
特別上映やイベントが開催されるスフィアビルのデビッド・ゲフィンシアター。音響はドルビー。Photo by Iwan Baan/Iwan Baan Studios, Courtesy Academy Museum Foundation
ロサンゼルスミュージアム通りの新たなアイコンとして堂々とオープンしたアカデミー映画博物館が一般公開されたのは9月30日。チケットは完全予約制、コロナ禍により人数制限をしており、入館にはワクチン摂取終了証明もしくは72時間以内の検査結果が陰性であることの証明が必要だ。そのためか、映画の街待望のオープニングでも、混雑を感じることがなく安心してゆっくりと展示を楽しめる。
中2階と5階ブリッジでつなぐ二つの建物、サバンビルとスフィアビルを合わせると約28,000㎡の広々とした博物館。本館といえるサバンビルは1〜4階がギャラリー、地下1階がシアター&エデュケーションスタジオだ。5階は未公開だがティールームで、球形のスフィアビル最上階テラスへの連絡ブリッジがある。スフィアビルのデビッド・ゲフィンシアターは1000席を設け、20mの大型スクリーン、オーケストラ席、キャットウォークなど映画の試写会、プレミアなど特別な上映やイベントの舞台にふさわしい。
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サバンビルの一階ロビーは映画の撮影所を彷彿させるがらんと大きな空間で、コンクリートやスチールの建物構造が見えるため、映画の製作現場に一歩近づいた印象を受ける。見上げると上から吊り下げられているのは「ジョーズ」のサメ。3体造られたうち、唯一残っていたものだ。下から見えるのは腹部と鋭い歯だが、エスカレーターを上がっていくと意外と可愛らしい表情や目も見える。
エレベーターを乗り継ぎ近づける「ジョーズ」のサメはブルースと名付けられている。Photo: @uma._kv
展示ギャラリーでは映画製作の歴史や舞台裏、社会的影響などを映画やインタビュー映像上映とともに、台本や写真、機材などを含む歴史的所蔵品、現場で使用された衣装や舞台美術品、ドローイングやオブジェなどの展示で伝える。
博物館のメイン常設展示は「ストーリーズ・オブ・シネマ」で、1、2、3とフロアを変えて展開する。なぜ映画が私たちを魅了するのか、発明以来100年以上映画はどんな影響を与えてきたのか、映画製作の過程をドラマティックにデザインされたギャラリーで体感しながら考える。
ギャラリー1(スピルバーグギャラリー)では映画発明の父と言われるリュミエール兄弟から現代までなんと700本の映画を編集した13分間のダイジェスト映像をマルチスクリーンで上映する。映画ファンなら、何本映画のタイトルを言い当てられるか試してしまう。そしてまだ観ていない映画があれば、さっそくリストに追加しなければと思う。
名作700本のダイジェストをマルチスクリーンで上映し、映画史をストーリーで物語る。
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ギャラリー2は映画に多大な影響を与えた二作品や人物4名をテーマにキュレーションされた部屋から。『市民ケーン』、「ブルース・リー」、「エマニュエル・ルベツキー」、『リアル・ウィメン・ハブ・カーブス(原題)』、「オスカ・ミショー」、「セルマ・スクーンメイカー」。セレクションの理由はお分かりだろうか。ギャラリーではこれらの作品、人物の貢献が凝縮され、映画作品一部の上映とともにその重要性を改めて感じる。

アカデミー賞歴史ギャラリーでは、実際に受賞者に手渡されたオスカー像が円形ギャラリーにずらりと20体並ぶ。本物のオスカー像を目前にできるレアな機会だ。「風と共に去りぬ」のケースからオスカー像がなくなっているのは、言うまでも無く映画が肯定的に描いている奴隷制への現代的配慮からだ。
次の部屋はアカデミー賞授賞式の歴史を語る。有名受賞スピーチがループで上映され、プレゼンターが授賞式で開封する赤い封筒、舞台設計やディナーメニュー、授賞式の衣装なども展示されている。映画が社会運動とどのように関わってきたかの展示も、ブラックライブスマターや#metooを背景に見ると興味深い。

実際に受賞者に手渡されたオスカー像が並ぶアカデミー賞歴史ギャラリー。Photo by Joshua White, JWPictures/©︎Academy Museum Foundation
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続いて、「監督のインスピレーション」ではスパイク・リーのフィルムグラフィーとそのインスピレーションを探求した。スパイクが尊敬してやまない黒澤明監督サイン入りのポスター、ジャズアルバム、プリンスのギター、彼の主張バリバリの衣装やスピーチ原稿などスパイクの世界を垣間見ることができる。

スパイクが愛したモノたちに囲まれ、監督の迫真インスピレーションを実感できる。本人も感嘆と語った展示。Photo by Joshua White, JWPictures/©︎Academy Museum Foundation
ストーリーボードギャラリーで映画のナラティブ、つまりストーリーテリングのテクニックを観たら、『オズの魔法使い』の世界へ。ドロシーの赤い靴や物語に登場する世界観がどのようにビジュアル化されたのか、衣装や舞台美術、舞台美術、意外な撮影技術などで包括的に理解できる。
ギャラリー3は映画作品の世界とキャラクター作りがテーマだ。アニメーションではディズニーに代表されるアニメ作りの歴史をドローイングや模型を展示し、その奥行きと幅の広さを実感する。さらに、現実ではかなわないスペシャルエフェクトの舞台裏と技術の進化、SFやホラー、ファンタジー作品で想像の世界を紡ぎ出す特殊メークや舞台美術、衣装なども間近に見ることができる。『未知との遭遇」、『スターウォーズ』、『ブラックパンサー』などファン必見の展示も見逃せない。「ジョーカー」の映画音楽作曲でアカデミー賞を受賞した作曲家・チェロ奏者のヒドゥル・グドナドッティルのギャラリーもある。

如何に映画の世界を創造するかが見えてくるギャラリーでは「シェイプ・オブ・ウォーター」の半魚人などのモンスターや特殊メイク、衣装などが展示されている。Photo by Joshua White, JWPictures/©︎Academy Museum Foundation
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ペドロ・アルモドバルがアカデミー博物館のために、自ら特別キュレーションしたインスタレーションでは、1984年から2019年までの作品を「ノワール」、「身体」、「セックスと欲望」、「母」といったテーマで括り編集した13のスクリーンで上映する。アルモドバルの世界がどの方向からも迫りくる刺激的な体験だ。

アルモドバル監督の世界観や映画史にどっぷり浸れる展示。Photo: @uma._kv
常設展はほかにヒッチコック作品『北北西に進路を取れ』で使われたラシュモア山の石像を描いた「バックドロップ:見えざる芸術」、映画が誕生するまでの光学技術や装置コレクションを展示する「シネマへの道」、『トーイストーリー』のゾートロープなどがある。
