60年代的グラフィックで日本初個展!銀座メゾンエルメスで味わう贅沢な色の洪水

  • 写真・文:高橋一史

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アルゼンチン生まれで1958年にフランスに渡った御年92歳のジュリオ・ル・パルク。
日本初個展ということで、すごく気合の入った展覧会になってます。
入場無料な「銀座メゾンエルメス フォーラム」でこのボリューム、そしてこのアイディア。

見た光景が頭の中で混乱する60年代のオプアート、つまり「オプティカル=視覚」のアートジャンルが色濃い作家のようです。
かなり気になり、遅ればせながら会期後半にして見に行きました。
(11月30日で終了)

会場入り口パネルの解説文読むと、ピート・モンドリアンやロシア構成主義に影響を受けた人とのこと。
そりゃこの2つが大好物な私が惹かれるワケだ、と思いつつ展覧会を見終わって感じたのは、彼らとル・パルク氏の作品から受ける印象の違い。
モンドリアンはキャンバスを四角形ブロックで区切った抽象画家。
まるで印刷ポスターのようですが、その本質は絵画そのもの。
現実世界(風景)が成り立つ最小の構成要素を探るうちに、色の三原色と黒線に辿り着いてしまった、探究心の賜物。

一方でロシア構成主義は、20世紀初頭に急速に台頭した近代産業のパーツやイメージと社会との調和を、建築を含む総合芸術で追求したもの。
両者とも作品を目にしたとき、果てしない奥行きや揺さぶられる感情があり、だからこそ歴史的に“芸術”とされてきたのだと思うのです。

対してル・パルク氏の作品群は、悪い意味でなくグラフィックデザインに近いと感じました。
“使う用途のないデザイン”。
矛盾した言い方ですけど。
デザインは、役割がある道具的なものを指す言葉ですから。

ってなこと言いつつ、とても迫力があり楽しかったのです。
この手の抽象作品はもう、好きかそうでないかでOKなジャンル。
私は「この作品はなにを表しているのか」など考えもせず、長い時間ここにいましたね。

写真で掲載したもの以外の小作品やモノクロ作品、習作も多数あり、銀座メゾンエルメス フォーラムのスペースのポテンシャルを最大限に活用した贅沢な展覧会です。

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メイン会場へと入るエントランス。ステンドグラスのように美しいガラス壁には壮大な仕掛けあり(種明かしは記事の最後にて)。

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フロア構成は2階で各階が部屋にわかれてます。ここはメイン会場で目玉作品のひとつが奥にある巨大モビール。

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板が自然に回転し、周囲を反射しながらきらめく仕掛け。鏡と違い自分の姿があまり映らないのがよくて。映っちゃうと興ざめしますから。色そのものに浸れます。

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オプアート的に視覚を惑わす、縦横2メートルのキャンバス作品。

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塗装はアクリル絵の具。手仕事の跡を残すモンドリアン作品と異なり、ル・パルク作品はどれも印刷のようにきっちりと塗られてます。

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メイン会場のもうひとつの巨大作品、床から天井まで斜めに貫く5つの円。

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60年代ですね、まさしく。近くで眺めると中央が盛り上がった立体物のように見えるのがオプアート的。

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ル・パルク氏は昔から、14色の色彩のコンポジションを追求してます。この作品は連続した14色のあとに7色を足した、72年制作のもの。

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別部屋で浮遊する、巨大なミラーオブジェ。

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銀座メゾンエルメス フォーラムの格子状ガラス壁を効果的に使った、動くグラフィック。鏡の大きさが小さく分断されているため、自分が映る瞬間があっても気になりません。

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今回の展示をル・パルク当人が解説する動画は、なるほどとわかるので必見です。ただ、立ちっぱなしで見るのはしんどい。記事最後のエルメス公式サイトにアップされてる動画を行く前に見たり、どこかに座り(会場内では不可)スマホで見るのがよさそう。

それでは最後に、ガラス壁ステンドグラスのネタバレ(?)です!
エルメスのビルがある交差点の対向側で、制服着た警官が3人いる交番前にしゃがみこんで撮った写真。

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ビル壁全体がル・パルク作品になってます!

8階の展示会場は光を通したこの色だったんですねー、最高です。
ちょうど壁画のてっぺんにあたる位置。
屋外と室内がつながるレイヤー構造の……うんぬんの小難しい話じゃなく、単純に素敵。
ビルに貼る作業を請け負った業者さんも大変だっただろーなー。

実は会期直前の7月から別の作品が貼られていて、10月30日(土)にこちらに入れ替えられました。
会期終了後の12月末まで続くようです。
まぁクリスマスって感じでもないでしょうけど、寒さで首をすくめる冬の眠い目を覚まさせる、銀座・数寄屋橋交差点の期間限定新名所です。

銀座メゾンエルメス

www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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