気付けば今年もあと少し、注目の映画作品も目白押しだ。いまこそ劇場で観たい3作を厳選!スクリーンの迫力を感じてみよう。
思春期のマジカルなきらめきを、インディーズ映画の雄が描く
『スウィート・シング』

スティーヴ・ブシェミ主演の『イン・ザ・スープ』、クエンティン・タランティーノらとともにオムニバスの一編を担った『フォー・ルームス』などで知られるアレクサンダー・ロックウェル監督。彼の作品が25年ぶりに日本で公開される。
主人公は、愛情はあるがアルコールに依存する父と暮らす姉弟。父が入院し、ふたりは暴力的な男と同居する母のもとへ向かう。しかしある出来事をきっかけに、近所の少年とともに新しい居場所を求めて冒険の旅に出ることになる。監督はこの作品の出発点について、「子どもたちと同じ目線の高さの映画をつくりたかった」と語る。
盗んだ車での逃避行、3人で歩く線路、海辺で瞬く花火、トレーラーハウスで出会った夫婦がごちそうしてくれたキャセロール。過酷な現実の中でもきらめく思春期の時間と感性をスーパー16ミリで撮影し、モノクロでスクリーンに刻み込んだ。「子どもたちの詩に満ちたマジカルな生活が大人の世界と衝突し、摩擦を起こすさまを撮りたかったのです。フィルムには有機的な自然さがあり、時間を超えた夢のような質感がある。それは子どもたちが人生の中で最大限に子どもらしく生きた時間特有の質感でもあります」
姉のビリーの名前の由来でもあるビリー・ホリデイがイマジナリー・マザーとして現れる場面ではカラーに変わり、画面はやわらかな光に包まれる。子どもたちの心に寄り添うように流れるのは、ヴァン・モリソンの『SWEET THING』をはじめとする名曲の数々だ。
「コロナの時代に、特に若い世代が人との交流に困難を感じています。その子たちが愛しあい、一緒にいる姿を観てもらえるのは、素晴らしいことだと思っています」
インディーズ映画の雄として一世を風靡したロックウェル。時を経ていま、クラシカルでありながら瑞々しい新作が公開される意味は、この言葉に隠されている。


『スウィート・シング』
監督/アレクサンダー・ロックウェル
出演/ラナ・ロックウェル、ニコ・ロックウェル、ウィル・パットンほか
2020年 アメリカ映画 1時間31分
10月29日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開。
http://moviola.jp/sweetthing/
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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圧倒的な臨場感で描き出す、幼きゲリラ兵たちが立つ狂気の淵
『MONOS 猿と呼ばれし者たち』

山岳地帯で暮らす、モノス(猿たち)というコードネームをもつ8人の若者。ゲリラ組織の一員として、人質であるアメリカ人の女性博士の監視役を担っていた。しかしひとりが大事な乳牛を誤って射殺したことで、少年少女の間に不協和音が生じていく。サンダンス映画祭でも高い評価を得た、鬼才アレハンドロ・ランデスによるサバイバル・ムービー。ジャングルの闇の奥へと分け入るような、ダイナミックで湿度の高い映像から目が離せない。

『MONOS 猿と呼ばれし者たち』
監督/アレハンドロ・ランデス
出演/モイセス・アリアス、ジュリアンヌ・ニコルソンほか 2019年
コロンビア・アルゼンチン・オランダ・ドイツ・スウェーデン・ウルグアイ・スイス・デンマーク合作映画
1時間42分 10⽉30⽇よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開。
http://www.zaziefilms.com/monos/
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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カンボジア内戦から逃れ、ドーナツ王となった男の濃密な人生
『ドーナツキング』

カンボジアの内戦から逃れ、アメリカへとやって来て無一文からドーナツ店の経営で大成功したテッド・ノイ。ドーナツキングとして君臨した男の波瀾万丈な人生を追いかける珠玉のドキュメンタリーだ。製作総指揮は名匠リドリー・スコット。家族経営で地道な努力を続け、難民たちにも救いの手を差し伸べた男は聖者か、それとも? カリフォルニア州のドーナツ店の90%以上はカンボジア系アメリカ人が経営しているという事実もさることながら、ひとりの男が抱える光と闇の濃密さに驚かされる。
『ドーナツキング』
監督/アリス・グー
出演/テッド・ノイ、クリスティ、チェト・ノイほか
2020年 アメリカ映画 1時間39分
11月12日より新宿武蔵野館ほかにて公開。
http://donutking-japan.com/
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
※こちらはPen 2021年12月号「腕時計、この一本と生きる」特集よりPen編集部が再編集した記事です。