イラストレーターやグラフィックデザイナーだけでなく、映画にエッセイ、作曲、作詞などでも活躍し、2019年に惜しまれつつ逝去した和田誠。20代にして手がけた『ハイライト』や40年以上にも渡って担当した『週刊文春』の表紙などはあまりにも有名だが、和田の残した仕事は膨大なだけに、全貌をつかみ取るのはそう簡単なことではない。
東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の『和田誠展』では、子どもの頃の絵から挿絵、似顔絵、さらに劇場や映画などのポスターからロゴマークといった、83年の生涯で制作した作品を紹介している。その数は約800点の書籍と原画を含む2800点にも及んでいて、トピックも「私家版絵本」や「和田文字」 、それに「パロディ」など30にも分かれているから、和田がいかに多方面に業績を残したのかが理解できる。一度で全てを見られるかどうか心許なく思えるほどの展示量だ。
絵本や児童書のイラストレーションも魅力に満ちている。絵本を作ることが子どもの頃からの夢だった和田は、1963年に私家版絵本の『がらすのお城』と出版社より依頼された『ぬすまれた月』を刊行すると、同年代の星新一の子ども向けのショートショートの挿絵をほとんどを描いていく。そして谷川俊太郎と一緒に絵本を制作。谷川が翻訳したイギリスの伝承童謡であるマザー・グース336編に挿絵を付けるのだ。さらに和田は挿絵だけに留まらず、自発的な押韻にこだわった翻訳の和田版『オフ・オフ・マザーグース』を完成させる。そもそも和田は小学生の頃からマザー・グースにも親しみ、言葉あそびが好きだったとされるから、大人になって夢を叶え、作品として大成させたというしかない。
会場構成は『エリック・カール展』(PLAY! MUSEUM)を手がけた建築家の張替那麻(Harikae) が担当。冒頭にさまざまな著名人を描いた似顔絵が壁一面を埋め尽くすように広がり、続いてわずか4歳の1940年から亡くなる2019年までのさまざまな作品が「ビジュアル年表」として立体的に展示されている。さらに奥のスペースでは『新宿日活名画座』や『週刊文春』のポスターや表紙が怒涛のように並んでいると同時に、パネル内部にて装丁から作曲、アニメの仕事などが紹介されている。エッセイの直筆原稿や映画のためのノート、それに装丁の原画が見られるのも嬉しい。
最後に公開されている映像『ただいま制作中』(約34分)も見過ごせない。ここでは和田が手で筆をするすると伸ばし、絵に色をつけて描いていく光景などが捉えられているが、例えばクジラのイラストでは一度完成させた後、「ヒレが足りない」として、図鑑を参照しながら改めて描き加えるといったこだわりを見ることができる。すでに展示は人気を集め、土日を中心に多くの人が訪れているが、かつてないスケールの回顧展にて誰も到達できないような和田の作品世界にのめり込みたい。---fadeinPager---




『和田誠展』
開催期間:2021年10月9日(土)~12月19日(日)
開催場所:東京オペラシティ アートギャラリー
東京都新宿区西新宿3-20-2
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:11時~19時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月
入場料:一般¥1,200(税込)
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://wadamakototen.jp