レジェンドと呼ばれる焼鳥屋「鳥てる」を知っているか? 第2章、Sintolitel(シン・トリテル)が始動

  • 文:森一起

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品川駅の高輪口、踊るパチンコ屋の客引きに迎えられる昭和の残響が聞こえる古い雑居ビルの地下に、伝説の焼鳥屋があった。高騰を続ける焼鳥業界の中で、誰もが笑顔になる価格設定と、持つ手が痺れるほどの巨大で滋味溢れるレバー。職人肌ながら、慣れると人懐こい魅力的な店主、店の名は「鳥てる」と言った。

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解体から串打ちまでを行う鳥問屋で基礎を固め、伊勢廣の流れを組む青山の有名店で修行した青木さん。その技術の高さは、焼鳥業界でも尊敬されている。

しかし、駅前再開発により店は惜しまれながら閉店。コロナ禍も重なり、店主の青木さんは一年半に及ぶ充電期間に入る。緊急事態宣言が終わりかけた頃、少しずつ青木さんのSNSで新店の準備の様子が伝えられるようになった。そして、いよいよ店名とロゴが発表される。

その名は「Sintolitel(シン・トリテル)」、シン・ゴジラが上陸した蒲田ではなく、新しき焼鳥の名店は大森でスタートした。レジェンドと呼ばれ、今や焼鳥業界屈指の人気店主となった青木さんの華麗なる第2章の開幕だ。

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焼鳥屋らしからぬ洒落た店構えと、 Sintolitelのロゴはレストランかバーと思う人たちも多いだろう。

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ロゴがあしらわれたマスク入れと、1人I個のお弁当。これから始まるSintolitel劇場に胸の高鳴りを隠せなくなる。

Sintolitelのイントロダクションは、いきなり弁当箱から始まる。選び抜かれた海苔弁の上には、青木さんが丁寧に手作りしたお通しが並んでいる。ドリンクを頼み、焼鳥の完成を待つ間、海苔弁のおかずをお通しにして、これから始まる至福の時を待つのだ。

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一つひとつ丁寧に作られたおかずが並ぶ、圧巻のお通し。こんな焼鳥屋には誰もきっと出会ったことがないはずだ。

お弁当の意味はそれだけではない。その有り余るポーションに、食べきれない客やお持ち帰りを希望する人も少なからずいた「鳥てる」時代。新店では、残した焼鳥を、空いたおかずのスペースに詰めることで、自分だけのお持ち帰り弁当が完成する。


多くの店では高価なお持ち帰り弁当が、ここでは詰め合わせる喜びごと無料で持ち帰れる。青木さんならではのホスピタリティとユーモアに、のっけから笑みがとまらなくなる。

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塩、醤油、大葉、わさび、その組合せでいくつもの味が楽しめるシン・サビ焼き。地元大森名産の海苔に包むと鶏の旨みが口いっぱいに広がっていく。

そして、一本目のササミのさび焼きが登場。Sintolitelでは串から外して、大森名物の海苔を添えて供される。2種の味付けと大葉、香り高い海苔に包むと口中が幸せでいっぱいになる。見事すぎる、青木さんリターンズの始まりだ。

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焼鳥用ではなく、鰻用の長い串で焼かれる焼鳥の中でも、青木さんの名刺代わりとも言うべきレバーが焼き始められると店内に歓声が起きる。

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これほど大きいレバーは、かつて渋谷のんべい横丁にあった鳥重くらいだろう。口いっぱいに頬張ることが焼鳥の醍醐味だと教えられる1本。

そして、お待ちかねの持つ手が痺れるレバーが焼き始められる。久しぶりに邂逅する姿は、やはり笑ってしまう程大きい。上下をハツで留められたタレ味のレバーは焦げやすく、途中焦げたエッジを鋏で丁寧にカットしていく。豪快でありながら、繊細極まりない青木さんの職人芸に魅了される時間だ。

