アウディe-tron GTは、なぜこんなにナチュラルなドライブ感覚なのか

  • 文:小川フミオ
  • 写真:望月浩彦/アウディジャパン

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スタイリッシュさも魅力的なピュアEV

いよいよ、電動車について本腰を入れ始めたアウディ。e-tron(イートロン)と名づけられたピュアEVのシリーズが、充実してきている。数だけでない、質が高い。2021年に日本発売開始されたスポーツセダン「e-tron GT」は、とてもよい証明だ。

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アウディe-tron GTは、全長4990ミリとけっこう余裕あるサイズのボディを持ち、前後に1基ずつモーターを搭載した4輪駆動。アウディでは、同社の伝統にしたがって「クワトロ quattro」と名づけている。

ポルシェのピュアEV「タイカン」と基本プラットフォームを共用するといい、パワーも充分。日本でのラインナップは2つのモデルで構成されていて、「e-tron GTクワトロ」は最高出力390kWと最大トルク640Nm、「RS e-tron GT」は475kWと830Nmとかなりのもの。

じっさいに速い。1980年代に世界ラリー選手権を暴れまわった「アウディ・クワトロ」をどこか彷彿させるブリスターフェンダー(ホイールアーチまわりをパネルごと膨らませたデザイン手法)を備えたボディの迫力に、じっさいのパフォーマンスが負けていない。

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アクセルペダルを踏み込んだとたんに最大トルクを発生する電気モーターの特性により、小型ロケットにまたがったらこんなかんじ?と思うような加速を味わわせてくれる。

液晶の速度計は、デジタル表示が壊れたんじゃないか、と思わせるぐらいのいきおいで、速度表示をぐんぐんあげていく。しかも静か。ピュアEVならではだ。

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おもしろいのは、アクセルペダルに載せた足裏に軽い振動が伝わってくることだ。気筒内での爆発を推進力にするエンジン車でおなじみといえるバイブレーションに近い。

RS e-tron GTではオプションで、エンジン音を思わせる電子合成されたサウンドを聞かせるシステムが用意されている。それと同様に、電気的なバイブレーションを感じさせているんだろうか。

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エンジンに特有の振動によって、ランボルギーニ・ウラカンと共用のV10エンジン搭載の、かつてのスポーツカー「アウディR8」を思い出させるような、痛快な気分が味わえるようにしている? 事実はわからないものの、私はそう思ってしまった。

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タイカンと「J1」という大型EV用プラットフォームを共用するe-tron GTは、400キロほど走ってみた印象として、よりGT的。長距離を疲労感すくなく走るのに向いていると感じた。

タイカンのほうが足まわりが固めてあって、よりスポーツカー的。ただし、ちょっとソフトなタイカン4Sならe-tron GTに近い。私がもっとも好きなタイカンでもある。e-tron GTも、アウディのRSシリーズに共通する、ガチガチでなく、それでいて運転が楽しめるフィーリングがしっかり盛り込まれているのだ。

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スタイリングは、アウディ車のアイデンティティを守りながら、しっかりとスポーツカー的に仕上げてある。それも、いままでなかった未来感が盛り込まれている。東京の市街地では、道ゆくひとが”おっ”というかんじで見たので、いわゆる”惹き”の強さがあるんだろう。

アウディ車に共通するヘクサゴングリルをそなえているものの、全体はブラック仕上げ。EVにとってもっとも重要なパーツであるインバーター(直流を交流に変換する装置)は熱をもちやすいため、冷却気を採り入れる大きな開口部と一体感が強い。

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側面は、クーペ的な雰囲気。ルーフ後端からトランクの端までリアウィンドウをゆるやかに寝かした、いわゆるファストバックスタイルだ。アウディA7スポーツバックなどを思わせるアウディならではのスタイル。ただしe-tron GTはハッチバックでなく、トランクは独立している。

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フロントマスクとともにリアビューも迫力満点。1965ミリもある全幅に、1395ミリと比較的低めの全高の組合せ。そこに285/40という幅広でかつ扁平の20インチタイヤがはまっていて、高出力のスーパースポーツのような眺めだ。じっさい、このタイヤサイズは、前記アウディR8と同じである。

