【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】 第140回
英国最強グランツアラーが奏でるV12サウンドは 、未来に続く永遠のもの

  • 写真&文:青木雄介

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DBSスーパーレッジェーラは、アストンマーティン史上最強のパワーをもった量産モデル。

秋はV12エンジンの季節と相場で決まっている

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エアロブレードと呼ばれるDB11と同じ空力機構を採用。さらにF1に着想を得たダブルディフューザーを備え、ダウンフォースはアストンマーティンの市販車において最高値を記録。

秋はV12エンジンの季節と相場で決まっている。12もの気筒数で構成する大排気量V12は、さながら調色数を増やした絵画のパレットって感じでね。流すにしろ、攻めるにしろ、深みのあるエンジンの味わいが秋のドライブにはうってつけなんだ。

「向かうべきは軽井沢」ということで、アストンマーティンの旗艦車種「DBSスーパーレッジェーラ」に乗った。500km近く走ってみた結論は、「乗れば乗るほどつきない魅力を発見できるスーパーグランツアラーである」ということだった。パドルシフトとアクセルワークだけでワインディングを駆け抜けてしまうほどのエンジン至上主義な走り。自慢のV12エンジンを自然のなかで堪能する走りは、このクーペの本懐である。

伝統のダブルウィッシュボーンサスペンションはロードコンディションをステアリングに伝える大人な仕様。低音に深みのあるエグゾーストノートは、無骨だけど温もりが感じられる筋金入りの英国車って感じ。アクセルを深く踏みこめば非日常へ誘われるものの、官能性や祝祭感といった表現になびく素振りはみじんもない。

走行モードを「スポーツ」にするとほんの少しアンダーステアな傾向に。そして「スポーツプラス」にするとややオーバーステアな傾向へと変わる。ブレーキングをして前に荷重移動させてからアクセル調節によるドリフトを楽しむなら「スポーツ」モード、タイムを削るグリップ走行か高速での慣性ドリフトには「スポーツプラス」が適しているのだろう。そもそも1800回転から最大900Nmもの高トルクを得ることが可能な強心臓。オーナーになったらぜひ、なるだけ早くクローズドコースでドリフトを試してもらいたい。

007最新作『007/ ノー・タイム・トゥ・ダイ』で英国諜報員ノーミを演じるラシャーナ・リンチがDBSスーパーレッジェーラで派手にドリフトするシーンがあるんだけれど、あれがアクセルの踏み込み方を変えるだけで簡単に起こる。ポイントはシフトダウン時の2500回転付近でトルクが鋭く立ち上がる点。フェラーリ812スーパーファスト同様に市販車最強クラスのパワーを後輪だけで駆動させるので、右足の緊張感をゆめゆめ忘れてはいけない。これはロングノーズクーペの形をしたスーパーグランツアラーの共通マナーといえるはず。

 このクルマの大きな特徴は、その乗り心地にもある。いかにもスポーツクーペらしい固い乗り心地なんだけど、乗員を思いやるグランツアラーの魅力も忘れてはいない。路面からの入力を自重で受け止め、強じんなフレームで打ち消す。その考え方は同じ英国のマクラーレンとも似ていて、乗員を疲れさせないための重量バランスを構造から考え設計している。固い乗り心地でも疲れさせない。この粋なパラドクスこそが旗艦車種だと感心させられたんだ。

乗れば乗るほどわかり合える感覚がするのは、パワーに慣れるのと同時にこのたくらみに気づいてこそ。あえて007的に解説するなら、近寄りがたかったスパイの本心がやっと理解できた感覚に近いかも。そんな感覚はダニエル・クレイグ最後の主演作となった『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』にも確かにあった。

今回、彼が乗るのはこれまでのシリーズで活躍した「DB5」や「V8サルーン」で、シリーズとアストンマーティンの過去をオマージュしているわけ。結果、現在を意味する「DBSスーパーレッジェーラ」や未来を意味するハイパーカー「ヴァルハラ」には乗らない。でも、これがとてもよい演出だった。

アフリカ系の女性諜報員役であるラシャーナ・リンチがクールでよく似合っていたということもあるけど、アストンマーティンにとってもジェームズ・ボンドとの関係を築きなおす意味でも必要な演出だったはず。きたるべき新しい007像に新しいアストンマーティン。ステアリングを握ると心が躍らされ、その未来はとても期待に満ちたものに感じられたんだ。

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V型12気筒ツインターボ5.2Lエンジンは725馬力を発生。フロントミッドシップとなる。

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革巻きのステアリングに革張りのシートは、主張のあるステッチで縫い上げられシンプルで鮮烈な印象を残す。

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イタリア語で“超軽量”を意味する「スーパーレッジェーラ」のエンブレム。アストンマーティン社においてはこのクルマが装着される最後となる。

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新開発されたクアッドパイプチタンエキゾーストシステムによりハードコアなV12サウンドが生成される。

アストンマーティン DBS スーパーレッジェーラ
Aston Martin DBS Superleggera

サイズ(全長×全幅×全高):4,712×1,968×1,280mm
排気量:5,204cc
エンジン:V型12気筒ツインターボ
最高出力:725hp/6,500rpm
駆動方式:FR(フロントエンジン後輪駆動)
車両価格:¥36,450,000

アストンマーティン ジャパン
TEL:03-5797-7281
www.astonmartin.com/ja