思い描く女性をどれだけ素敵にできるか、それがデザインの仕事【Penクリエイター・アワード 黒河内真衣子】

  • 写真:上田義彦
  • 文:高橋一史
  • スタイリング:黒澤 充(トルソー)
  • ヘア&メイク:廣瀬瑠美

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黒河内真衣子●長野県生まれ。2010年、黒河内デザイン事務所を設立しマメ クロゴウチをスタート。17年、「FASHIONPRIZE OF TOKYO」の第1回受賞者に選出される。18年秋冬シーズンよりパリで新作発表を行い、 20年春夏シーズンにはランウェイショーを開催した。

Pen クリエイター・アワード、2021年の受賞者がいよいよ発表! 今年は外部から審査員を招き、7組の受賞者が決定。さらに審査員それぞれの個人賞で6組が選ばれた。CREATOR AWARDS 2021特設サイトはこちら。

ファッションデザイナー・黒河内真衣子の仕事の根本にあるテーマは、女性を素敵に見せる服づくり。自身のブランドであるマメクロゴウチ(以下マメ)は、美しいプリンセスに憧れる少女のファンタジーに寄り添う服だ。そして、着る人の心を支え、背筋を伸びるようにさせる大人の服でもある。

黒河内は自分がデザインした服を、自ら着て愉しんでいるという。クリエイターとしてギリギリまで攻める創造性と、着る上でのリアリティとのバランスを、実際に着ることで見極めようとしている。同時に、ひとりのお洒落好きの女性でもある。彼女は言う。

「マメをいちばん着ている人は私自身。本当に私、マメの大ファンなんですよ。毎シーズン、『どれを着よう? どれを買おう?』と真剣に悩んでしまうほど」

ファッションデザイナーの資質をトレンドキャッチ型と作家型とに分けるなら、黒河内は間違いなく後者だ。流行を意識した服づくりはしない。確かに、パリコレに参加してショー形式で新作を発表し、先鋭ショップに並ぶマメは、時代とリンクするモードブランドとして位置づけられる。しかし黒河内自身は他ブランドに対抗心を燃やすことも、作家性を過度に押し出すこともなく、10年以上にわたり地道に服をつくってきた。洋服とは生地屋、縫製工場、染め・刺繍の職人、パタンナーなど大勢の仕事の集合体であり、マメの服は、日本各地の職人技の結晶である。だからこそ黒河内は人との共同作業や制作プロセスをなによりも大切にする。コロナ禍でファッション業界全体が疲弊した2020年から21年にマメが大きな飛躍を見せたのは、日本のモノづくりに関心をもつ人が増えたことが背景にあるのかもしれない。黒河内自身はなにも変わらなくても、時代が彼女を必要としているのだ。

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2020年秋冬シーズンのジャケットは、靴紐工場に発注したリネンの紐を、一筆書きの要領で複雑に曲げながら刺繍の技術で立体的に造形したもの。

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デビューから変わらない、 服づくりに向き合う姿勢

ビジュアル表現においては、これまでも気鋭の写真家らの感性を採り入れてきたマメだが、21年度はアートの文脈で広く注目を集めた。長野県立美術館での単独展「10」の開催である。長野は黒河内の出身県。子どもの頃に山に囲まれた家で暮らした記憶や、眺めていた景色からデザインを着想する彼女にとって、カギとなる重要な地だ。県立美術館がリニューアルするタイミングでスタッフの制服をデザインし、過去10年を俯瞰する単独展を開催した黒河内。そこに込めた思いを、次のように振り返った。

「アーカイブを倉庫から取り寄せて全点を眺めた時、改めてずっと同じことをしてきたと感じました。シーズンごとに新しいものをつくるのでなく、やっていることは変わらない。それはつくってくださる職人さんや工場さん、取引先さんがいたからかたちにできたこと。こうしたことを展覧会で伝えたいと思いました」

