スバルの新型WRX S4は、メイドインジャパンの代表選手だと確信した

  • 文:小川フミオ

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日本のプロダクトはいまどうなっているのか。伝統芸術もさることながら、クルマの分野では、すぐれた製品が生み出されている。たとえば、SUBARUが2021年11月25日に発売した「スバルWRX S4」。ドライブがとことん楽しめるスポーツセダンだ。

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こちらはWRX S4

ここで書くのは、発売前のプロトタイプの試乗記。ただし、プロトタイプといえども市販車に準じる、とメーカーが言うので、興味あるかたの参考になれば幸いであります。

このところ、日本車はけっこういいかんじである。トヨタのGRヤリス、新型アクア、生産中止になっちゃったのが残念至極のホンダNSX……。私が乗っただけでも、いろいろ思い浮かぶ。スズキ・ジムニーも、使用場所限定だけど、海外の林業に従事するひとたちからも高い支持を得ているとか。ここではまだ紹介できない新車もいろいろ控えている。

ちょっとフライングぎみで乗ったのは、次期WRX S4のプロトタイプ(試作車)。従来モデルはすでに販売終了しているだけに、まもなく登場の新型はファンの注目を集めている。北米ではひと足先に発表されて、やっぱり話題を呼んだ。

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スタイリングは、ぐっとシャープに。クリスピーと自動車デザイン用語で表現される、各所にエッジが立ったボディが目をひく。先に登場した新型レヴォーグとともに、SUBARUのキャラクターが確立されている。

担当したデザイナーの源田哲朗氏に聞いたところによると、「2018年3月のジュネーブ国際自動車ショーに出品したコンセプトモデル、VIZIV(ビジブ)ツーリングコンセプトを量産化したといっていいスタイル」だそうだ。

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ぐっと突き出したように見えるグリル、大胆な輪郭のヘッドランプ、大きなエアダム一体型フロントバンパー、おおきく張り出して見える前後のフェンダー、そしてちょっとSUVを思わないでもない力強いクラディング(バンパーとボディサイド下部、それにホイールハウスのアーチを覆うような合成樹脂製のパーツ)など、ほんとんどVIZIVツーリングコンセプトのまんま、というのに感心してしまう。

なにより、WRX S4の持ち味である、スポーティなドライビングが、従来よりうんと向上しているのも特筆点。WRX S4のみごとな走りっぷりは、世界に誇れるメイドインジャパンだと感じさせる。

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ここではあまり専門的なことには触れないつもり。といいつつ、さわりだけ書いておこう。剛性があがったプラットフォームと、工業接着材の塗布面積を増やしたことでいいかんじに”しなる”ボディ、それに徹底的に煮詰めたというサスペンションシステムと、ステアリングシステムが、あたらしくなるWRX S4の特長という。

はたして、走りはまさにそのとおり。従来のWRX S4を知っている読者がどれだけいらっしゃるか知らないものの、較べると、ハンドルを切ったときの動きがよりナチュラルで、かつカーブを曲がるときはよりシャープ。従来モデルを知らなくても、おそらくビックリするほどドライブの楽しさを味わえると思う。

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そういえば、変速機もかなりよくなっている。WRX S4のオートマチックモデルは、CVT(無段変速機)を使う。仕組みをおおざっぱにいうと、円錐にたとえられる滑車のあいだにベルトをかける。そのベルトが滑ることで、通常のオートマチック変速機でいえば”低いギア”とか”高いギア”と同じように、得られる力が変わってくるのだ。

従来は、やや問題があった。ベルトが滑って適切な位置におさまるのに少々時間がかかった。かつ、金属音が大きい。市街地だとオートマチック変速機よりスムーズな動きをしてくれるいっぽう、スポーツ走行において要改善と思うポイントがあった。と、私は思ってきた。

プロトタイプのCVTは、おどろくほどすばやい。ギアつき変速機と同じように、適切な力が出る位置でベルトが固定される機構を持つため、加速のレスポンスにすぐれる。だから、すばやい、と思うのだ。SUBARUでは従来の「リニアトロニック」から「スバルスポーツトランスミッション」へと名称変更をした。それも納得できる。

私は従来モデルでも充分にすばらしい出来だと思ってきたのだけれど、プロトタイプでサーキットを数周しただけで、宗旨替えしそうだ。

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あたらしくなるWRX S4には、おおきくいって「GT-H」と「STI スポーツR」なる2つのグレードが設定される。2.4リッターの4気筒水平対向エンジンの出力は同一。ただし、よりスポーティな後者には、専用装備がいくつも用意される。

シンメトリカルAWDと呼ばれる全輪駆動システムにおける制御がいちぶ専用設定になるとともに、電子制御フロントダンパー、よりパワーを引き出すドライブモードの設定、それに、操舵力可変パワーステリングなどが、STI スポーツRだけの装備だ。

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WRX S4のダッシュボードまわり

エンジン排気量は、従来の2リッターから、今回は2.4リッターへと拡大した。ハイブリッドとかプラグインハイブリッドとか、はたまたピュアEVとか、電動化技術がいろいろ取り沙汰されているなかで、そこにあえて背を向けるような排気量の拡大は大胆だ。

大胆といっても、そこは環境性能も考慮に入れているとSUBARU。装着するターボチャージャーを新設計し、効率をさらに上げた。燃費は従来型より約8パーセント改善されたそうで、いたずらにパワーを求めての排気量アップでないのだ。

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最高出力も最大トルクも、従来モデルより数値が下がっている。でもレスポンスはぐっと引き上げられていて、加速性の向上が、SUBARUの開発者のジマンのようだ。私も、それは体感できた。

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もうひとつ、これはおもしろいなと思ったのが、新開発の技術「空力テクスチャ」。車体のまわりを流れる空気をコントロールするためのパネル上の素材を、各所に使っている。たとえば、バンパー下からホイールアーチまわり、それに見えないけれどボディ下面。

「表面のパターンで、空気が早く剥離しすぎないようにして、走行安定性をはかります。またボディ下面では、空気の流速を上昇させ燃費向上に寄与します」

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ホイールハウスまわりの合成樹脂も「空力テクスチャ」

こちらは、前出のデザイナー、源田哲朗氏による説明。一見たんなる合成樹脂のプロテクションに見えるこの部分の効果は、時速30キロから表れるとのこと。表面をよく見てください、とうながされて、私が目を凝らすと、ハニカムというか、六角形のパターンが見えた。

六角形は正六角形でない。技術者によると、向きに微妙な角度をつけることで空力効果が変わってくるとのこと。表面の深さはわずか45ミクロン。SUBARUでは、ほぼ同時に、レヴォーグとBRZにも空力テクスチャを採用しているという。ただしパターンや深さはモデルによってことなる。世界に誇れるメイドインジャパンであると、ここでも感心した。

IMG_9549.jpegドライブモード切り換えも室内のモニターで

価格は、GT-H」が400.4万円(アイサイト搭載の「GT-H EX」は438.9万円)、「STI Sport R」が438.9万円(同「STI Sport R EX」は477.4万円)。


SUBARU WRX S4 STI SPORT R(prototype)
●ディメンション(全長×全幅×全高):4670×1825×1465mm
●パワートレイン:2387cc水平対向4気筒
●最高出力:202kW@5600rpm
●最大トルク:375Nm@2000〜4800rpm
●駆動方式:全輪駆動
●車両価格:438万9000円