後部座席を提供するためにこそ、存在しているクルマ
赤坂のロールス・ロイスのショールームに行ったときの話。居ならぶ壮麗なラインアップのなかにあって、ひときわ目をひいていたのが旗艦モデルである「ファントム」だった。その名の通りラスボス感たっぷりの怪人(ファントム)を思わせ、フルサイズSUVの「カリナン」と並んでも別格の風格を備えている。
実際に新型「ゴースト」を目当てにショールームに来たはずのお客さんが、ファントムに心を奪われオーダーするケースもあるとのこと。これって新進気鋭のアーティスト目当てにフェスに足を運んだにも関わらず、やっぱりヘッドライナーであるカニエ・ウエストに全部もっていかれるのに似ていると思ったのね(笑)。つまり、どうにも格が違う。
ハマチとブリを並べるとどうしてもブリが偉そうに見える出世魚の法則から、超高級車は超高級車ゆえに逃れられないヒエラルキーなのかと考えていた。とはいえ、新型ゴーストに乗らないでファントムに決めてしまったオーナーの心中を察すると、その判断は正しかったのか、心残りなのか気になるし、万が一自分も同じ立場なら同じ迷いをショールームで抱いてしまうのではないか、という不安を感じたんだ(笑)。どちらを選ぶにせよ迷いは禁物。ロールス・ロイスは明鏡止水の心持ちで選びたいもの。
その結論はもちろん決まっている。自らハンドルを握りたいなら新型ゴースト、ショーファーとして後ろに乗るならファントムということになる。これは鉄則だと感じたんだ。ファントムのホイールベースが長いリムジンタイプはオーダーメイドの幅も広いし、静粛性や乗り心地もひときわ突き抜けている。貴方が後部座席の住人なら迷わずファントムを選ぶべきなんだ。
後部座席に身を埋めると運転席との間を隔てるオーダーのセンターパネル もあいまって、濃密な静けさに圧倒される。使用される遮音材はトータルで130kgにもなり、窓は2重のペアガラス、さらに静粛性にすぐれたタイヤをはき、フロアをはじめ各所に発泡素材が充てんされるから、ほぼ完全に外部と隔絶された世界がつくられる。
後部座席に乗りファントムが動き出す瞬間は、劇場の幕が開くのを待つ期待感が最高潮に達したときに近い。2.7トンを超える重量が路面をならすように走り出し、速度を上げるにつれ潮が満ちるような大いなる力が働いて、後部座席の乗員を包み込む。
走りだせばよりいっそう濃密になる静謐さに慣れてきた頃には、一枚の大きな絵の前に立っているような感覚の時間が訪れだす。さえわたった意識のまま深い眠りについているような、移動を快適にすること以上の意味こそが、ロールス・ロイスが考え続けてきた到達点に他ならない。ファントムとはオーナーにこの後部座席を提供するためにこそ、存在しているクルマな訳。
確かにハンドルを握れば、新型ゴーストのステアリングインフォメーションの驚異的な明瞭さにはほど遠いし、エアサスの柔らかさが過剰にも感じられる。けれどもアクセルを踏めば2.7トンの重量と6.75リットルのV型12気筒エンジンのかもしだす豪放さが、大海に乗り出す巨大客船のような気高さを生む。車体の先端で輝く女神(スピリットオブエクスタシー)は輝かしい未来を指し示し、後部座席の住人を「無事に目的地に連れていきたい」というドライバーの崇高な意志やプライドを刺激するんだ。
変速マナーは、まるでベテランドライバーのそれで、乗員に負担をかけないようにマネージメントしているから、求められるままに車線の左側を悠々と走る。まるでサン・テグジュペリの『夜間飛行』のように、ドライバーの使命感を満たすだろうコックピットで流れる時間も世界最高峰と断言したいね。
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ロールス・ロイス ファントム エクステンデッド
Rolls-Royce Phantom Extended
サイズ(全長×全幅×全高):5990×2020×1645mm
排気量:6,749cc
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
最高出力:571PS/5,000rpm
駆動方式:FR(フロントエンジン後輪駆動)
車両価格:¥67,800,000~
ロールス・ロイス・モーター・カーズ 東京
TEL:03-6809-5450
www.rolls-roycemotorcars.com