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10周年を機に、故郷で大規模個展を開催/2021年6月から8月まで長野県立美術館で開催された初の個展は、テクスチャー、曲線、長野といったマメ クロゴウチを構成する10のキーワード別に、アーカイブを中心に構成された。 © Ichiro Mishima

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左:「クラフト」のセクションでの展示物。トルソーの脇に置かれた皿は、黒河内家に伝わる家紋入りの九谷焼。左のドレスはこの皿から発想した2014年秋冬シーズンのルック。 右:右はバッグではなく、荷物を背負う際に背中に当てて使う山形庄内地方のわら細工の民具、バンドリ。ここから着想したのが、左のレザーライダースジャケット。18年秋冬シーズンのルック。

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黒河内が常に持ち歩いているのが、日記帳でもあるモレスキンのノート。展覧会では、10年間に書き綴った20冊から抜粋した360ページが展示された。

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近年はメディアを通して彼女のパーソナリティが紹介される機会が増え、展覧会でも日記のようなアイデアノートが展示された。しかし黒河内は、最も大事なのは服そのものという。

「完成した洋服がすべてを物語ります。女性がクローゼットを見回してなにを着ようか考える時、服のストーリーはあまり気にしないものです。ストーリーはデザインする私にとって大事なことで、お客様に押し付けるものではありません。ですが、ここ数年は服づくりのレシピに興味をもっていただく機会が増えました。その気持ちに応えられるようにしていきたいとも考えています」

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イタリアのモードブランドからの熱視線/20年にトッズとコラボしたカプセルコレクションが「Tファクトリー」。アレッサンドロ・デラクア、アルベール・エルバスに続く3人目のデザイナーとして選ばれたのが黒河内だ。トッズのレザー製品の生産背景を活かしバッグ、シューズ、ウエアを制作。彼女自身の旅のスタイルが着想源になった。

21年にはもうひとつ、ブランドの知名度向上につながるエポックメイキングな出来事があった。ユニクロとのコラボレーションである。黒河内が提案したアイテムは、女性用のインナーウエアだ。マメのコレクションのキーアイテムはドレスである。ユニクロのインナーウエアも、ドレスに合わせることが前提となった。同社が培ってきた技術を活かした、快適で美しく買いやすいシリーズだ。

「インナー好きな私のオタク気質が活きたと思います。胸元が開いている服の下に着るものに困るというお話を、お客様からよく耳にしていましたし、私自身もそう感じていました。望む条件を兼ね備えた、とても着心地がいい、日常的なものになっています」

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ユニクロとコラボ第二弾を発表/2021年6月の第一弾に続き、11月に発売されたインナーウエア・シリーズの第二弾、ユニクロ アンドマメ クロゴウチ。女性を美しく見せるとともに実用性も備えた渾身のデザインだ。3Dニットやノンワイヤーブラなど、ユニクロならではの技術が取り入れられている。

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黒河内がドレスを好む理由を知るには、幼少期まで遡る必要がある。彼女の記憶によれば3歳の頃。お絵描きでお姫様を描いた時、よりかわいらしくするために思いついたのが、素敵なドレスを着せることだった。

「当時はドレスの実物を見たことがなく、参考にしたのはリカちゃん人形の衣装やテレビの中だったと思います。『美しいドレスをお姫様に着せたらかわいくなるんだ』と気づいてから現在に至るまで、はや30年。デザインの仕事は、ずっと同じことを続けている感覚です。思い描く女性をどれだけ素敵にできるか。どこに着ていく服か、ではありません。私は若い頃、友人のお母さんに『今日は結婚式?』と訊かれたほど、日常的にドレスを着ていましたから」

ファッションに興味をもち始めたきっかけは、実際の服でなく空想の中の服だったとは。マメが時流に左右されないタイムレスな服なのも頷けるエピソードだ。

高校を卒業して上京し、ファッション専門学校で学んだ後、学生にとって憧れの的であるイッセイ ミヤケに入社。3年を経て25歳で独立した。会社での仕事は楽しすぎるほど充実していたが、失敗覚悟で思い切った行動を起こす。

