これこそ日本のモノづくりの頂点。新型トヨタ・ランドクルーザーに乗って驚く。

  • 文:小川フミオ Text Fumio Ogawa

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2021年のトヨタ自動車の大ヒット商品が、8月に発売された新型「ランドクルーザー」。余裕あるサイズの車体に、大きなエンジン、それにけっこうな高価格。にもかかわらず、なんでも、いま注文して納車は3年後とか。

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ぱっと見の印象は、機能主義的なカッコよさがある。力強そうなんだけれど、アクの強さはそこそこで、理知的な雰囲気すら。Pen On Lineの読者のかたになら”ディーター・ラムス時代のブラウン製品とどこか通じる”雰囲気といっても、わかってもらえるかな。

じっさいに、ランドクルーザー、略してランクルは、国際的なブランドだ。もっとも有名なトヨタ車といってもいいだろう。旅好きのひとなら、中東やアフリカでもランクルを見かけたことがあるのでは。

1951年に初代が発売されていらい、世界中で使われてきたクルマだ。高評価の理由は、悪路走破性と信頼性と耐久性。英国のランドローバーの好敵手で、あちらがアルミボディによる耐腐食性を武器にしていたのに対して、ランクルは頑強なエンジンが、”現場”では評価されてきた。

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新型ランクルは、そこにあって、ちょっとオシャレな雰囲気をまとっている。最大の目的が「世界各地で人の命や暮らしを支える」(トヨタによるプレスリリース)であることは変わりないようだけど、いっぽう、「より豊かな人生を支える」(同)ことを前面に打ち出している。

私は(まだ)悪路で試していないので、そこは「すごかった」という体験者の談話を参考にするしかない。舗装路面の公道で乗った印象は、ひとことでいうと、気持ちいい。運転が楽しめるクルマのことをドライバーズカーという。新型ランクルはそれだ、と私は思った。

今回、エンジンは2種類。3.5リッターV型6気筒ツインターボガソリンエンジンと、3.3リッターV型6気筒ツインターボのディーゼルだ。前者は最高出力305kW(415ps)、最大トルク650Nm、後者は227kW(309ps)と700Nmと、いずれも数値ではかなりのもんなのだ。

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「ZX」の快適志向のインテリア

はたして乗ってみると、ガソリンエンジンは、よどみがない、と表現すればいいのか、発進時からスムーズで、加速性能にもすぐれている。あっというまに法定速度の限界に達してしまう。

車体のユッサユサ感はなく、革巻きステアリングホイールの操作はスポーツカーほど過敏でないものの、路面とのコンタクト感はしっかり伝えてくれるので不安はいっさいなし。レンジローバーやディフェンダー、それにメルセデス・ベンツGクラスなど意識しているのだろうか。気持ちよさは負けていない。

ディーゼル車も基本的には同様。すこしディーゼルエンジン特有のカラカラ音は聞こえてくるものの、意外なほどよく回るエンジンで、かつ加速時に力が湧き出てくる感覚はナチュラル。ディーゼルのほうが好き、という意見もあるのに納得できる。

シャシーは、本格的クロスカントリー型4WD車の定番ともいえる、)ラダーフレーム採用。一般的なモノコック型ボディに対して、悪路での堅牢性が高く、衝撃吸収性にもすぐれ、かつ、(ランクルは関係ないかもしれないけれど)トラックボディとか、現地のニーズにあったボディに載せ替えられるなどがメリットだ。

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「GR SPORT」のスポーティな雰囲気のインテリア

それでいて、モノコックのSUVもかくや、と思わせる操縦性や乗り心地をオンロードで実現してしまったのは、感心するしかない。とくに私が乗ったガソリン「ZX」グレードや、ディーゼル「GR SPORT」グレードでは、快適性も追求するための装備がいろいろ採用されていた。

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ひとつは「AVS」。アダプティブ・バリアブルサスペンションという電子制御式のダンパーをサスペンションシステムに採用していること。路面状況や運転操作に応じ、ダンパーの減衰力を4輪独立で制御するシステムで、今回はさらに乗り心地改善のための機構が追加された。

もうひとつ、操縦性の面では、ステアリングシステムだ。油圧式パワーステアリングに、電動式の操舵アクチュエーターを組み合わせている。これによって、運転支援システムである「操舵支援機能」がそなわるとともに、低速時の取り回しや悪路走行時にステアリングホイールに路面からの反発(キックバックという)がくるのを低減することができたそうだ。

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悪路の走破性はランドクルーザーの性能におけるトッププライオリティ

スポーティな雰囲気の「GR SPORT」では「E-KDSS(Electronic-Kinetic Dynamic Suspension System)」が採用された。市街地での走行安定性とオフロードの走破性を両立させるもので、仕組みとしては、前後のスタビライザーを独立して電子制御する。

「GR SPORT」では、サスペンションストロークがさらに大きく伸ばされたことも特徴だ。「これまでのランドクルーザー史上、最長のホイールアーティキュレーションを実現」(プレスリリース)とされる。端的にいうと、接地性を失わない。悪路ではなにより大事なことだ。

新型ランクルのことを書くと、このように技術のオンパレードになってしまう。あまりクルマに興味のないひとには、ちょっと申し訳ないと思うんだけれど、オフロード性能を含めて、これでもぜんぜん書き足りない。そこがすごい。

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ドライブモードセレクターでキャラクターは大きく変わる

このクルマの特徴は、ようするに、ダカールラリーからのフィードバックを活かして開発され、これから新型でもって同ラリーに挑戦するというスペックスにある。

「世界一過酷と称されるダカールラリーに1995年から25年以上にわたり市販車部門への参戦を続けています。今回のランドクルーザー、なかでもGR SPORTの開発にあたっては、「モータースポーツを起点にしたもっといいクルマづくり」を実践」

トヨタ自動車では、上記のように書くとともに、「このラリーに参戦するドライバーからのフィードバックを車両開発に生かし、過酷な運転環境でも安心して運転しやすく、疲れないクルマを目指し改善に結び付けています」と続けている。

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室内の静粛性は高く、JBLのオーディオシステムをオプションで選べば、かなり質の高い音楽再生を楽しめる。シートヒーターと、暑いときのベンチレーションが、オートモードで作動するなど、いたれりつくせりの快適性にも感心。長距離移動もまったく苦にならない。

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シートのベンチレーター(暑いとき用)とヒーターもオートで作動するなど快適装備もいたれりつくせり

日本のモノづくりの精神は、このように自動車という工業製品にも活かされているといえる。それが響くひとたちが、ランクルの人気を支えているんだろう。最上級グレード「ZX」で730万円、ディーゼルの「GR SPORT」は800万円。けっして安いクルマでないものの、大きな満足感が得られるところが、なにより魅力といえる。

Toyota Land Cruiser ZX
●ディメンション(全長×全幅×全高):4985×1980×1925mm
●パワートレイン:3444ccV型6気筒ガソリン
●最高出力:305kW@5200rpm
●最大トルク:650Nm@2000〜3200rpm
●駆動方式:4輪駆動
●車両価格:730万円

Toyota Land Cruiser GR SPORT
●ディメンション(全長×全幅×全高):4985×1980×1925mm
●パワートレイン:3345ccV型6気筒ディーゼル
●最高出力:227kW@4000rpm
●最大トルク:700Nm@1600〜2600rpm
●駆動方式:4輪駆動
●車両価格:800万円