オーナーより長生きする、スポーツカー

  • 文:多田潤
  • 写真:谷井功
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先のコラムで「ポルシェが生産した車両の約70%はいまも路上を走っている」ということを紹介しました。長生きするクルマは、ポルシェだけではありません。

居間に飾られていた、トヨタ2000GT

写真は、オリジナルの状態で大切に保管されてきたトヨタ2000GT。1970年式ですから後期型で生産台数30台とも言われる希少なグリーン(アトランティスグリーン)の塗装。いわゆるバーンファインドと呼ばれ、愛好家にはたまらない一台です。このクルマは驚くべきことにオーナーの死後、自宅の居間で発見されたクルマです。オーナーは自宅の完成とともに居間にこのクルマを運び込み、以来31年間このクルマを眺めて暮らしてきたそうです。詳細は以下のオクタンの記事に譲りますが、路上を走ることもなく、実寸のプラモデルのように飾られていた状態を考えると、もはや家族のような存在だったのでしょう。クラシックカー専門のショップに引き取られ、新オーナーはレストアすることなく、清掃やメンテナンスをし、できるだけオリジナルの状態で所有していくそうです。

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フロントガラスに貼られた車検証ステッカーの大きさが懐かしい。ナンバーも2ケタの昭和世代。オーナーは驚くべき量のスペアパーツを保管していました。

「何があった?」31年間をリビングで過ごしたトヨタ2000GT

通常どんなクルマでも使用すれば、くたびれてきます。現代のクルマなら毎日使って約10年。だいたいこのくらいで買い替えを意識するでしょう。その間のガソリン代や税金、保険代、駐車場代などを考えると相当なものです。

ところが、最近では古くて希少なスポーツカーであればあるほど、値段が上がる傾向にあります。以前は見向きもされなかった悪い状態でも、レストアを施され、新車のように蘇るクルマが増えています。そんな流行もあって「愛着のあるクルマは長く乗る」というマインドが世界中に広まっています。EVのパイオニア「テスラ」は、サステイナブルを理由にモデルチェンジをできるだけ行わないことを公言しています。まだ車種も少ないので、どこまで本当なのかは疑問でもありますが。

定期的に買い換えるユーザーがいることによって自動車は進化し、自動車産業も繁栄してきました。でもそんなビジネスモデルも転換期にきています。充分過ぎるほどに進化した性能にサステイナブルを考えたライフスタイル……これからの自動車は、人より長生きして次の世代に受け継がれる存在になるかもしれません。そんな自動車には愛着のわく個性こそが、重要な性能になるのかもしれません。

多田 潤

『Pen』所属のエディター、クルマ担当

1970年、東京都生まれ。日本大学卒業後、出版社へ。モノ系雑誌に関わり、『Pen』の編集者に。20年ほど前からイタリアの小さなスポーツカーに目覚め、アルファロメオやランチア、アバルトの60年代モデルを所有し、自分でメンテナンスまで手がける。2019年、CCCカーライフラボよりクラシックカー専門誌『Vマガジン』の創刊に携わった。

多田 潤

『Pen』所属のエディター、クルマ担当

1970年、東京都生まれ。日本大学卒業後、出版社へ。モノ系雑誌に関わり、『Pen』の編集者に。20年ほど前からイタリアの小さなスポーツカーに目覚め、アルファロメオやランチア、アバルトの60年代モデルを所有し、自分でメンテナンスまで手がける。2019年、CCCカーライフラボよりクラシックカー専門誌『Vマガジン』の創刊に携わった。