日本の物価水準は低すぎる⁉ 投資をしないことで起こる「3つのリスク」

  • 文:川畑明美
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ビッグマック指数をご存じだろうか? イギリスのエコノミスト誌が公表しているビッグマックを基準にして、各国の物価水準や為替相場を比較したデータだ。CHUNYIP WONG-istock

バブル景気の頃、日本の物価は高い水準にあった。現在は、どうなのだろうか? ビッグマック指数で比較して考えてみよう。ビッグマック指数とは、イギリスのエコノミスト誌が公表しているデータで、マクドナルドで販売されている各国のビッグマック1個の価格を比較しているものだ。多くの国でビッグマックは販売されているが、材料や調理法がほぼ共通であることから、ビッグマックを基準にして、各国の物価水準や為替相場を比較しする。


今年2021年の日本のビッグマックの価格は390円で31位だった。上位は先進国が占めていて、日本より安いのは、アジア諸国や南米、ロシア、中東、東欧の国々。バブル景気だった頃のビッグマックの価格は370円。今とほとんど価格が変わらないが、当時のビッグマック指数はかなり上位だった。ビッグマック指数は、その国の経済力を表す指数と考えれば、現在の日本のビッグマックの価格は、先進国の中では下位であり新興国とあまり変わらないということ。経済力が下がっているという事実を突きつけられているのだ。

日本で働く会社員の平均給与もほぼ横ばいだ。バブル以降長らく増えていない。ところが株価は、上昇しているのだ。ここに気付いて欲しい。リーマンショックで最安値を付けた日経平均株価は、7,162円だった。それが3万円近くになっているのだ。リーマンショック後から日経平均株価に連動する投資信託を購入していたら、それだけでも資産を増やせた。給与が上がらないのは会社のせいだ、そもそも政府のせいだと周りを批判するのではなくお金を増やす行動ができていれば、お金持ちになれたのだ。投資をしないことで起こる「3つのリスク」について考察してみよう。

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投資をしないリスクその1
→利益を享受できない

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日本の家計は、そのほとんどが預貯金に回っている。欧米など先進国と比較するそれは顕著だ。損をしたくない気持ちが強いのかもしれない。kazuma seki-istock

なぜ投資をしたくないのか、心理面から考えてみよう。「自分の出したお金に見合ったものは返ってくるだろうか?」私達人間は「損をしたくない」という心理がとても強い。だから安全で確実な「貯金」の方が安心なのだ。日本銀行が2021年8月20日に公表した「資金循環の日米欧比較」を見てみよう。日本の家計金融資産構成比率は、「現金・預金」が54.3%だ。他国と比較してみよう。アメリカは13.3%、ユーロエリアの34.3%だから日本の現金・預金保有率は、大きく上回っている。損したくないと考える人が他の先進国と比較して実に多いのだ。


預貯金のメリットは、元本割れしないことと、銀行に預けておくだけで何もしなくて良いということだろう。何もしなくても良い代わりに高いリターンを放棄するのは、実にもったいないことだ。例えば、2008年1月から2020年5月まで、日経平均株価に実績が連動する投資信託に毎月3万円ずつ積立投資を続けてきたと仮定すると、元本は447万円。これに対し、投資の評価額は約650万なので、203万円もの利益を享受できたのだ。

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投資をしないリスクその2
→預金だけでは金利が低すぎてお金が増えない

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鶴は千年亀は万年のことわざのように亀が1万年生きるとして、その寿命を持ってしても普通預金に預けたお金は2倍にならない。ittipon2002-istock

また、「お金は働いて稼ぐしかない」という思い込みも強いのではないかと感じる。もちろん収入がアップしたら貯金も投資も、たくさんできる。ところが多くの人は、そうならない。収入がアップしたらその分生活費もアップしてしまうのだ。そして「もっと稼げるようにならないと投資なんてできない」と、考えてしまうのだ。お金が増えないのは、ただ漠然と普通預金や定期預金で増やそうとしているからだ。


