ファッションの面白さは、その表現にこそ見出せるもの。服をデザインするのも、それをセンスよく組み合わせるのも、自分という存在や伝えたいメッセージを外の世界へと発信する行為だ。今回は、花道家の渡来徹に今季のコレクションから発想を広げてもらった。ジャンルを超えクロスオーバーする、魅惑のセッションをご堪能あれ。








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境界線を溶かし合わせて、順応することの重要性を問う
男女モデルを起用したファッションストーリーに対して、植物を使ったラディカルなアートピースを制作した花道家の渡来徹。彼はいけばな教授者として生徒をもつかたわら、ファッションブランドが手がけるプロジェクトなどにも積極的に参画し、ジャンルやカテゴリーを超えた、クリエイティブな交流を進めている人物だ。
今回の企画では、日々さまざまな問題に直面する現代社会の中で、それでも表現に挑み、ポジティブに乗り越えていこうとするファッションのあり方に焦点を当て、あらゆる環境に順応しながら、力強く生きる都会の植物と姿を重ねた。
「ファッションもいけばなも、自分がなにを表現したいのかという想いを礎としています。この想いを因数分解することで、服や花を選ぶ根拠や動機を認識することができます。自らの意思で選び表現することは、社会との接点を生み出し、今回のAdaptation=順応という言葉につながっていきます。ただ奇抜ななりで目立つのではなく、むしろ他者との接点、あるいは社会との境界線はあやふやに溶かして馴染ませつつ、その上で漏れ出るように自己表現することを理想としています」
今回の企画でファッションといけばなを掛け合わせる際も、従来、渡来が考えるいけばなの境界線を曖昧にしながら、他のクリエイターの表現と呼応するように、その空間に順応させた新しいオブジェクトを生み出した。
「ファッションとの取り組みでは、テーマやコーディネートを受けて、その色や形状をヒントに植物でリアクションを取ることが大概です。しかし今回は、服と植物の双方が、コンセプトに並列でアプローチしていくという新しい試みでした。普段は花器以外の人工物をいけばなに使いませんが、今回は植物との対比として人工物を取り入れたほうが、より明快にアプローチできると考えました。その点が、この企画でいちばんチャレンジングな部分でした。こうした試みに触れることで、いけばなとファッション、双方の愛好者の回遊、シナジーが生まれ、両者が盛り上がることを願っています」
渡来 徹

1977年、千葉県生まれ。2002年からいけばな小原流を学び始める。12年に花道家として独立。19年から拠点を鎌倉に移して活動。著書に『ととのえるいけばな』『EYE OF IKEBANA』がある。
※この記事はPen 2021年11月号「挑むモード、触発するアート」特集より再編集した記事です。