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名古屋種とニューハンプシャー、軍鶏を交配した大和肉鶏は、ブロイラーの2倍の飼育期間で育てられる。適度に脂がのっているのにヘルシーな肉質が嬉しい。

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更なるヴァージョンアップを遂げた半熟うずらの焼鳥も、客達に人気が高い。優しい味わいの箸休めとしても楽しめる。
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内側にお揚げを挟むことで、独特の食感と旨みを引き出したネギ巻き。充電期間中、きっと焼鳥のことばかり考えていたに違いない青木さんの姿が浮かぷ。

続いて登場するお馴染みのラインナップも、一つひとつがヴァージョンアップされいて、一年半に及んだ充電期間の成果に胸を打たれる。半熟のうずら味玉は、一晩味を染み込ませ、ネギ巻きの内側にはそっとお揚げが仕組まれている。繊細に掃除された砂肝の食感も、軟骨やハツ元、ハラミやセセリなどが練り込まれたツクネの歯応えも堪らない。


朝いちで届く鶏の解体から串打ちまですべてワンオペで行う、青木さんならではの完成された焼鳥は、やはりワンアンドオンリーだ。

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もちろん、すべてを平らげてお弁当が作れなくなってしまう猛者たちも数多く存在する。しかし、やっぱり、〆のYドッグもしっかり食べてしまう。

そして、手元には自分だけの焼鳥弁当が完成している。明日の朝も、Sintolitelに舌鼓を打つか、家族へのお土産にするか。もう一つの楽しい時間が流れていく。

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同業者たちにも人気が高い焼鳥を挟んだYドッグは、今回コースの一品として組み込まれたので、予約をし忘れて後悔することもない。
人気の〆として多くの人たちに愛されたYドッグこと焼鳥ドッグは、今回はコースに組み込まれている。もうおなかいっぱいのはずなのに、昔日の「かしわ」を思わせる大和肉鶏の旨さと青木さんの技術で、すんなりと腹に収まってしまうから不思議だ。
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最も古い青木さんファンの1人であるソリマチさんは、実はムード歌謡という絆で出会い、親交を深めたらしい。
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いつもダンディな画伯自身が作品を手に、ポートレート。ソリマチアキラさんの額は、この先Sintolitelの入口に飾られる予定だ。

店内の全員が顔見知りだったこの日、青木さんの親友であり、著名なイラストレーターであるソリマチアキラさんから素敵なプレゼントが手渡された。大き過ぎるレバーを焼く青木さんと客が書き下ろされたSintolitelの額だ。無邪気に喜ぶ青木さんの笑顔を見つめながら、誰もが待ち望んだ開店を喜んでいる。


完全予約制で、もう既に予約困難店になったSintolitelだが、あらゆる方法を駆使してもぜひ訪店してほしい。焼鳥の新しい伝説は、もう大森で始まっている。

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『Sintolitel(シン・トリテル)』

東京都大田区大森北1-3-1

森 一起

文筆家

コピーライティングから、ネーミング、作詞まで文章全般に関わる。バブルの大冊ブルータススタイルブック、流行通信などで執筆。並行して自身の音楽活動も行い、ワーナーパイオニアからデビュー。『料理通信』創刊時から続く長寿連載では東京の目利き、食サイトdressingでは食の賢人として連載執筆中。蒼井優の主演映画「ニライカナイからの手紙」主題歌「太陽(てぃだ)ぬ花」(曲/織田哲郎)を手がける。

森 一起

文筆家

コピーライティングから、ネーミング、作詞まで文章全般に関わる。バブルの大冊ブルータススタイルブック、流行通信などで執筆。並行して自身の音楽活動も行い、ワーナーパイオニアからデビュー。『料理通信』創刊時から続く長寿連載では東京の目利き、食サイトdressingでは食の賢人として連載執筆中。蒼井優の主演映画「ニライカナイからの手紙」主題歌「太陽(てぃだ)ぬ花」(曲/織田哲郎)を手がける。