メガバンクの普通預金の金利は0.001%、定期預金でも0.002%だ。仮に100万円を1年間預けたとしても普通預金では10円、定期預金でも20円の利息しか得られない。しかも税引き前だ。72の法則をご存じだろうか? 預けたお金が2倍になるまでのおおまかな年数を簡単に確認できる計算式だ。計算式は、72÷預金金利(%)≒2倍になる年数だ。この式に今の普通預金の金利を当てはめると72÷0.001%≒7万2000年。生きている間に2倍になることは、あり得ない。


「鶴は千年亀は万年」のことわざがあるが亀の1万年の寿命を持ってしても普通預金が2倍にはならない(ただし実際は、亀の寿命はゾウガメで100から200年)。リスクを取らないリスクに気付いて欲しい。72の法則は、2倍になる年数だが4倍に増える年数を計算するには144の法則を使うと計算できる。144÷金利(%) ≒ 4倍になる年数だ。


ちなみにクレジットカードのリボ払いの金利は15%だ。144の法則を使って計算をすると144÷15%≒9.6年。リボ払いは、9.6年で4倍になってしまうのだ。借金の金利のスピードは速く増えるのに対して、預金の金利で増えるのは、亀の寿命よりも長い。金利のスピードを意識するべきだ。

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投資をしないことで起こるリスクその3
→生活水準を維持できない

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平成元年の頃は、1,000円あれば2回ラーメンが食べられたのに、今では1回しか食べることができない。iStock-477828972

ただし、投資は魔法のように増えると誤解してしまい、預金もないのに投資に挑戦してしまう方もいる。投資は、元本に対して掛け算で増えるのだから、

少ない元本では、それほど増えない。年利10%で増えるとしても、10万円ならば、年間で1万円だか1000万円ならば、年間で100万円だ。とはいっても、全財産を投資に傾けてはいけない。バランスが大事なのだ。正しい考え方は、労働収入が増えたお金は「お金に働いてもらう」ということ。働いてもらうお金が増えれば、その分を投資に回すことで「不労所得」も増やしていくのだ。投資をしたらすぐに年間100万円の不労所得が手に入るのではなく、預金よりも早いスピードで貯蓄していくということだ。

筆者は「貯金は損」と話すことがある。それはどんな年齢の方でも、ある程度は資産運用(投資)する必要があるからだ。投資というと「お金を増やすためのもの」と、考える方が多いが「今の生活水準を維持するため」にも必須だからだ。つまり守りの投資は、誰でも必要だ。なぜならモノの値段が変化することで、お金の価値が変わるからだ。


あなたも大好きなラーメンの価格は、東京都の統計資料を見ると平成元年の平均価格は、437円だった。今は700~800円程度だ。平成元年の頃ならば、1000円あれば2回ラーメンが食べられたのに今では、1回しか食べられない。モノの値段が上がることにより、お金の価値が下がってしまうことを「インフレリスク」という。このインフレリスクに対応するには、モノの上昇率よりも資産の増加率を上げることが必要だ。だから60歳代だから資産運用は遅いということにはならない。

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できれば長期投資から始めて欲しい

モノの値段が2%上昇するのなら、手元の資産も2%増やさなければ物価の上昇に追いつくことはできない。バブル崩壊前までは、銀行預金でも物価の上昇と同じくらいの利息はあった。ところがバブル崩壊後、金利は下がり続けている。預金金利では、物価の上昇に対応できないのだ。だから年金生活の方でも、ある程度の投資は、必須といえるのだ。


ただし比較的安全で、確実に増やすには「時間」が必要だ。5~10年間使わなくても大丈夫と思える金額で始めることが重要だ。30~40代の方ならば、少額でも良いので早く始めると大きく増やせる。投資の利益を再投資すると「複利の効果」が得られる。この複利の効果は、長ければ長いほど効果を発揮する。例えば毎月3万円を積立投資をして年利5%で運用できた場合、30歳から60歳までの30年間積立を続けると約2,500万円になる。元本は1,080万円で、増えた分は1,420万円だ。たった3万円でも老後の生活費の不足額2000万円を十分に準備できる。

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/