

「バーベキューをしたり、原っぱに寝転がって星空を見たり、まず遊びを通してこの場所を体験しました。夜にはフクロウの鳴き声がホウホウと聞こえるのが印象的でしたし、太陽が昇ってくる様子もすごく美しかった。単なるデジタルアートではこの自然の美しさに敵わないだろうから、周囲の自然をどう切り取るかというアプローチが正しいんじゃないかという話になりました」

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海の部屋。海の息吹を視覚化し、その息遣いを感知するインスタレーション作品。水玉を高速で生成し落下させる装置と、高速で発光するプロジェクターを用い、その水玉にプロジェクション・マッピングを施すことで、水玉が空中を自由に動き回っているような視覚効果を生む。鑑賞者の動きにも反応し、演出が変わる。機材協力:東京エレクトロンデバイス(超高速プロジェクター)、株式会社ウォーターパール(水玉噴水)、サウンドデザイン:中村優一(KAMRA)invisi.

館内の太陽の光を取り込んだ『太陽と月の部屋』。森の生命を表現する『森の部屋』。潮位や気象とも連動する『海の部屋』。自然と向き合い対話することで生まれたアイデアが、普段からのリサーチで溜まっているテクノロジーのストックを用い、かたちとなった。

「アナログを選ぶかハイテクを選ぶか、それは単に手段の問題です。どの筆を選ぶか、くらいの感覚というか。どういう体験を生み出すかがいちばん重要なので、テクノロジーありきで制作を進めることはないですね」

コンセプトがディープになりすぎると、目指す体験から遠ざかる危険がある。チームで作業をする際には、つくって考えるプロセスを繰り返し、体感を言語ではなく右脳的な感覚で共有し、「日常のとなり」をつくる感覚で進める。

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不均質な自然と人の美術館

住所:大分県豊後高田市4060 長崎鼻リゾートキャンプ場内 
TEL:0978-23-1860
開館時間:10時~17時(11月~2月は16時まで) 
休館日:木(11月~2月は火、水、木、祝日の場合は営業)
https://nature-and-human.art

美術館建築デザイン:Kocochi Architect 一級建築士事務所、楓空間設計

企画・制作メンバー(2021. 2): 藤岡定、井原正裕、岩谷成晃、宇佐美毅、遠藤舜、金スルギ、須藤史貴、田中喜作、船津文弥、村上ヒロシナンテ、もとはる、吉田ひかる、吉田めぐみ、渡辺圭介

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デザインがすべき仕事は、人を自然な状態に戻すこと

「江戸時代までは和時計が使われ、日の出から日の入りまでを六分割、日の入りから朝までを六分割して子の刻や丑の刻といって時間を表していました。つまり、夏は昼間の一刻が長くて、冬は昼間の一刻が短い。日々、一刻の長さが変わる暮らしでは太陽の位置で時間を確認しますし、自然との密接なつながりを感じられますよね。作品を通してそういう意識を喚起することもできるはずです」

19年に開催した個展では、『日常のとなり』を展覧会名にし、真夜中に他人の実家に入り込んでしまったような体験を生む空間を手がけた。部屋の中にはさまざまな作品が仕掛けられており、間取りが描かれた空間に作品のプロセスを可視化するためのヒントなどが置かれ、鑑賞者が能動的に作品のメカニズムや制作プロセスを楽しめるように構成された。その展示はまさに、anno labの制作姿勢を言い表している。

「僕たちの卒業した大学の学長が、もともと人間というのは子育てや仕事などあらゆることを楽しめるようにデザインされていて、それを喜べないのは社会や人間関係など現実世界の問題によるはずだと話していたんです。それをきちんと楽しめる、もとの自然な状態に戻してあげるのがデザインの力だと。その言葉がすごく好きで、僕たちは誰もが生活を楽しめる状態に戻すためのお手伝いをしているような気がします」

anno labは日常の中に新しい体験や価値を生み出すクリエイションを行い、「世界いち楽しい街を創ること」を野望として掲げているという。

「非現実を楽しむ瞬間も大事だと思いますが、日常自体がすごく面白くてワクワクするものになっているのが、究極の、世界いち楽しい街ではないかと僕たちはずっと思っています」