「職人さんや工場さんとお付き合いするうち、仕事が減って彼らが廃業するのを見てきました。それで、自分が本当に欲しい服を尊敬する皆さんと一緒につくりたくて会社を立ち上げたんです。うれしいことに、それを現在も続けられている。私の会社に素晴らしいスタッフが入り、チームとして頑張ってくれているおかげです」

スタッフへの感謝の奥底には、昔に比べて気負わなくなった、働く気持ちの変化もある。

「ひとりで始めたブランドですが、たったひとりはとても辛かった。向き合うものがずっと自分自身だけで。一緒に船に乗ってくれる仲間たちが少しずつ増えて、みんなの意見を聞きながらチームとして活動するようになりました。その達成感が素晴らしく、すごく贅沢な仕事をさせてもらっていると感じています」

黒河内が紡ぎ出す言葉には、一切の衒いがない。中学生の時に街の小さな手芸屋で布を探した話も、専門学校に入学した当初はクラスの友人が話題にする有名ファッションデザイナーの名をまったく知らなかったという思い出も、にこやかに話す。クリエイターとしての力量をひけらかす驕りも、経営者としてビジネスを発展させた人物である自負も匂わせず、佇まいはいつもニュートラル。ブランド名のマメも、自身のニックネームから名付けたユーモアである。そんな彼女は、マメとしての活動を次のように総括した。

「私は小柄なので着られる洋服が昔から少なく、そんな自分が身体にあった洋服に出合えた時に得られる喜びは言葉にできないくらい。そういう背筋がピンと伸びる高揚感が私にとっての洋服であり、その気分をお客様にお伝えしたい。自分でもマメを『きれいだな、袖を通したいな』と思いますし、『私はマメの素晴らしさをみなさんに伝える活動をしています』といった感じでしょうか」

日本のモード界に約20年前に登場した女性デザイナー、サカイの阿部千登勢やトーガの古田泰子らに続く活躍が期待される黒河内。今回、5人の審査員が全会一致で授賞を決めた。人々の生活が激変し、本当に好きなものを求める動きが広がる時代の後押しもあり、黒河内の周辺はますます賑やかになりそうだ。

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〜COLLECTIONS〜

2011 Autumn-Winter

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ブランドスタートから2シーズン目のコレクションでのアイコニックな一着。シャープなボディに繊細なレースを加え、強さや弱さといった女性のさまざまな要素を一着に込めた、マメ クロゴウチらしさが濃密なタイムレスな服。パワフルな赤に彩られながら襟はタイトに詰まり、高貴な品格をも感じさせる。

2014 Autumn-Winter

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かつて自身が暮らした長野にて、祖母のさまざまな話に耳を傾けて想像を膨らませたコレクションから。インスピレーションのおおもとは、祖父母が若い頃にデートで訪れたという鳴門海峡の渦。やわらかく透けるシフォンが海の渦のように複雑に重なり、上半身から裾にかけて優雅な流れをつくっている。

2016 Spring-Summer

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空想と現実の狭間から生まれる服づくりを実践する黒河内が、このシーズンでテーマにしたのは「アルケミスト」。夢の中で心惹かれた不思議な風景を、錬金術の名の通り、服に変貌させていった。植物と花の刺繍が全身を覆うドレスは、その象徴。昭和から続く日本の服づくりの技術とセンスが、高い次元で息づいている。

2022 Spring-Summer

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最新の2022年春夏シーズン「ランド」では、黒河内の出身地である長野に改めて着目。代表作がこのドレスで、植物や花の柄が幻想的な小川のように流れている。フィルム糸を織り込んだシルクをジャカードのボディに被せた構造で、幾重にも複雑な表情を見せる。繊細なグラデーション染めは、京都の職人の手によるもの。

CREATOR AWARDS 2021特設サイトはこちら

※この記事はPen 2022年1月号「CREATOR AWARDS 2021」特集より再編集した記事です。

思い描く女性をどれだけ素敵にできるか、それがデザインの仕事【Penクリエイター・アワード 黒河内真衣子】

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