多様化するエンタメの楽しみ方と、進化するデジタルサービス

  • 文:ローレン・ローズ・コーカー

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3回目となる今回は、多様化し続けるエンターテイメントビジネスの最新動向についてお話します。

エンターテイメントビジネスにおいて、世界的に圧倒的なコンテンツ力を持った会社が昔から存在しています。有名な映画に関しては、『ゴッドファーザー』や『マトリックス』から最新作まで、ほどんどがハリウッドにある大手スタジオのコンテンツです。音楽の場合は、メジャーレコードレーベルが「ビートルズ」や「マドンナ」といった世界的なアーティストの有名な曲を基本的には保有しています。

このような魅力的なコンテンツを持つ会社が消費者に影響を与え 、消費行動をも決めていると言っても過言ではありません。しかし、最近ではそのような大手コンテンツホルダーの影響力も薄れてきています。

既にご存知の方も多いと思いますが、映画やドラマのような映像エンタメコンテンツでいま最も大きいなプレイヤーはNetflix、続いてアマゾンプライムビデオ、hulu、Apple TV+といったサブスクリプションサービスです。音楽コンテンツも同様にサブスクリプションモデルが中心になりました。これらのコンテンツ配信プレイヤーはすべて、コンテンツを持っている会社から生まれたのではなく、テック系の会社から誕生しています。

たとえば、Netflixはもともとテック系の人が立ち上げたスタートアップで、ハリウッドのような映画産業の中心地からできた会社ではありません。テック系の会社として、ビデオのDVDレンタルをインターネット経由で受け付けるというコンセプトでサービスをスタートさせ、DVDのサブスク・モデルになり、それからDVDではなくオンラインでコンテンツが見れるようになり、その後、現在のビジネスモデルとなるオリジナルコンテンツの事業が始まりました。

少し前までは、Netflixやアマゾンのような企業がハリウッドのトップクリエイターと独占契約をしてコンテンツ事業を展開していましたが、最近はハリウッドスタジオ(例えば、「007」や「ロッキー」を手がけた大手映画会社MGM)をそのまま買収するなどしてニュースになりました。

では、なぜここまでコンテンツの提供方法が大きく変わったのか? それは消費者のエンタメコンテンツの楽しみ方が変化し、大きなパワーとなったからです。映画館やテレビなど、決まった場所や時間帯にコンテンツを見るだけではなく、スマートフォンやパソコンなどから、いつでもどこでもコンテンツを楽しめるようなサブスクサービスがメインストリームになって、Netflixの有料会員数は、昨年2億人を超えたと言われています。

音楽業界でも同じような傾向があり、近年ではサブスク音楽配信サービスがメインとなりました。世界最大手の音楽ストリーミングサービスを提供するSpotifyでは、今年7月の時点で月間利用者数が3億6500万人になり、その内有料会員登録をしている方は4割にも上ります。Spotify以外にもApple MusicやAmazon musicなどもストリーミングサービスを展開しています。

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弊社も去年はプレミアム会員のサブスクサービスをローンチしました。詳細はこちら。https://zaiko.io/premium/landing

映像と音楽のサブスクリプションビジネスは似ているところも多いですが、ビジネスモデルには大きいな違いが2つあります。

ひとつ目は、オリジナルコンテンツの有無です。映像コンテンツを配信するNetflix、Amazonではユーザーを取得するため、戦略としてオリジナルドラマや映画を制作したりしています。一方、Spotifyなどの音楽を配信するサービスでは音楽のオリジナルコンテンツの制作と配信はありません。どこのサービスでも、ほとんど同じ音楽コンテンツになります。Spotifyでは、「Podcast」というインターネットラジオ番組のような、いわゆるオリジナルコンテンツもありますが、それはほんの一部に過ぎません。音楽配信サービスのユーザー取得の戦略としては、コンテンツというより、UI/UXに関わるサービスの使いやすさになります。

ふたつ目の違いは上記と関係があります。音楽配信サービスはオリジナルコンテンツがない代わりに、大手レコード会社からライセンス契約を結ぶことが優先になり、早く契約を締結できるように資本提携や株を提供することになります。Spotifyの場合は、各メジャーレコードレーベルがSpotifyの株主になっています。日本では「LINE MUSIC」というサービスが同じような構図で、ユニバーサルミュージック合同会社やエイベックス・デジタル、ソニー・ミュージックエンタテインメントが出資していることが発表されています。このような資本関係を構築することで、音楽コンテンツのライセンスが取りやすくなります。

また、音楽の場合は作品を提供するためのフォーマットの変化が激しいですよね。

CDは1982年から生産が開始され、当時主流であったカセットテープを超えました。その後1991年には、MP3という音声圧縮技術を用いたオーディオ・ファイルにシフトしましたが、その汎用性から転送などが簡単にできるようになったため、違法ダウンロードが問題として浮かび上がりました。

その解決策として2003年にiTunesでダウンロードストアがローンチし、徐々に世界の音楽ダウンロードのスタンダードになりました。その次のモデルがSpotifyのようなサブスク音楽配信サービスです。アメリカでローンチされたのは2011年でした。

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1982年から1991年、2003年から2011年、約10年に一度のペースでコンテンツを提供するサービスフォーマットのイノベーションが起きています。。ということは今年2021年、Spotifyの次に用いられるようなモデルが出てくるはずです。それはもしかして今年の最大トレンドになっている、「エンタメテックのNFT」なのではないかと私は思っています。それについては次のコラムでお話します!

1986年、アメリカ生まれ。2008年にシカゴ大学卒業後に来日し、キョードー東京に入社。2013年よりソニー・ミュージックにて新規事業や渉外を担当。19年1月に仲間と「ZAIKO」を設立し、取締役COOに就任。同年からは内閣府知的財産戦略本部の構想委員会委員を務める。

1986年、アメリカ生まれ。2008年にシカゴ大学卒業後に来日し、キョードー東京に入社。2013年よりソニー・ミュージックにて新規事業や渉外を担当。19年1月に仲間と「ZAIKO」を設立し、取締役COOに就任。同年からは内閣府知的財産戦略本部の構想委員会委員を務める。