川栄李奈は今年、女優として抱いてきた大きな夢を、ついに叶える。幾度もオーディションを受け続け、11月から放送が始まるNHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で念願だった“朝ドラヒロイン”の座を射止めたのだ。本連載の撮影場所となったエイベックス・マネジメントに所属した頃を振り返り「その当時から事務所の人たちにも朝ドラのヒロインが目標だとずっと言ってきたので、すごく喜んでくれました。自分ではまた落ちるのかなと思っていたからびっくりしたけれど、本当にうれしかったですね」と、率直に胸の内を明かす。朝ドラへの出演は『とと姉ちゃん』に続く2度目。スタッフや共演者と長い時間をともにする撮影を、心待ちにしている。
「家族のように温かい関係を築くことができるのが、朝ドラの撮影の素敵なところなんです。『とと姉ちゃん』に出させてもらったことでお仕事をたくさんいただくようになり、私自身もいろいろな作品を経験したので、あの頃とはまた違う見せ方ができるのではないかと思います」
3人のヒロインが紡ぐ、ラジオ英語講座とともに歩んだ家族の物語。秋からは京都を舞台に、自身がヒロインを務めるパートの撮影が始まる。現在、台本を読み込み、英語の学習を重ねている。
「今年の1月から先生についていただいて、発音の勉強をしています。台本を覚えるのは早い方だと思いますが、今回は関西弁と英語というふたつの課題があるので、とにかく頑張らないと。大河ドラマ『青天を衝け』で京言葉を学んだ経験も生かせると思いますし、前の世代の物語から台本をじっくりと読んで時間をかけて準備できることがありがたい。いままでは同じ時期に撮影が重なることも多かったのですが、ひとつの作品に集中できる環境に感謝しながら、ていねいに取り組みたいです」
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演技の場でも生きている、AKBで培った臨機応変さ
若き名バイプレイヤーとして、出演するドラマ、映画に奥行きをもたらし、映画『恋のしずく』では主演も経験。オファーが絶えない理由を自己分析してもらうと「扱いやすいのかもしれないですね」という答えが返ってきた。
「台本はしっかり覚えて現場に入りますが、お芝居については事前につくり込まずに、現場で監督に委ねるやり方をしています。熱心な方からすると意思がないように思われるかもしれないのですが、私は自分が主体とは捉えず、作品はみんなでつくるものという考え方をしているんです。その場で言われたことに臨機応変に対応する力は、AKBで培ったものだと思います。本番直前に、振り付けやポジションが変わることはよくあったので。いろいろな作品や役柄を演じる上で、切り替えが早い性格も役立っているかもしれないですね。『お疲れさまでした!』の後は役を引きずらず、ナチュラルに生活できるところは、自分の強みです」
現代劇では、「自分の顔は自分がいちばんわかっていると思うから」と役柄のキャラクターに合わせてメイクも自身で施す。現場に身を置く時間が好きで、芝居をすることがなにより楽しい。だから周囲の反応はあまり気にならないというタフさももっている。
「『僕たちがやりました』というドラマに出演した時に、すごい勢いでSNSのフォロワーが増えたんです。もちろんうれしかったのですが、それで心境が変わったりすることはなかったですね。テレビってすごい、とは思いましたが(笑)。きっとこれからも自分が楽しいからお芝居をしているんだ、っていう気持ちがゆらぐことはないと思います。朝ドラと大河ドラマに出演するという夢が叶ったいま、次の目標は映画で賞を獲ることです。自分の代表作といえる映画に出合えたらいいなと思っています」
笑顔は可憐だが、言葉の端々にも浮き足立ったところはない。自分の居場所を冷静に俯瞰する眼差しと、芝居への愛を種火にした情熱を携えて、川栄の女優人生は、すべての経験を糧にしてこれからも続いていく。

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WORKS
『青天を衝け』
2019年の『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』に続いて、女優としての目標のひとつだったNHKの大河ドラマに出演。慶喜の正室であり、徳信院との仲に嫉妬して自殺未遂を図るもよき理解者となる美賀君を演じた。
『カムカムエヴリバディ』
2021年度後期のNHKの連続テレビ小説。戦前から戦後、令和の時代にラジオ英語講座とともに生きた祖母、母、娘の三世代の物語を描く。川栄はオーディションで抜擢され、上白石萌音、深津絵里に続くヒロインを演じる。

『泣くな赤鬼』
重松清の小説を映画化したヒューマンドラマ。川栄が演じたのは、余命わずかの夫を支える妻。自身も減量をして撮影に臨んだという。DVD¥4,290、Blu-ray¥5,280 販売元:ハピネット・メディアマーケティング
※こちらはPen 2021年12月号「腕時計、この一本と生きる」特集よりPen編集部が再編集した記事です。