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インテリアは、ポルシェ・タイカンより、意外かもしれないけれど、常識的といえるもの。液晶モニターと、中央の液晶によるインフォテイメントシステムのモニター、2つそなえるいっぽう、エアコンやドライブモードセレクトなどは、従来どおり、物理的なスイッチで行える。

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アウディ車に乗った経験があるひとなら、e-tron GTになんの違和感もなく乗れるはず。そしてRS e-tron GTは、スポーティなアウディRSシリーズと同様に、しっかりからだをホールドするヘッドレスト一体型バケットシートや、スウェードを使ったなかなかいいかんじのセンスを感じさせるダッシュボードなどをもつ。

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e-tron GTの車内にいると、EVを特別なものととらえ、そのように消費者にプレゼンすべくデザインする時代は、すでに過去のものとなったように思えてくる。

これからクラウドを介して、クルマとスマート端末が強くつながり、クルマと自宅との心理的な距離感も短くなっていくだろう。そこに向けて新しいサービスが続々と出てくるはずだ。いわゆる「V2X」の本格化が考えられる。

新しい時代のクルマのありかたは、しかし、より自然にあたらしい技術を使えること。これはどのメーカーの技術者も強調する点だ。技術が前面に出ていた時代はもはや終わり、技術はユーザーをこっそりバックアップする。

e-tron GTで興味ぶかかったのは、先述したように、運転の楽しさ、という点においてアウディは、いってみれば原点回帰をめざしているように思える点なのだ。加速性、スポーツカーもかくやと思わせる軽快なハンドリング、雰囲気を盛り上げてくれるバイブレーションとサウンド、といったものがうまく組み合わされている。

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もちろん、懐古的でなく、アウディはちゃんと前を向いている。インテリアでおもしろいのは、今回試乗した1台「e-tron GTクワトロ」が「レザーフリーパッケージ」というオプションをそなえていたことだ。

従来は本革でシートを覆っていたのに対して、このパッケージでは「カスケード Kaskade」というPETボトルなどをリサイクルして作ったヤーン(糸)で織った生地を使う。手触りはちょっとデニムを思わせるもので、カラーはチャーコルグレー。

21年6月には、イベント「デザインシャンハイ」において、ステラ・マカートニーとコラボレーションして、レザーフリーを標榜する同ブランドがバッグなどの素材として使う「エコニール」で内装を仕上げた車両を展示したアウディ。

「レザーでなくてもラグジュアリーは成立する」とするステラ・マカートニーの思想は、これからの高級車と響き合うものがあるのかもしれない。むしろ、レザーフリーパッケージを選択するほうが、いまのラグジュアリーの気分に合っているのだ。

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満充電からの航続可能距離は534キロとされている。私が試乗したかぎり、けっこうリアルな数値であるように思えた。しかも、急速充電器CHAdeMOの性能について、アウディジャパンでは、従来の62.5kWていどの性能から、まず90kWに引き上げた充電器をディーラーに配備したい考えを明らかにしている。

そのさきには、150kWの高性能化も視野に入れている。ポルシェでは一足先に「ターボチャージャー」の名称で、充電がごく短時間で済む150kWの急速充電器をそなえたディーラーも登場している。

急速充電器における高性能化の難点は、多額の設備投資だ。おおざっぱにいうと、従来なら1000万円ていどで済んだ投資が、90kWだと2000〜3000万円に、150kWでは1基あたり5000万円になるとされる。ピュアEVの問題点のひとつである。

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価格は「e-tron GT クワトロ」が1399万円、「RS e-tron GT」が1799万円。どちらを買うべきか。私の印象としては、どちらもよい、というものだ。後者はサーキットでも走れそうなぐらいパワフルで、エアサスのため乗り心地がよりしっかりしている。でも前者でもまったく不足はないだろう。

問題は、2021年に日本に割り当てられた100台弱はとっくに完売して、いま予約して納車がいつになるか、はっきり見通せないこと、とアウディジャパンでは言う。日本は優先的に供給される市場というものの、部品不足の昨今、悩ましい事実が存在しているのだ。

Audi RS e-tron GT
●ディメンション(全長×全幅×全高):4990×1965×1395mm
●最高出力:475kW
●最大トルク:830Nm
●駆動方式:電気モーターによる全輪駆動
●車両価格:1799万円