エンジニアやデザイナーのチームとして、国内外のプロジェクトを裏側から支えてきたanno lab。「不均質な自然と人の美術館」を訪れると、表現者としても身体と感性に訴える力をもっていることがはっきりとわかる。これから技術者としてはもちろん、作家としての評価もさらに高まっていくはずだ。

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多様な専門家が集結した、アーティスト集団

藤岡 定 代表取締役/アーティスト

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anno labの代表作といえる2作品に、藤岡のアーティストとしての創作姿勢が詰まっている。『時空間のしっぽ』は、過去の自分との出会いを体験するために、5秒前の自分と画面を通じて向き合う作品だ。「5秒前の自分、5秒後の自分とのインタクラションは、頭をバグらせます」と藤岡。『日常のとなり』は、2019年に三菱地所アルティアムで開催された初個展として話題を呼んだ。

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『時空間のしっぽ』

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『日常のとなり』

岩谷成晃 ゼネラルマネージャー/コラボラティブプログラマー

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4人の創立メンバーのひとりである岩谷が携わった作品で、熊本城の加藤神社の拝殿にプロジェクションマッピングをし、その前で音楽をプレイするDJイベント。灯籠とミラーボールの光が混ざり合う境内でアクションのキーを担ったのが、柏手。来場者が拝殿前で柏手を打つと、社が動き出したかのように見える映像と光の動きが連動した。

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『Clap for dream』

村上ヒロシナンテ ディレクター/モーショングラフィックスデザイナー

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「不思議の国のアリス」の世界に入り込んだような体験ができる空間作品。制作の中心を担ったのが、コンピューター・グラフィックスやエンタメの会社で経験を積んだ村上である。2.5m四方の部屋にかけられた14個の額縁にはiPadが収められ、3Dモデルデータを用いて陰影をつけるプログラムによって、描かれたキャラクターが鑑賞者のポーズを真似する仕掛けだ。

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『ミミクリーの小部屋』

もとはる ディレクター/地域文化·デジタルアート

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宮崎県西臼杵郡高千穂町内のおよそ20の集落で、毎年、冬の晩に行われる民俗芸能。800年以上続いているといわれる「高千穂の夜神楽」の国立能楽堂公演を企画・演出するのが、anno labのメンバーが学生時代からデジタルコンテンツの草分けとして慕ってきた、もとはるだ。2021年は12月26日に、国立能楽堂で公演が行われる。

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『高千穂の夜神楽』

須藤史貴 デザイナー/グラフィックディレクター

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老朽化した福岡タワーのフロアリニューアルに際し、「空と海が出会う場所」というコンセプトで展望フロアのデザインが行われ、VI・ロゴのアートディレクションを担ったのが須藤。「幾何学的な三角形がタワーのモチーフなのですが、矢印とタワーのイメージを重ね、空からの流れと海からの流れが展望フロアで出合う様子をデザインしました」

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『福岡タワー VIデザイン』

井原正裕 プランナー/デザイナー

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創立メンバーでもある井原が手がけた、学習型のインタラクティブな作品。『発見の壁』は福岡市科学館のエスカレーターホールの壁に科学的な事象や技術を描き、鑑賞者がタッチするとアニメーションが浮かび上がる作品。福岡市動植物園の『なきごえアート』では、鑑賞者が動物の鳴き声を真似するとその波形が動物の姿に変化する。

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『発見の壁』

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『なきごえアート』

うさみたけし アニメーションディレクター/デザイナー/イラストレーター

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創立メンバーのうさみは、ユニクロ/GUイオンモール福岡のキッズプレイスペースとキッズ試着室に、子ども服や子どもたちが好きなものを題材に壁画10点を描いた。一方のシンガポールのプロジェクト『Funan Kinetic Wall』は、インベーダーゲームをモチーフにショッピングモールで歩行者の動きに反応する壁面アニメーションを制作。

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『ユニクロ/GU壁画』

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『Funan Kinetic Wall』

※この記事はPen 2022年1月号「CREATOR AWARDS 2021」特集より再編集した記事です。

CREATOR AWARDS 2021特設サイトはこちら。