きたっーー!ギルバート&ジョージの巨大作品が「ルイ・ヴィトン 表参道店」の上階に

  • 写真・文:高橋一史

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「エスパス ルイ・ヴィトン東京」で2022年3月6日(月)まで展示予定の、ギルバート&ジョージの連作。

「ルイ・ヴィトン 表参道店」があるビル7階にあるギャラリースペース、「エスパス ルイ・ヴィトン東京」。
すごく天井が高く巨大作品を展示できて、コンパクトなワンルームをむしろメリットにした濃密な空間のアートスペースです。
ここはなんと、入場無料!
エルメスの「銀座メゾンエルメス フォーラム」も入場無料で運営されてますが、資金に余裕があるハイブランドならではの芸術文化をサポートする場なのです。

このエスパス ルイ・ヴィトン東京の2021年10月14日(木)〜2022年3月6日(月)までの展示アーティストが、ギルバート&ジョージ(以下、G&G)。
「おー、今回は有名どころだっ」と思いつつ、私的にG&Gの実物作品をちゃんと見た記憶がないものでワクワク気分でオープン前日のプレスプレビューを訪れました。

作品名は連作の「CLASSWAR,MILITANT,GATEWAY」。
雑に訳すと、階級闘争/過激派/入り口、といったところでしょうか。
拠点とするイギリスで同年にターナー賞を受賞した、脂が乗り切った年である1986年の作品。
マーガレット・サッチャー首相が主導した経済政策「サッチャリズム」によりイギリスで若者の失業率が増大し、
労働者階級出身のミュージシャンたちの政治発言が遠い日本にまで届いた時代であることを思い浮かべると、作品の構成モチーフに合点がいきます。

じっさいに目の当たりにしたらおおむね予想通りではあったものの(大きいサイズで観るとこんな印象だろうな、という予想)、向き合うことでより強くG&Gの表現欲求が感じられました。
それは、“セクシャリティ”。
暴力、死、うんぬんで語られるアーティストデュオですが、私見ではともかく“セクシャリティ”。
さきほどサッチャリズムの話もしましたけど、なにより“セクシャリティ”。

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作品横の人と比べると大きさがおわかりでしょう。このタイトルは「MILITANT」。

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部屋の3面を作品が覆う展示です。もっとも奥の壁は「GATEWAY」。

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両端にはイタリア出身のギルバート・プロッシュ、イギリス出身のジョージ・パサモアが。お馴染みの“本人登場”。

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階級闘争、と名付けられているものの……。

G&Gの闘争は、社会全般や政治問題よりも、セクシャリティ闘争だと思うんです。
(少なくともこの作品では)
へトロな男性は労働者を描くのに(写真撮るのに)、半裸の痩せた美青年(ほぼ少年)をずらりと並べる発想はまずしませんから。
内戦と狂気を痛烈に批判したピカソのゲルニカにはセクシャリティは描かれてません。
この要素を入れちゃうと、言いたいことが鈍って観る人に主題を伝えにくくなるでしょう。
でもG&Gがそうしていることを考えると、彼らのもっとも大きな関心は社会のヒエラルキー構造の問題点にあるのではないと思えます。

G&G自身が常に着ているスーツは、社会が求める「男性はこうあらねばならない」というユニフォーム。
常識という名の拘束。
しかしその一方で、スーツは束縛ゆえの強いセクシーさも併せ持っています。
ファッションデザイナーのトム・ブラウンが執拗にタイトフィットなグレースーツをつくり続けることにも通じる感覚。
反感と同時に魅力も感じる、二律背反な存在。

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登場する若者は80年代的であり、50〜60年代的でもあります。

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作品を直接目にして、人物が身につけている服装の細部まで眺められました。服装にこだわりの強いG&G作品では大切な要素な気がします。

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このように作品内にタイトルが。なお人物たちは様々な種類の靴を履いてます。それが意味するところは低能な私の頭では読み取れず……。

半年近く、表参道に行けばいつでもフランス本国の財団「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」の所蔵品であるこの作品を気軽に観られるのは、エスパス ルイ・ヴィトン東京のありがたさ。
会場手前スペースでの、フォンダシオン ルイ・ヴィトンでG&Gの初期作品展が開催されたとき(19年)の当人たちへのインタビュー映像も要チェックです。
老齢になったふたりの様子を5分45秒でさらりと知れますから。

All Photos:KAZUSHI

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。