あなたが見ている光景はリアル? 東京都写真美術館で開催中の『松江泰治 マキエタ CC』展が面白い!

  • 写真・文:はろるど

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『TYO 90835』 2021年 東京・御徒町付近を捉えた作品。リアルな光景を空撮しているように見えるが、実は精巧な都市模型を写している。画面に模型の亀裂が入っていることではじめて分かるが、とてもすぐには見つからない。

アジアから中東、欧米にアフリカと世界各地の都市や地形を写し続ける写真家の松江泰治(1963年、東京都生まれ)。画面に空や地平線を含めず、真正面から光を当たっている状態を捉えた都市の写真には、ほぼ影が写り込んでいない。また多くの被写体にピントが合っているからか、平面性が際立っている上、すべての建物がクリアに浮かび上がってくるような迫力がある。

東京都写真美術館で開催中の『松江泰治 マキエタ CC』では、最新作を含む50点の写真をはじめ、2010年から制作している4点の映像を公開している。暗がりの展示室に並ぶ写真には、建物が密集するさまざまな都市の光景が切り取られていて、そこに住む人々の日常はおろか、まるで地表そのものが採集されているようだ。またディテールにも驚くほどの情報が詰まっていて、思わず「神は細部に宿る」との言葉を連想してしまう。

世界を旅するように写真に見入っていると、しばらくして「ひょっとして模型を写している写真が混じっているのでは…」ということに気づくのではないだろうか。実は今回の個展では、実際の都市を写し、タイトルに都市コードを付した「CC」と、新たに「makieta(マキエタ)」と呼ばれる2つのシリーズを出展している。そのうちポーランド語で模型を意味する「マキエタ」とは、都市や地形の模型を被写体としているのだ。

2007年、南米エクアドルの首都キトで見た都市模型を写したことに由来する「マキエタ」は、その後、東京からノルマンディ戦没者の墓地、さらに1939年の街が再現されたワルシャワなど、さまざまな都市模型をモチーフに撮影されてきた。そしていずれも「CC」と同じ条件にて写されているため、例えばオリンピック招致のために制作された東京の精巧な模型の写真は、実際の空撮と見間違ってしまう。

会場では「CC」と「マキエタ」が明確に区別して展示されていないため、リアルだと思っていていた光景が実は模型であったりするなど、どちらを見ているのか分からなくなるのも面白い。松江は「世界中で模型を撮るというのは、世界を旅してCCを撮影するのと同じ。」と語り、あくまでも「マキエタ」を「CC」に連なったシリーズと捉えている。リアルと模型の曖昧な境界を行き来しながら、世界を写真に記録してきた松江の新たな表現をこれからも追いかけたい。---fadeinPager---

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『PAR 32319』 2008年 「CC」のシリーズで、フランスのパリを写している。ひしめきあう建物がオールオーヴァーに広がる光景が興味深い。なおタイトルには都市コードのみが示されるのみで、具体的な都市名は明らかになっていない。

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左から『SAY 192383』と『IZO 171323』 ともに2021年 2点の作品とも模型を写した「マキエタ」のシリーズ。イタリアのシエナと日本の出雲だ。一口に模型といってもバリエーションや完成度はさまざまで、素朴な味わいの作品もある。その違いを比べるのも楽しい。

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『UIO 70846』 2021年 エクアドルのキトの模型を写した「マキエタ」シリーズの拡大。かなり細かく町並みが再現されていることがわかる。

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『LPB 1733』 2021年 ボリビアの首都ラパスのパノラマを写していて、出展中最大の作品。横幅は実に4メートル近くにも及んでいるが、驚くほどに解像度が高い。

『松江泰治 マキエタ CC』
開催期間:2021年11月9日(火)~2022年1月23日(日)
開催場所:東京都写真美術館 2階展示室
東京都目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス
TEL:03-3280-0099
開館時間:10時~18時 ※木・金は20時まで。入館は閉館の30分前まで
休館日:月(月曜日が祝休日の場合開館し、翌平日休館)。年末年始(12/28〜1/4、ただし1/2、1/3は臨時開館)
入場料:一般¥700(税込)
※オンラインによる日時指定予約を推奨
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://topmuseum.jp