走り始めると、ノーマルやMシリーズとの違いが、はっきり現れる

ドイツBMWの公認エンジニアとして独自のハイパフォーマンスモデルを生産する「アルピナ」。50年以上の歴史をもった独立資本のメーカーであり、社主であるブルカルト・ボーフェンジーペンがエンジニアとして自らクルマづくりの最前線に立っていた。
特徴をひと言でいえば「速くて快適なハイエンドモデル」。年間1700台程度の生産規模で、速さと快適さを高次元でバランスさせるクルマづくりは希少にして貴重。サーキットを意識した過激な方向のMモデルと比較すると、立ち位置が見えてくる。原曲の骨格を失うことなく、ときに大胆にリフレインを組み替え、細部に磨きをかけて魅力を引き出す有能なリミキサーのような仕事がアルピナの真骨頂と言えるかも。
今回試乗したD3 Sは3ℓ直列6気筒ディーゼルエンジン。ガソリンエンジンのB3とともにチーフエンジニアがブルカルトの息子であるアンドレアスに移譲された最初のモデルなのね。走りはじめるとベースであるBMW3シリーズやMモデルとの違いが、割とはっきり現れる。
まず4輪の接地感があって路面をしっかり捉える走りが特徴的。ひとつ目のコーナーを曲がる頃にはアイバッハ社製スプリングを組み込んだしなやかなサスペンションのいなし方に思わず感嘆の声が出る。かたい乗り心地になりがちなランフラットタイヤをあえて履かない理由もわかろうというものですよ。ドライブモードでいうとD3 Sがピカイチよいのは“コンフォート”モード。直列6気筒ディーゼルのよさを活かしながら、静粛性に優れ、品のよい足回りがドライブフィールを押し上げている。まるでフランス車のように陽性で、街乗りから高速まで毎日乗りたい快活さにあふれているんだな。
直列6気筒ディーゼルにアルピナ初となるマイルドハイブリッドシステムを付けて、低速時のパンチを効かせる。かつ研ぎ澄まされた高回転時の伸びのよさもあり、頭打ち感を感じさせない気持ちいい吹け上がり。段差のあしらい方も実にスムーズで、バネ式サスで得られる最高峰クオリティの足回りと言えるはず。
さすがにワインディングでは“スポーツプラス”モードを選んだものの、ガソリンエンジンのB3とまったく同じ弱アンダー傾向の素直なステアリング特性だったのには驚かされた。背後に見えるんだよね。「理想のアルピナらしさ」とはなにかを主張するマイスターの存在が(笑)。
ちなみに、ガソリンエンジンのB3は、ドライブモードをスポーツプラスに固定したほうが好ましい。サーボトロニックで舵角を狭めたきびきびとした走りで、アルピナが追求した直6ガソリンエンジンのクールな色気を堪能できる。つまりアルピナ社ひとりのマイスターによってふたつのハイコンテクストな世界観が成立しているのね。音楽にたとえるなら「D3 S」はキングヌーで、「B3」はミレニアムパレードって感じ(笑)。
ディーゼルエンジンには乗り手を選ばないオープンなアピール、ガソリンエンジンには限界性能に飽くなき探求精神が宿る。語るべきストーリーもよりコントラストが際立つんだな。
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BMW アルピナ D3 S ツーリング
BMW Alpina D3 S Touring
サイズ(全長×全幅×全高):4720×1825×1470mm
排気量:2992cc
エンジン:直列6気筒ディーゼルハイブリッド
最高出力:355PS/4000-4200rpm
駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
車両価格:¥11,170,000(税込)
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