年収1000万円の落とし穴とは? 知っておきたい「節税のポイント」3選

  • 文:川畑明美
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年収1000万円あれば、都心部のタワマンに住んで高級車に乗る贅沢な生活を送れるイメージがあるだろう。国税庁の民間給与実態調査によると、日本人の平均年収は 436万円だから、多くの人から見たら年収1000万円は超リッチと思うかもしれない。ところが年収1000万円では、「お金持ちの生活」は、送れないのだ。


そもそも年収400万円くらいの方は、手取りで自分の年収を言うのに、1000万円の方は手取りではなく「年収」で表現する。ここに落とし穴があるのだ。税金、特に所得税は「累進課税制度」なので年収が多くなるほど税率が高くなり引かれる所得税も増えていくからだ。


実際の手取り額は扶養している家族によっても変わってくるが、独身の40代で、所得控除は基礎控除のみで計算をすると年収1000万円の手取り額は、722万円程度となる。年収が増えるほど豊かになっていくわけではないのだ。年収1000万円というと、ちょっとしたステイタスを感じると思うが、支出に対する気持ちを緩めては、お金持ちにはなれない。

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まずは税金の仕組みを知ることが重要

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年収が高くても低くても、税金に強くなった方がいい。節税はノーリスク・ハイリターンだ。sefa ozel-istock

年収が1000万円以上の人だけでなく、サラリーマンでも税金には強くなった方がいい。税金の仕組みを考えてみよう。まずは所得税と住民税について理解することだ。所得税は国に支払う税金で、住民税は都道府県が課税する道府県民税(東京都は都民税)と、市区町村が課税する市町村民税(区市町村民税)の総称となる。サラリーマンの場合は、どちらも源泉徴収で給料から天引きされる。所得税は、年収が上がるほど税率があがる累進課税が採用されている。税率は、国税庁のサイトより確認できる。


一方住民税は、所得に関係なく一律10%だ。区市町村民税として6%、都道府県民税・都民税と合計して10%となる。所得税と住民税は、支払うタイミングも違う。サラリーマンの場合、所得税は先払いで大まかに天引きをされ、多く支払ってしまった場合は年末調整で戻ってくる仕組みだ。余り多くはないが、少なく支払っている場合は年末調整で支払う必要もある。


また、住民税は後払い方式だ。給料から天引きされているのは、前年度分なのだ。もしも退職したならば前年分の住民税を退職後に支払うことになる。退職する時は、住民税分を貯めておく必要がある。

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節税のポイントはどこにあるのか?

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節税のポイントは控除にある。控除に詳しくなることが、節税の第一歩だ。marchmeena29-istock

くり返しになるが、日本の所得税は年収によって税率が変わっていく。ところが税率について勘違いしてしまう方も中にはいる。「私の年収は400万円だから所得税が20%で80万円、住民税が10%で40万円合わせて120万円になるのですか?」と、聞かれることもある。でもそんなに支払っていないだろう。


税金は「給与」ではなく「課税所得」に対して支払うものなのだ。課税所得とは、「給与」から「控除」を引いたものだ。給与-控除=課税所得 になる。この課税所得を引き下げるのが節税のポイントとなのだ。節税するには、給与から差し引ける「控除」を最大限に大きくすることだ。例えば給与が400万円で100万円の控除があれば課税所得は、300万円になる。さらに控除が150万円になったら課税所得は、250万円になる。できる限りの控除を利用できれば節税に繋がるのだ。節税のポイント3つ紹介しよう。

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節税のポイントその1
→給与所得控除を理解する

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給与所得控除と所得控除は似て非なるもの。正しく理解することが節税の第一歩だ。kudou-istock

アルバイトでもパートでも、給与を貰っている方には「給与所得控除」がある。自営業者なら必要経費を収入から差し引いてから所得税の計算をするのだが、サラリーマンでは「経費」を差し引くことができない。自営業者の場合の必要経費は、仕入原価や販売経費、光熱費等、事業に関わったとされるものは基本的に該当する。ところがサラリーマンの収入金額は明確に分かるが、必要経費についてお勤めの会社から手当がでていれば経費にはならないし、経費かどうかの線引きも難しい。なので給与を得るために支出したとする経費を正しく算出することができない。そこで自営業者における事業所得の計算との公平性のため、必要経費の代わりに給与所得控除が認められているのだ。


注意したいのは、給与所得控除は、収入が高いほど控除される額の割合が少なくなり、税を多く負担する仕組みになっていることだ。また「給与所得控除」と「所得控除」は名前は似ているのだが性格は異なる。給与所得控除は「無条件に年収から差し引かれる控除」に対して「所得控除」は、一定の条件を満たした人が差し引ける控除なのだ。

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節税のポイントその2
→所得控除が多いほど節税になる

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節税のポイントは、所得控除にある。サラリーマンでも確定申告して税金を取り戻そう。takasuu-istock

所得控除について知ることは、節税にもつながる。所得控除はたくさんあるので一覧は、国税庁のサイトで確認してく欲しい。所得控除はたくさんあるのだが、そのほとんどが会社の年末調整で資料を提出すれば手続きが完了する。サラリーマンが主に確定申告するのは次の3つだろう。


・医療費控除

・雑損控除

・寄付控除


ただし寄付控除に含まれる「ふるさと納税」は、ワンストップ特例を使えば確定申告の必要はない。ワンストップ特例とは、もともと確定申告が不要な人で1年間の寄付先が5自治体以内の場合使える特例だ。寄附した自治体に申込書を送ることで完結する。注意点は、医療費控除などで確定申告をした場合、ワンストップ特例は使えなくなるので、確定申告で忘れずに申告しよう。

確定申告が面倒だという方もいるが、慣れてくれば申告書を作成するのにそれほどの時間は、かからない。戻ってくる税金のことを考えれば時給単価は、かなり高い。確定申告書を提出するだけで、簡単に小遣いが増える感覚だ。確定申告こそ節税の腕の見せ所なのだ。確定申告は、払い過ぎの税金を取り戻すためにするものだと心得よう。

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節税のポイントその3
→ふるさと納税と医療費控除を利用しよう

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医療費控除は10万円以下でも申告できることをご存じだろうか? セルフメディケーション税も考慮しよう。erdikocak-istock

確定申告してでも、絶対にやった方が良いのは「医療費控除」だ。払った医療費が10万円以下でも申告できるケースをご存じだろうか? 総所得金額が200万円以上の方は、(医療費の合計額-保険等の補てん額)-10万円なのだが、総所得金額が200万円未満の場合は、(医療費の合計額-保険等の補てん額)-総所得金額×5%となるので10万円以下でも申告できるのだ。ちなみに総所得金額とは、パートやアルバイトなど収入が給与だけの場合は、給与所得が総所得金額となる。

またセルフメディケーション税も意識しよう。セルフメディケーション税は、対象となるOTC医薬品の年間購入額が1万2,000円を超えていると受けられる。OTC医薬品とは、薬局・薬店・ドラッグストアなどで処方せん無しに購入できる医薬品だ。レシートなどを見ると対象の医薬品かどうか記載がある。ドラッグストアで買い物をしたら、絶対にレシートは捨ててはいけない。もし、医薬品の購入が多い場合は、医療費控除よりもセルフメディケーション税の方が節税になることもある。医薬品を購入した合計から1万2000円を引いた金額が控除額だ。簡単に計算できるので、試算してみよう。セルフメディケーション税制が従来の医療費控除と違うところは、疲労回復薬的なものや湿布薬、ニキビ治療薬、禁煙用の薬品なども対象になっているところだ。

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大学生のアルバイトで親が17万円近くも増税になる?

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大学生の子どもの稼ぎが多いと親の増税につながることも。扶養から外れると痛い目に合う。west-istock

扶養している人が多ければ控除も多くなる。その場合、扶養している方の給与所得によって扶養に入れるかどうかが決まる。ただし一口に扶養といてっても実は2種類あるのだ。「税金の扶養」と「社会保険の扶養」の違いだ。103万円以内で働くというのは税金の扶養を超えないようにすることだ。ただし配偶者は、優遇されていて103万円を超えても「配偶者特別控除」があるので103万円を超えても税金の控除は受けられる。


注意したいのは、専門学校に通う生徒や大学生だ。特定扶養親族になっているからだ。特定扶養親族とは、扶養控除の対象となる扶養親族のうち、控除を受けようとする年の12月31日時点で19歳以上23歳未満の人をいう。特定扶養親族は控除額が63万円と高いので103万円を超えると親の税負担が増してしまう。例えば、親の所得税率が20%の場合、所得税が12万6,000円、住民税は10%で4万5,000円合計17万1,000円税金負担が高くなる。これは、かなり痛い。

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給与所得と報酬の税控除は違う?

最近はパートやアルバイトだけでなくwebライターなどで出来高に応じて「報酬」を受けている方もいるだろう。給与所得と違って「報酬」の場合、扶養に入るには年間48万円以内でないといけない。パートやアルバイトは、給与所得なので基礎控除の48万円にプラスして給与所得控除が55万円あるので年間103万円までが扶養の範囲になる。報酬の場合は、基礎控除のみの48万円が上限なのだ。また、給与をもらうアルバイトとwebライターなどの仕事を掛け持ちしている場合はバイト代+報酬の合計で103万円を超えると扶養から外れてしまう。この点も注意が必要だ。


また、もうひとつの「社会保険上の扶養」は130万円未満の場合のことだ。130万円を超えると、自分で社会保険、つまり年金と健康保険料を支払うことになるのだ。配偶者の場合は、この負担が大きいので130万円を超える場合は収入の点で仕事を選ぶといい。130万円を超えたとしても収入が大きければ、年金も増えるからだ。

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/